第18話


3番艦の資源衛星になんとか小型船が取り付くことができた。

だがこれも船の重力牽引の機能で資源衛星から離れないようにしているだけで、もしうかつに船から外へ出れば回転している資源衛星から吹っ飛ばされるだろう。


実際ミカミからの報告によれば資源衛星から3番艦本体への退避の途中で事故が起きており10名ほどが吹き飛ばされている。

吹き飛ばされた作業員たちは防護服着用のうえ、現在の所位置も把握されておりひとまずは無事だそうだ。

全てが終わって回収する人間が存在できているのなら回収することになる。


資源衛星に吹き飛ばされないよう注意しながら小型船は切り離すべき基礎支柱の最も近い支柱を目指して移動していく。

資源衛星の表面を移動していくが船の上方がすべて3番艦の底面なのは300m程離れているにもかかわらず中々に圧迫感がある。

遠くに艦と資源衛星をつなぐ支柱が見えているが宇宙空間で距離感が掴めず不思議な感覚になる。


「これは……ちょっと大変そうだな。」


俺は司令部から送られてきた接続支柱の切り離しの方法を見ていたが、その手順の多さについ口から言葉が漏れた。

俺の言葉に続けるようにミカミが資源衛星の切り離しの手順について説明を始めた。


「ハイ。10組ある接続支柱のうち要となる3組の基礎支柱は直接、支柱の制御室で操作を行う必要があります。基礎支柱に関してはその前に資源衛星側の接続部位のロックを解除する必要もあります。本来ならこのロック解除はAIが行うことができるはずなのですが……。専属のAIが全員居ない事は想定されていなかったのでしょうね。」


……お前手順知ってたのかよ!知ってたなら言えよ!

心の中で突っ込むが言葉として発したのは別の事だった。


「基礎支柱以外の補助支柱に関してはそのままでいいのか?」

「はい、補助支柱に関しましては緊急時ですので引き千切られるコトになるかと。」

「3番艦に被害が及んだりはしないのか?」

「ハイ。計算上は問題ありません。」

「そうか、では……ミカミ、お前が基礎支柱のロック解除をすることはできないのか?」

「ワタクシはあくまで1番艦のしかも上皇陛下専属のAIですから、そういった権限は与えられておりません。」

「そうなると、直接俺たちが行く必要がある……と。」

「ミカミさん。権限の委譲とかそういうのってできないんですか?」


ルートをナビゲーションしながら俺たちの会話を聞いていた留依が聞いてきた。


「現在交渉中です。」

「え?できそうなのか?仕事早いな。」

「当然です!ワタクシ、上皇陛下の専属AIですから!」


とりあえずは何とかなりそう……なのか?


「それならこの後は直接3番艦側の制御室に行けばいいんですね?ルート変更を────……」

「お待ちください。」

「え?何故ですか?」

「今ロックを解除しようとしたのですが、基礎支柱の1つのロックが解除できません。3番艦と資源衛星の急激な回転によってロック機構に何らかの不具合が生じている可能性があります。」

「つまり……結局そこに行く必要はある……と。どの支柱だ。」

「第1支柱です。最も遠い艦首に近い基礎支柱です。」

「何てことだ!留依、そこまでのルートを頼む。」

「は、はい!」

「瑠亜さんもできるだけ急いでくれ!支柱のロック機構がどうなってるのかも分からないからな。」

「了解です!」


急いで資源衛星との切り離しをしたいが中々うまくいかないものだ。

しかし、当初は1番艦のとはいえAIの復帰は考慮に入れていなかったため、基礎支柱1つ1つのロックを手動で解除する予定だった事を考えればはるかに時間の短縮にはなっているのだが。

それもこの第1支柱の状態によってはどうなるか……。


現在は3番艦の1番後方にある第3支柱の近くだ。


色々と俺が考えている間にも、手早く留依がルートの設定を終え、瑠亜さんが小型船の移動速度を上げる。

これまでは資源衛星の表面の起伏の多く、小型船が重力牽引を使って移動するには厳しい状態だったが、制限衛星の支柱の近くは支柱を建設したころに作られた移動用の道ができているので移動がスムーズになった。


