第21話
基礎支柱を切り離した瞬間支柱の基礎部分諸共隆起し俺たちの乗っている小型船が吹き飛ばされた。
吹き飛ばされ、ぐるぐると回転しながらも小型船は自動で資源衛星の表面を下にするよう姿勢の制御をはじめる。
小型船の中でも床に叩きつけられた留依たちが必死にシートなどに掴まってこれ以上叩きつけられないようにしている。
かろうじて態勢維持していた俺はなんとか画面で外で何が起きているのかを見ることができた。
外では隆起した資源衛星の基礎部分が先ほど切り放された3番艦に続いている支柱にぶつかるところだった。
隆起し、ほぼ直角に近いまで持ち上がった資源衛星の元地面である基礎部分は3番艦につながっている支柱部分にぶつかると支柱をぐにゃりと折り曲げた。
ぶつかったことで元地面は衝撃で崩壊しバラバラとデブリと化し勢いのまま辺りに降り注ぐ。
デブリはそのまま俺たちの乗っている小型船にまで降り注ぎシールドに衝突しガンガンと音を立てている。
幸いシールドを壊すほどのモノではないが、未だ安定しない小型船への衝撃には恐怖を感じざるを得なかった。
デブリが当たるたびに小型船は揺れ、さらに吹き飛ばされたことで限界まで伸びきった電源ケーブルは破断しその衝撃で再び小型船に強い衝撃を受ける。
ついには資源衛星の表面に衝突し、その瞬間に小型船のシールドの崩壊音が響く。
その後も小型船は資源衛星の表面をゴロゴロと転がりバウンドし、ようやく船が停止した。
「皆様ご無事でしょうか?」
ミカミの声が聞こえる。
最初のころは何とか態勢を維持できていたが途中からは維持できずシートに掴まっているだけで精いっぱいだった。
もちろんモニタを見る余裕もなかった。
「ああ、なんとか。皆は?」
起き上がりながら辺りを見ると皆が床に倒れている。
「あたしは大丈夫です。」
「ヤバかったスねぇ……。」
「あれは予想できませんよ……。溶断機ダメにしちゃったかなぁ。」
のそのそと皆が起き上がってくる。
どうやら無事のようだ。
防護服のシールドがしっかりと機能してくれたようだ。
「司令部からも通信が入っております。繋ぎます。」
「……こちら司令部、無事ですか?!」
司令部からの通信は総司令ではなくオペレーターだ。
直視装置は着々と支給されて行っているようだ。
「何とか無事です。……資源衛星との分離はどうなりました?」
「こちらで資源衛星と3番艦の分離の確認をしました。不幸中の幸いというか、3番艦の回転が収まり姿勢の安定も取り戻しつつあります。どうやら最後の支柱との衝突の反動で勢いが相殺されたようです。」
「ふー……それを聞いて安心しました。3番艦の方はもうこれで問題はなくなったと見て良いですかね?」
「艦の姿勢と軌道自体はそうだと思います。急激な艦の挙動で居住区などは大変なようですが。」
「それは心配ですね。資源衛星と小型船に問題が無さそうならそちらに救援に向かいましょう。」
「そうしてください。こちらの方は順調ですのでお任せください。」
「了解です。こちらも行動を開始します。」
通信が切れると司令部からミカミへと資源衛星の軌道とその修正概要が送られてくる。
3番艦との分離のタイミングが良かったようで多少の軌道修正でウィリデへの落下はは回避できそうだ。
瑠亜さんは小型船の損傷のチェックを始める。
俺と留依がその手伝いだ。
瑠亜さんの指示の下、小型船から外へ出て船体各所を確認して回る。俺が船外、留依が船内だ。
損傷チェックの結果、小型船は途中まで資源衛星からの電力が供給されていたことでシールドが維持され続け船体の損傷は軽微とのこと。
ただし、吹き飛ばされた際に溶断装置の船首側が完全に喪失。根元から無くなり、船尾側も溶断機能自体は無事ではあったがフレキシブルな運用は不可能との事だった。
とはいえ、さすがに残す作業は軌道修正のみなので溶断装置を使う事はないだろう。
育波さんはさっそく資源衛星にある各所のカメラの映像を巡回し資源衛星の管理運用棟までの安全の確認をしている。
船体のチェックを終え、船内に戻ろうと移動し始める際に頭上の3番艦をふと見る。
「3番艦が離れていくな。」
ふとこぼした俺の言葉に留依が反応する。
「何とかなりましたねー。大変でした!」
徐々に2番艦の軌道から離れていく3番艦を見ながら留依の明るい声を聴くとひと段落着いたと感じで気が緩みかける。
いや、こういう時こそ気を引き締めないとな。
「大変だったけど最後まで気を抜かずに進めないとな。」
「そうっスよー!遠足は帰るまでが遠足っス!」
ケラケラと笑いながら育波さんも会話に参加してくる。
「あたしは溶断装置が壊れたのがショックですよ。可愛がってたのに!」
あれって可愛がるようなものなのか?
