第17話


3番艦は1番艦の同型艦だ。

違いは3番艦の抱え込んでいる資源衛星の大きさだ。

1番艦の資源衛星の全長は艦の本体とほぼ同じサイズの30km、厚みは最も厚いところで直径20kmほど。

しかし3番艦の資源衛星は1番艦のそれに倍する70kmの全長を持ち、厚みは直径50kmにもなる。

いわば3番艦に関しては資源衛星だけで2番艦と同等の大きさになる。


それが突然1番艦と2番艦の目の前に現れた。


俺以外の3人が俺の事を見る。


「「現れましたね……。」」

「……見事なフラグ回収っスね?」

「俺のせい?」

「も、申し訳ありません!そんなつもりでは……。」

「いや、わかってる!まずは3番艦の予想軌道だ。」


現れた3番艦はゆっくりとではあるが縦方向に回転している。

3番艦の姿が全体像とまでは言わないがおおよそその全体が確認できるだけの距離から見てのゆっくりだ。

近くで見ればかなりの速さで回転している事だろう。

それは3番艦の重力制御でも相殺できないほどの圧力がかかる早さになるのではないだろうか。


2番艦、3番艦共に回避するにしても3番艦は出現したばかりで恐らく俺たちと同様目が見えなくなり、真っ暗の状態で混乱しているだろうし、2番艦、1番艦とも今は全ての人間が2番艦の姿勢制御に掛かりきりで手の空いている人員が居ない。

居たとしてもそれは直視装置の無い”見えていない”人たちばかりだ。

さらにAIも未だ沈黙したまま反応がない。


手の打ちようがないのだ。

”見えていて”手の空いている人間は俺たち4人しかいない。

そうたった4人だ。


そんな中、総司令から俺に通信が入る。


「朝日蔵様!見ましたか!」


総司令ですら冷静ではいられないのだろう、かなり焦った口調で聞いてきた。


「はい!今見ています!間違いなく3番艦ですね?」

「そうです!暫定値ではありますが、3番艦の軌道はウィリデへと落下する軌道です!しかも都合の悪いことにこのまま2番艦の姿勢制御を続けた場合2番艦と3番艦が衝突します!」

「!」

「さらに3番艦の乗員たちも何も見えない上、艦内もかなりの圧力がかかり、思うような操艦ができないようです!」

「まずいですね。」

「はい!回転の中心位置から資源衛星と3番艦の切り離しさえできれば恐らく衝突は回避できるでしょうが、その場合資源衛星は……。」

「ウィリデに落ちる……。」

「はい。切り離しのタイミング次第で軌道は変わりますが、もしあの大きさの資源衛星がウィリデに落下し、そこが現地人の住んでいる所だった場合……。」

「考えたくもないですね……。」


ウィリデへの入植までを視野に入れた場合現地の人たちと揉めるのはまずい。


「はい。まずは3番艦の安全を確保するのが先です。資源衛星を切り離せば衝突を回避でき、3番艦の出力があればたとえウィリデの重力に掴まっても自力で立て直すことができるはずです。」

「なるほど……。つまり我々に資源衛星の切り離しを、と。」

「……はい。申し訳ありません。とても危険な……作業になります。しかも3番艦の1万5千人と、2番艦の、運命すらかかっています。」

「……やるしかありませんね。今動けるのは我々だけですから。やるだけの事はやりましょう。」

「ありがとうございます。現在こちらでも、ですね、3番艦の乗員に対して遠隔での補助をしております。そこの育波のやったように3番艦のカメラを通して遠隔で指示を……今始めました。」


