第19話
第1支柱は10mの柱が3本絡み合うように変形し折れ曲がっていた。
これを切り離し3番艦が自力で回転状態を解消できるようにしなければならない。
もし切り離しをせずに3番艦が無理やり離脱しようとすれば支柱の接続部分の底面に大穴が開いてしまう可能性がある。
現状これだけ第1支柱が変形しているにも関わらず3番艦に目立った損傷が無いのは不幸中の幸いと言えるだろう。
第1支柱は3つある基礎支柱の内の一つだ。
基礎支柱は資源衛星が母艦から離れないように、
支支柱はある程度資源衛星と3番艦が離れると自動的に接続が切れるようにもなっている。
このことからも支支柱が主に資源衛星と3番艦との緩衝帯としての機能を期待されているのが分かるだろう。
そして幸い支支柱には損傷を認められない。
支支柱が期待通りの機能を発揮し、衝撃を吸収していると思われる。
そうなると後はこの第1支柱をどうにか資源衛星から切り離すだけだ。
基礎支柱の情報を踏まえた瑠亜さんがその第1支柱の切り離し方法を決定した。
折れ曲がった支柱は資源衛星の接続位置から”くの字”のような形に曲がっている。
”くの字”のすぐ下側には資源衛星との接続装置が”く”の上側はそのまま3番艦に続いている。
「支柱の根元の曲がった内側の辺りを切断します。」
瑠亜さんはこの”くの字”の下側、接続装置の上側辺りを切断する事にしたようだ。
小型船を支柱の切断位置に移動させながら瑠亜さんは説明を続ける。
「機材があれば接続装置自体をどうにかしたいんですけどね……そっちの方が安全に素早く切り放せるのですが。どうも壊れ方を見るとそうもいかないようでして……。」
「この中で専門家は瑠亜さんだけなのでその辺りの判断は瑠亜さんに任せます。しかし、その言い方だと支柱の切断は危険がだという事なんです?」
「ええ、支柱は堅牢性と柔軟性を持たせるために複数の種類の素材を編んだ、言ってみれば巨大な”
小型船を接続装置の近く、折れ曲がった支柱の内側に入る形で小型船を停止させる。
「そして資源衛星と3番艦が回転している以上、船を資源衛星の表面から浮かせることはリスクが大きくなりすぎます。」
言われてみれば小型船は資源衛星に到着してからずっと資源衛星の表面を移動していた。
一度取り付いてしまった以上浮上すると吹き飛ばされるうえ、浮いたところを表面の構造物や隆起している場所、あるいは他の支柱と衝突する可能性があるという事だろう。
「できれば比較的安全な支柱の中間あたりを切断したいんですけどねぇ。」
「やるにはリスクが高すぎる、と。」
「そうなんですよねー。」
瑠亜さんは説明をしながら支柱を切断するための準備を進める。
この辺りは専門外の俺たちには手伝えることは全くない。
完全に聞き手に回っている。
小型船は先頭の操縦席や作業員の待機所のある部分と船尾の主推進器部分が大きく、その中間が細い柱状の荷台になったダンベルのような形になっているのだが、この細い荷台の部分を支柱に着け、太い部分で支柱を挟むような形で停止している。
(ちなみに荷台部分は重力制御によって荷を保持する仕組みになっている。)
そして船体の前後の膨らんだ荷台に隣接したあたりから支柱を切断するための溶断機が出てくる。
溶断機の準備をしつつ瑠亜さんが俺に話しかけてきた。
「隊長!シールド用に外の電源ケーブルを接続したいんですよね。支柱の切断時にどれだけ負荷がかかるか分かりませんし。」
瑠亜さんまで隊長とか言い出したぞ。
別に構わないけどちょっとくすぐったい感じはする。
隊長発言は今は置いておき、話を続ける。
「えーと、要は船の電源だけだとシールドの維持が難しいかもしれないと?」
「そうです。場合によってはこの船のシールド程度は簡単に吹っ飛びますね。恐らく。」
つまり、支柱の切断時に支柱を構成している”綱”が弾けてそれが船のシールドを容易く吹き飛ばせるだけの威力があるかもしれない、と。
「この辺りの電源位置ってわかる?」
瑠亜さんに聞いたつもりだったが、返答は留依からきた。
「この辺りだと丁度真後ろ100m位の所にありますね。」
「よし!それじゃ俺が行ってくる。育波さんは船の方の電源ケーブルの接続準備を。留依は瑠亜さんの補助を。」
「了解っス!」
「わかりました。お気をつけて。」
「で、ミカミは俺の補助と状況を司令部との共有を。」
「承知いたしました。」