育波さんは資源衛星の各所にあるカメラとの接続設定を終えたようで、それら設置されているカメラからの映像を切り替えつつ資源衛星の状態を観察している。


「育波さん、第1支柱の状態見られますか?」

「今チェックしてるところっス……うーんこれは……。画像送るっス。ミカミさんにも。」

「おお!ワタクシにも!ありがとうございます。」

「そういえばお前にはカメラの映像は見られないんだ?」

「権限が別ですので。」

「そうか……お、映像来たな……。」


育波さんから送られてきた画像は第1支柱から少し離れた場所からのものだったのだが……。


「これは……。」

「言葉になりませんね。」

「……っスねぇ。」


そこには3本一組になっている支柱が絡み合い折れ曲がり、資源衛星部分にめり込んでいる姿が映っていた。


「直径10mの支柱だぞ?……こんな風に曲がるのか……。」

「ワタクシの専門外ですので正しいかは分かりませんが、元々折れないよう柔軟性のある支柱なのではないでしょうか?ですので折れないのが正しいのでは?」

「……そうかもしれないが、折れててくれればむしろ切り離す手間が省けたんだけどな。」

「これじゃロック機構の方も手動でどうにかできるって感じでもなさそうっスね。」

「ロック機構がどうなってるか分かる映像あります?」

「探してるんスけど、支柱が曲がった時に破損したみたいなんスよ。視認できるように大抵カメラは設置されてるんスけど、映像の信号が来てないっス。」

「行ってみるまで分からないか。」

「っス。」


こういう場合にどうすれば良いのか専門家の意見を聞きたいが、手が空いている人で尚且つ直視装置を着けている人がそもそも居るのかどうか……。

しかし、ひとまずは司令部と情報の共有だ。

司令部ではすでに数人に直視装置が支給されていて俺が送った画像の共有がなされた。


「こちらでも検討を進めます。朝日蔵様はそのまま第1支柱まで移動して現場ではロック機構の状態などを知らせていただきたい。」

「了解しました。」


外装土建か……誰か詳しい人が直視装置を装着していればいいんだが。

2番艦の姿勢制御に必要な部署に優先的に支給されているからもしかしたら厳しいかもしれない。


「そうしたわけで外装土建に詳しい人が居るかどうかだ。」

「……伶旺様?もしかして天然っスか?」

「え?俺、天然なんて言われたことないけど?」

「瑠亜ちゃんが外装土建の人っスね?」

「あ!そうだった!」


失念していた。

俺の中で瑠亜さんは小型船の操縦者という認識になっていた。


「……なんか呼びました?」


留依と瑠亜さんには気が散るだろうと、こちらで話している内容が聞こえないようにしていたのだが、育波さんが音標姉妹にも伝わるよう回線を開いたようだ。


「第1支柱の状態が外装土建の人の助けが必要そうなんだ。」

「もう少しで支柱まで着きますからそうしたら……あーこれはヒドイですね……。」


操縦席からも資源衛星表面にある起伏や倉庫、加工工場などで今まで見えなかった第1位支柱の接続部分が見えてきたようだった。


支柱の上側───3番艦に近い方は───ぱっと見は他と変わらないのだが、資源衛星側は元々支柱同士が交差するように立てられていたこともあって絡み合ったうえで曲がっている状態だ。


外装土建の人間が見ても”ヒドイ”んだ?やっぱり。


小型船がようやく第1位支柱に到着し少し離れた場所に船体を固定した。


「少し遠くないですか?」

「いえ、これ以上近づくのは良くないですね。もう少し離れたいくらいです。」

「柱が倒れてくるとかですか?」

「あのように外から力が加わって変形した場合、力が加わった場所が爆ぜる事があるんですよ。防護服のシールドなんて一瞬で吹っ飛びますよ?」

「……それは恐ろしい……どこが爆ぜるか分かったりは……。」

「ちょっと待ってくださいね……と、こうして……。」

「何を?」

「船の圧力感知で付近を調べています。変形した直後なら検出できます。」

「へー興味深いっスねぇ!」


留依と育波さんが瑠亜さんに操作方法を教わりつつ測定装置を使って状態を調べていく。

これらの測定装置に興味がわいたのか育波さんが瑠亜さんの邪魔にならない程度に色々と質問をしたりしている。

瑠亜さんも彼女の経験談を交えつつ楽しそうに語っているのが聞こえてくる。


俺は上がってきた測定結果をまとめ司令部へと事にした。


「ミカミ、司令部とこのことの情報共有をしておいてくれ。お前の権限だと今はやれることもそれほどないだろ?」

「ハイ、畏まりました。ですがその仰りようは心外ですね。現在は専門家に任せるのが優秀なAIというものですよ。」

「そういう事にしておこう。」


実際に秘書としての働きを求められているミカミにはこの手の技術系の仕事は苦手だろうしな。

こうして第1支柱の情報収集を終えた瑠亜さんが支柱の切り離しの方法を決めた。

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