会話の最中、総司令の反応が少し遅れたりしてたのは後ろで他とのやり取りをしていたからのようだ。

さらに総司令は続ける。


「3番艦の資源衛星の作業に従事していた人員もこちらからの遠隔指示によって退避を始めております。……AIのうち何体かは回収する余裕がないとの事ですが……。」

「……そうですか。」

「若干名いた直視装置の装着者が退避の指示や実体AIの回収もしていると事ですが……やはり”漏れ”は出てきてしまう可能性があるそうです。」


話しながら育波さんと瑠亜さんに身振りで行動を支持する。

二人ともわかってくれたようだ。


「そのあたり確認できない人員、実体AIの情報は後程送ってください。余裕がある場合に限りますがこちらでも捜索してみます。」

「ありがとうございます。」

「では……行きます。」

「どうかご無事で。」


通信を切り、改めて小型船内のみんなに伝える。

小型船はすでに回転している3番艦に向かって動き始めていた。


「今度ばかりは俺たちの命の危険が大きくなってしまうけれど、それ以上に2番艦と3番艦に住む多くの人たちの命が掛かってるんだ。どうか頼む。皆、手を貸してほしい。」

「にしし。なんだかこうなるような気はしてたんスよねぇ。命の危険なんて今更っスよ?ずっと危なかったっスよね?」


笑いながら育波さんが反応する。

育波さんはすでに3番艦の資源衛星にあるカメラの接続権を貰い各所の様子を見ている。


「こうなったら、とことん付き合いますよ!」


瑠亜さんも元気にそう言ってくれた。

俺が総司令と話をしている間に留依は瑠亜さんの横で3番艦の資源衛星へと向かうルートを調べ瑠亜さんのナビゲートをし始めているようだ。


「むしろあたしが足を引っ張るんじゃないかって思うんですけどいいんですか?」


留依も言葉だけ見れば後ろ向き感じだが、声は明るかった。

1番艦で寮へと向かった頃の落ち込んだ感じも全くなく、できるだけの事はやろうという彼女の気持ちは伝わってきた。

思えば彼女のナビゲートリンクの手際はかなり良かった。

資源衛星では彼女のこの手際の良さが役立つかもしれない。


ゆっくりと回転をしている資源衛星に近づくさなか、ふとウィリデを見ると大陸の脇にある島に資源衛星の黒い影が落ちていることに気づく。

肉眼では見落とすような小さな影だったが自動で異変を知らせるヘルメットの機能が働き拡大表示さてていた。

ここから見る限りはぽつんと小さな影なのだが、もしあの影の部分に人が住んでいたらびっくりするだろうな。


拡大されていたとはいえ、ウィリデと資源衛星はそんな影が見えるような距離。

資源衛星を切り放しだけならできるかもしれないが資源衛星の落下までは止められないのではないか。


資源衛星の切り離し自体はそれほど難しくない。

しかし回転を続ける衛星に着船する事と、3番艦との接続している支柱の数がそれなりにある事が問題だ。

1番艦の資源衛星の切り離しもAIの補助がないために人手が必要となり、切り離しに時間がかかっていたようだ。

それをこの人数でだ。

だがやるしかない。


資源衛星にいよいよ着船できるような距離まで来たが、遠目ではゆっくりでも資源衛星の大きさが大きさだ。

近づけばかなりの速さだ。

音標姉妹のナビと操艦でも苦労しているようだ。


「お手伝いします!」


え?なに?

誰?


「伶旺様!この不肖ミカミ!この体つきるまで頑張らせていただきますとも!ワタクシ実体はないんですが。」

「ミカミ!?」


上皇陛下専属AIのミカミが俺の手伝いに来た。


「ど、どう、どうして、いや復活したのか!?」

「復活というのはよく分かりませんね。ワタクシ、上皇陛下の朝食にお付き合いしていたと思いましたら、陛下が防護服の着用をされておりまして──」

「その辺の話はあとだ!資源衛星への着船の補助を頼む!」

「了解いたしました!ですが、もう始めております。いやー確かにワタクシのログも朝食から先ほどまで完全に空白になっておりまして──」


ミカミは話をしながら瑠亜さんの操艦の補助をし始めた。

どうやら彼の話としては突然時間が飛んだ感覚だそうだ。

目覚めたミカミはよく状況も分からないまま上皇陛下に俺を補助するように言われてこちらへ来たという事のようだ。


彼以外のAIも復活して今は艦内の原状回復や進行している2番艦の姿勢制御に注力しているらしい。

何にせよAIが復活したからには2番艦の姿勢制御に関しては成功率が上がったはずだ。

これならあとは3番艦と衝突しないようにするだけだろう。


「で、2番艦のAIに関しては?」

「現在は応答がありませんね。ワタクシ思いますに。ある程度時間が経てばワタクシ達と同様に復活するのではないかと。」

「お前たちが復活したという事はそういう事になりそうだな。」


そして、このことはもう一つ希望が芽生えたことになる。

時間経過で”見える”ようになる可能性が高まった。

もちろん3番艦の資源衛星の切り離しが成功しないことにはその時間経過の時すら訪れる事がなくなってしまうかもしれないが。


「揺れますよ!」


瑠亜さんがそう宣言すると小型船が急加速し船体の揺れが大きくなった。

資源衛星の回転速度との相対速度を合わせるためだろう。

恐らくこれもAIが、ミカミの補助があってこそこれだけ早く対応できることだと思われる。


小型船の重力制御では対応できない程の圧力がかかったようで、加速してしばらくはその加速から生まれる圧力に抵抗するのに必死だったが、資源衛星との回転の相対速度が合ってくると徐々に圧力も和らぎ、船体の揺れも小さくなってきた。


シートに座っていなかった俺は危うく吹っ飛ばされそうになったが咄嗟に掴んだシートのお蔭でどうにか持ちこたえることができた。

ただし、力が入りすぎてしまって専用防護服のパワーアシストが過剰に反応してシートにしっかりと手形が付いてしまったが。

無事に戻れたら小型船の持ち主には修繕の補償をしないとな。


こうして俺がミカミと情報の共有をしている間に小型船は3番艦の資源衛星にとりつくことができた。

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