小型船の出入口の場所まで来ると留依から早速資源衛星側の電源位置までのルートが送られてきた。
留依は本当にこうした手際が良くて助かる。
俺なんて場所の特定なんて頭に無くて行けば分かるだろう位の感じだったのに。
「位置送りました。」
「ありがとう留依。」
汎用電源のある位置は資源衛星のちゃんと整備された表面上にあったので特に問題なく行けそうだ。
問題は資源衛星自体が回転しているため、歩行時にしっかりと吹き飛ばされないよう注意して進まなければならない事だ。
防護服の吸着機能を使いゆっくり、しっかりと踏みしめるように歩く。
足は地面にしっかりと吸着しているのだが、体の方はかなりの圧力がかかっていてバランスを崩すとそのまま吹き飛ばされそうになる。
「これ、思った以上にヤバいな。」
「そうなのですか?数値上は問題ない程度のようですが?」
「ああ、数値上はそうかもしれないがな。常にかかる圧力と吹き飛ばされるかもしれないっていう精神的な負担はかなりなもんだぞ。」
「慎重を期すしかありませんね。」
「ああ。で、帰りはケーブルを抱えてこれをするのか……気が重いな。」
ミカミと話をして恐怖心を紛らわせながら進む。
何度か体がもっていかれそうになりつつも留依の送ってくれたルートのお蔭で迷わず電源位置までたどり着くことができた。
周辺には似たような施設が幾つかあって、もし考えなしに来ていたら何度か間違った施設にたどり着いてたと思う。
たった100mの距離ではあるが、この緊張を強いられる歩き方で無駄な施設にたどり着いていたらもっと疲労で大変だったろうな。
電源施設では電源ケーブルを探し出しケーブルの延長の処理を行う。
ケーブル自動延長と接続時の給電設定を済ませケーブルの先端を脇に抱える。
外部電源ケーブルは直径20cmくらいのサイズだ。
重量もかなりあるのだが、自動延長の仕様によってケーブルの持ち運びは楽になるようになっている。
ケーブルの要所要所には重力制御が行われていて、重量を感じないほどスムーズに持ち運びができる。
パワーアシストが無くても運べる程度には力要らずで運べるのだ。
しかも、床から離れたりしてケーブル自体が暴れないよう床(場合によっては壁などにも)から離れないような設定をすることも可能だ。
その電源ケーブルを抱え小型船へと向かう。
「育波さん、ケーブルを確保した。給電設定で接続されると自動で給電できるようにもしたので準備をお願い。」
「了解っス。船尾の方に接続位置があるのでそっでよろしくっス。」
「隊長、ケーブルの接続が済んだら船内に退避お願いします。船外にいるのは危険だと思います。」
「分かった。なるべく早く船内に移動できるようにする。」
こうしてようやく小型船の船尾にある電源ケーブルの接続位置に到着し、原電ケーブルを繋ぐ。
いざ船内に退避しようとすると足元から「ゴオォォ……」という振動が伝わってくる。
何だ?
何かわからないがよい事ではない気がする。
「ミカミ、今の振動把握できてるか?」
「申し訳ありません。ワタクシには感知できませんでした。振動ですか?音でしたら隊長殿のマイクを通じで把握できるのですが。」
お前も隊長呼びか。
小型船の出入口に向かいつつ船内の人たちに今の振動について聞いてみる。
「え?何かあったんですか?気づきませんでした。」
「あー確かに計器の方には何か出てるっスね。」
「支柱の切断急いだほうがいいかもしれません。支柱の歪みが大きくなってるのかも。」
3人共自分自身では感じていないようだった。
資源衛星の表面に直接触れていないと分からないのかもしれない。
歩きながら何が起きているのか考えてみる。
…………。
……そういえば。
「ミカミ、そういえば基礎支柱、今切断しようとしている支柱以外のやつ。あれってもう切り離しは済んでるんだよな?」
「はい。切断命令を出しているので資源衛星と3番艦の接続は解除されています。これはしっかりと確認済みです。」
「……これかも。」
「どういう事でしょうか?」
想像だが、3つの基礎支柱の内2つが切り離し処理済み。
資源衛星と3番艦は共に回転中。
偏った回転の圧力は残った基礎支柱に集中する。
ってことじゃないか?
「ミカミ、かなりヤバいかもしれないぞ。」
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