第20話


破損してしまった基礎支柱を溶断することで3番艦と資源衛星の切り離しを行い、最低でも3番艦のウィリデへの落下を阻止したいのだがどうもよくない事が起きているようだ。


基礎支柱3つを同時に切り放せていたら何ら問題なかったのだが、1つは支柱の破損により切り離しをすることができていなかった。

切り離しをすることができなかった支柱に資源衛星と3番艦の回転による圧力が集中してしまっている可能性がある。

集中してしまった圧力によって資源衛星の接続部分に大きな負荷がかかっていてそれが振動となって出てきたのかもしれない。


「悪い。瑠亜さん溶断をちょっと待ってくれないか。」


小型船の中へと退避し早速基礎支柱の溶断を始めようとする瑠亜さんに待ったをかける。

ミカミは先ほどの俺の発言の解説を求め騒がしいがそれはひとまずスルー。

全員に先ほど俺が予想した振動の事を説明する。


「……なるほど、ありえますね。しかしそうなると支柱の切断時に起きる切断破裂も大きくなる可能性がありますね。」

「瑠亜ちゃん、船のシールドで防げるんだよね?」

「うーん……どうだろう。電源も確保できたし元々シールド強度は最高まで上げて作業するつもりではあったけど……同時に溶断方向と溶断速度には気を使った方がいいかも。」

「支柱の切断破裂以外には何か起きる可能性はあるんスかね?支柱の基礎部分とか?」

「そっちは分からないなー。流石に基礎支柱の基礎部分なんて大手さんの仕事だから簡単に壊れるとも思えないけどね。」


瑠亜さんの言う”大手さん”というのは大手の土木事業者の事だ。

といっても移民船団自体全部で10万人程度の人口なので大手の仕事は土木工事の設計や中小の土木事業者のとりまとめのような部分が大きい。


「そうなるとやってみないと分からないって事か。」

「ですねぇ。1番艦の事業関係者に作業の様子を見てもらいつつできればいいのですけど。」

「あっちはあっちで人手が足りてないみたいだからな。難しいだろう。2番艦の姿勢制御が最優先だしな。」

「3番艦と資源衛星との衝突は”可能性がある”のに対して2番艦の姿勢制御はやらないと”確実に”ウィリデに落下ですからね……。」

「それでも一応映像データだけでもあっちに繋いでおいて作業するっていうのはどうっスか?」

「……まぁ、そんなところだろうな。手が空いていれば何かアドバイスなりしてくれるだろう。ミカミはその相手との橋渡しだな。そういった方面の方が得意だろ?」

「はい。承知しました。ワタクシの不手際で事態が悪くなってしまったようで申し訳ありません。」

「気にするな。お前は秘書AIだ。こうなるなんて予想できなくて当然だしな。よくやってくれてるよ。」

「ありがたいお言葉ありがとうございます。今後は専門外の知識も大いに得ようかと存じます。」


ミカミに責を負わせたくないので言及はしなかったのだが、ミカミは察してしまったようだった。

普段よりも言葉に元気がないが、前向きな言いようを見るにすぐに立ち直ってくれるだろう。


ミカミには司令部との連携を改めて任せ、瑠亜さんは作業に取り掛かる。

育波さんは可能な限り多くのカメラから作業の様子を捉えている。


いざ溶断が始まる。

支柱の溶断が始まると黄色い火花がカメラを通じて画面いっぱいに広がる。

映像は光量を抑えているにもかかわらず眩しく感じるくらいだ。


溶断が進み、「ガンッ!」と大きな音と衝撃が船内に響く。


「来たっスね!いきなりシールド剝がれたっス!」

「まだ大丈夫!この船は3枚シールドが重ね掛けしてるからね!」

「乗り物サイズのシールドだと”ガンッ!”っていう音になるんですねぇ。」


支柱を構成している”綱”が弾け、小型船のにぶつかった衝撃だ。

その衝撃で簡単に小型船のシールドが剝がれてしまった。

とはいえこの小型船にはシールドが3枚あるので1枚剥がれてもすぐに船体そのものに被害が及ぶことはない。

しかも資源衛星から直接電力の供給がなされているので剥がれたシールドも瞬時に回復する。


留依は俺を絞め落とした時に防護服のシールドが壊れる時の音を思い出したのだろう、少しピントのズレた感想を言っていた。


その後も溶断が進むごとに船体には切断破裂で弾けた支柱の一部がぶつかり続け、その度にガンガンと音を立てシールドに衝撃が加わる。

幸いその切断破裂の多くは船のシールドを剝がすほどのものではなかった。


「切断破裂の方向が把握できて来たんで切断速度を上げていきます。」


瑠亜さんの宣言からさらに溶断の速度が上がっていく。

当然小型船にぶつかる支柱の綱部分も多くなっていくが、最初にシールドが剥がれたほどの衝撃はなく、基礎支柱を構成している3本の支柱の内1本の切断が終わる……。


が、その最後が衝撃的すぎた。

支柱との繋がりが切れた瞬間に”綱”部分が小型船とは逆方向に大きく爆ぜたのだが、爆ぜた先の残っていた基礎支柱の2本の内1本にぶつかると、そのぶつかられた方の支柱が”たわんだ”のだ。