いや、エンジニアっていう人はこういうものなのかな。
「おっと、早いところ船内に戻って運用棟まで行かないとな。」
「お早いお帰りをお待ちしております。」
「それはワタクシのセリフです。取らないでいただけますか。」
「メイドですからあたしでもいいんですよ!」
「いや、ミカミはむしろ俺についてきてる形だから待たれる側だろう?」
「そういえばそうですね。」
「いっそこのまま出発するっスか?隊長にはそとでしっかりと掴まってもらって。」
「そんなことしたらあたしが違反切符切られるからやめてくださいよ!」
そんな冗談の言い合いを聞きながら小型船の出入口を目指し資源衛星の表面を慎重に移動していく。
不意に目の前が歪んだ気がした。
辺りを見回しても特に変化はない。
「ん?なんだ?」
「どうかしましたか?」
「いや、なんか、めまい?をした気がして。」
「伶旺様のバイタルは特に問題はなさそうですが。」
「ほとんど休みなしで動いてますから疲れているんじゃないですか?」
「これが終わったらゆっくり休んでくださいよ?」
「それは留依もそうだし、ここにいる全員だな。」
「あははっ!そうですねー。」
小型船の出入り口まであと少しというところでもう一度3番艦を見上げる。
先ほどよりもさらに小さくなっていく3番艦が……。
歪んだ。
グニャグニャと物質が実際に曲がったというよりは光が歪む感じだ。
いや、空間が歪んでる?!
「みんな!3番艦が!」
咄嗟にそう叫んだ時にはすでに異変が大きくなってきていた。
徐々に3番艦の歪みが大きくなりその中心から光があふれていく。
!!!
俺を含めた全員がその光景に声も出ない。
その光が大きくなり辺り一帯を飲み込む。
光が収まり辺りを見回す。
先ほどまで3番艦の居た所には何もない。
「消えた……?」
思わずそんな言葉が漏れた瞬間凄まじい衝撃が降りかかってきた。
防護服の緊急モードが発動し、防護服のシールドが限界値まで引き上げられると同時に資源衛星の表面に叩きつけられるような形になる。
防護服、しかもシールド強度も限界まで引き上げられているにもかかわらず押しつぶされそうになるほどの重圧。
その圧力によって資源衛星の表面を滑るように吹き飛ばされる。
小型船も一緒に吹き飛ばされているが、小型船は重力制御によって資源衛星の表面に吸着しているので吹き飛ばされ方は緩やかだ。
俺自身はどんどんと小型船から引き離される。
その圧力は声を上げることも息をすることもできない。
通信機からは小型船内で留依たちの悲鳴が聞こえる。
その衝撃は小型船内に居ても凄まじいようだが、声が聞こえている以上まだ彼女らが生きている証でもある。
そして声を出すこともできない俺の状況よりも幾分かはマシな状態であることに安堵してもいた。
ミカミからの反応もない。
なんとか目線をヘルメット内のディスプレイに向けるがAIとの通信はロスト状態になっていた。
何がどうなっている!
徐々に焦りが出てきたころ上からの重圧が和らいでいく。
が、安心する間もなく今度は上空へ、先ほどまで3番艦のあった場所の方へ引き寄せられるような、先ほどの衝撃とは逆方向への圧力がかかる。
うつ伏せ状態で倒れている俺は今度は上方への衝撃で資源衛星の表面から投げ出される形になった。
ポーンと資源衛星の上方へ投げ出されるような形だ。
資源衛星自体は未だ回転している。
故に表面から投げ出されてしまうと資源衛星上の構造物などに衝突する可能性がありとても危険だ。
さらに都合の悪いことに先ほどシールド強度を限界まで引き上げたせいで防護服は生命維持モードになり、電力不足のためにシールド以外の機能はほぼ無いような状態だ。
電力の回復まで自力での表面への復帰は難しい。
通信も現在は救難信号の発信のみだ。
資源衛星の表面から投げ出され、資源衛星の上を流されながら付近を見回しても小型船の位置が分からない。
かなり小型船から離れてしまったと見ていいだろう。どれだけ流されているのか全く見当もつかない。
切り放した基礎支柱の接続部分はかなり大きな目印になりそうだったがそれも見当たらなかった。
今の俺には何もできる事が無かった。
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