ちょっとやそっとでは動いたりしない支柱がたわむほどの衝撃だ。

もしあれが小型船に当たっていたらシールドが3枚あろうと一瞬で小型船は粉々だった事だろう。


「マジか……。支柱がたわむなんてな……。」

「もうすでに歪んでるから頭では”そういう事もある”のは分かりますけど、これはちょっと……。」

「溶断方向間違ってなかった!あたしグッジョブ……。」

「流石のボクもドン引きっスよ!あと2本あるっスよね?」

「ワタクシ本気で専門外の知識を得ようかと存じます。」


皆それぞれその光景の感想が漏れる。

が、育波さんが言うようにこれで終わりではない。

あと2本残っている。


「より一層慎重を期さないと、ですねぇ。」

「瑠亜さん頼みます。」

「それじゃ行きます。」


瑠亜さんが2本目の溶断に取り掛かる。

今度も1本目と同じように歪んだ支柱の凹部分から切断していく。


先ほど同様小型船にはガンガンと切断破裂した支柱の一部がぶつかる。

1本目より衝撃も少なくスムーズに進み最後の、完全に支柱が切れる所になる。

ふーと息を整え瑠亜さんが2本目を完全に切断する。


今回は先ほどのような大きな切断破裂は起こらなかった。

この場にいた全員はほっと胸をなでおろしす。


「歪みが大きかった分圧力が逃げてたんスかね?」

「かもしれませんね。緊張しましたよ。」

「ご苦労様。あと1本です。」

「ですね。あともう一息、頑張りますか。」

「ミカミ、司令部からは何かあるか?」

「特には無いようです。あちらもこちらの作業自体は見ているようですが、順調だとの認識のようですね。」

「そうか。で、あちらの状況は?」

「あちらも順調のようです。やはり2番艦のコリドールの位置調整が少々手間のようでして、こちらには中々手が回らないようですね。」


2番艦の姿勢制御もひとまず順調のようだ。

こちらももうひと頑張りだ。

瑠亜さんが残り1本の切断に取り掛かる。


3本目もこれまでと同様に切断破裂した支柱の一部が小型船のシールドにガンガンぶつかり衝撃が走るが、これまでの切断経験から小型船にぶつかる衝撃を小さくしていた。

しかし、徐々にシールドにぶつかる衝撃以外の何かが船体を揺らす。


「なんだ?いったん作業を止めた方が良さそうか……。」


支柱の切断を始める前に俺が感じた資源衛星からの振動を思い出し作業の中断をしようかと思ったのだが……。


「いえ、一気にやってしまった方がいいと思います。」


瑠亜さんは一気に切断した方が良いと考えたようだ。

確かに資源衛星の振動自体が───推測ではあるが───半端に資源衛星と3番艦とが繋がっている事が原因なのなら切断してしまえば収まるはずだ。


振動も徐々に大きくなってゆき、全員の焦りの色が濃くなっていく。


「……これで!切れた!」


瑠亜さんが基礎支柱を構成する3本の支柱を全て切断した瞬間それは起こった。

資源衛星側の基礎支柱の接続装置部分の基礎部分、小型船が停船している辺りを中心に50m位が隆起した。


モニタから見えた光景は衝撃的だった。

資源衛星の表面と3番艦の底面を映していた画面が一瞬で視点がグルンと回り3番艦の底面のみが見える形になった。


これは小型船が停船している資源衛星の表面ごと隆起に合わせて持ち上がり開店した結果のようだった。

その隆起の衝撃で小型船には非常に大きな負荷がかかり、船内は重力制御されているにもかかわらず全員が身動きできない程の圧力がかかる。


「ぐっ!」

「「キャ!」」

「……ッ!」


ドスンという音が俺の周りから聞こえ辺りを見ると、座っていた皆はシートから投げ出され床に叩きつけられるような形になった。

唯一立っていた俺は踏ん張りがきき、どうにか耐えることができた。


再び船外を映す画面に目をやると隆起した基礎支柱の基礎部分が3番艦に接続されている支柱の残り部分にぶつかるところだった。


同時に小型船は資源衛星の隆起した表面部分に留まることができず投げ出される形で吹き飛ばされ、その衝撃で画面を見る余裕すらなくなった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る