第16話


2番艦の中央港から小型船が外へ出る。

中央港は2番艦最大の港で大型の船の出入りが可能な上、直接重力軸に通じてもいるので資源の搬入や製品の搬出に使われる大型船の利用も多い。

利便性の良さから大人気で中央港の近くのコリドールには船の待機場すらある。

もちろん現在は待機場に停泊している船の乗員なども皆シェルターへ退避している。


そして俺たちの乗っている小型船は中央港からスムーズに出港することができた。

直視装置の装着者が配置されていたのだ。

2番艦に来た時の搬入口もそうだったが恐らく最悪の事態 ”退艦” も視野に入れての配置ではないかと思う。


小型船は中央港近くの待機場へと移動しここで1番艦の到着を待つ。

なんとその時間10時間だ。

1番艦という巨大な質量をもつ艦の移動、しかも2番艦とは数百m程度まで近づく予定なので慎重な上に慎重を期さねばならない。

つまりその間、俺たちには休む時間が与えられた。


まずは全員で食事をとることになった。


「まさかこんな食べ方があったとは……!」

「凄いですよねー!とっても美味しいですし!」

「だねぇ……。」


まじまじと今食べたアップルパイの包み紙を眺める。

少し前に留依から貰った携帯食のアップルパイだったのだが、ヘルメットを取らずにあの固形物を食べることができるのは本当にすごい!

技術の進歩って凄いな!


「一つ食べたら猛烈に腹が減ってきた!もう少しもらっていい?」

「もちろんですよ!先ほど多めに貰ってきていたのでどんどん食べてくださいね!」

「留依たちはあんまり食べてないけどいいの?」

「あたしたちはさっき休んだ時に少し食べさせてもらったので大丈夫ですよー。」

「あ、これこれ!これ美味しんですよ!おすすめです!」


瑠亜さんも会話に混ざってきた。


「瑠亜ちゃんそれもいいけどこっちなんでどう?」

「いやいや、留依ちゃんそこはこれでしょー!」


なんて言いながら、瑠亜さんと留依が楽しそうに俺におすすめする携帯食を厳選してくれた。

仲の良い姉妹のキャッキャしたやり取りは俺の心を満たしてくれた。

ついでに留依と瑠亜さんのおすすめを順番に食べ続け満腹なった。


育波さんは先ほどから静かだ。

多分寝ているのだと思う。

流石に無理をしすぎていたんだと思う。

いや、意外に防護服によって眠らされたのかな?

自然に寝たにしても、眠らされたにせよ、育波さんも働きすぎだったからゆっくり休んでもらった方がいい。


俺も腹が満たされたおかげで眠くなってきた。


「少し眠らせてもらうよ。」

「はい。ゆっくり休んでくださいね。あたしたちも休ませてもらいますので。」

「瑠亜さんは知ってるかもしれないけど、寝るなら無重量エリアで体を固定して寝るのがおすすめだよ!かなり快適。」

「あー……重力エリアだと体がコリますよねぇ。」

「え!そうなの!?あたし防護服着て寝たことないから……。」

「あたしたちもそうさせてもらいますね。」


重力エリアで防護服着たまま寝るとゴツゴツして寝ずらいんだよね。

育波さんは重力エリアで寝てるけど……ごめん。

寝てる人しかもるいとはいえ女性を勝手に運ぶのはちょっとな。


こうして俺たちは無重量エリアで揃って寝る事になった。

目を閉じるとあっという間に眠りに落ちた。


────────────。


セットしたタイマーが起動し俺は目を覚ました。

ヘルメット内に表示されている時計を確認する。

1番艦の到着の約1時間半前。


少し早めに起きるよう設定したこともあって留依と瑠亜さんはまだ寝ているようだ。

辺りを見渡すと壁に固定された留依と瑠亜さんが居る。


体の固定を解き重力エリアへ移動する。


育波さんはシートに座り足をプラプラさせ、ゼリー状の携帯食を食べている。

俺が寝る前に食べた固形のやつではないようだ。

中空を見つめるようにして手を動かしている事からして複数のカメラの映像を見ているようだ。


「育波さん、おはようございます。様子はどうですか?」

「あー伶旺様。おはよーございますっス。計画自体は順調みたいっスよー。」

「何か気になる事でも?」


何かを考えながらという感じだ。


「うーん……。多分、なんスけどねー。」


歯切れが悪いな。


「ウィリデには先住民が居るっス。しかもそこそこ文明レベルの高い。」

「え?本当ですか?」

「うん。ウィリデの周りに小さい人工的な衛星が沢山周回してるス。」

「それじゃ、場合によっては現地人の乗った船と我々が衝突する可能性も……。」

「無いとは言えないと思うスけど……実際に現地人が宇宙まで上がっているとはあまり考えられないスかね?」

「なぜです?」

「うーん……人工の衛星が小さすぎるんスよ。宇宙そらにあげられる能力がその程度しかないのかもしれないス。ただまぁ今考えても仕方ないスけどね。」

「司令部は把握してると思う?」

「してないと思うっスよ。2番艦の事で他にまで意識が向いてないかと思うっス。見える人がまだ限定的っスからね。」

「そうか……一応このことは司令部に伝えておこう。」

「それがいいと思うっス。」


早速司令部と連絡をとり今育波さんと話した内容を伝える。

司令部からはかなり感謝された。

我々移民艦隊としては折角入植可能惑星を見つけたのだから入植したい。

だが、現地人と問題が起きてしまっては入植すらままならなくなる可能性もあるのだから慎重に慎重を重ねる必要がある。


といっても現在は2番艦の姿勢制御が最優先だ。

その分は俺たちが多少は補う事としよう。

そのことを育波さんに伝えると、


「了解っス!隊長!にしし……。」

「え?隊長!?」

「実質伶旺様はこのチームの隊長っスよね~!そう思うよね二人とも!」

「「ですよね~。」」


目が覚め起きてきた音標姉妹が丁度重力エリアへ入って来たところだった。


「さしずめ朝日隊ってとこっスかねー。」

「ああ、いいですね~!朝日蔵様だからってすぐわかりますし。」

「軍って民間からの出向者も居るんでしたっけ?さっきの福良ふくらさんも民間から受付として出向してるとかなんとか。」


……盛り上がてるなぁ。

悪い気はしないけどさ。


そんなこんなで和やかな雰囲気で起きてきた音標姉妹と俺も食事をとる。

一応作戦前なので固形物を避けゼリー状の携帯食だ。


「そういや……3番艦は無事なのかなぁ。」


ふと気になっていた事が口をついて出た。

忘れていたわけではないのだが、自分たちの状態の確認やその直後に出現した2番艦の対処でそれどころではなかったのだ。


「あたしたちみたいに転移?ワープ?してなければ無事だとは思いますけど……。」

「そればっかりは観測できないから分からないっスねぇ。」

「無事だといいんだけど。」

「伶旺様はどう思いますか?」

「うーん。可能性としてはそのうち急に俺たちの目の前に現れるっていうのもあるのかなぁって……。」

「確かにその可能性もあるっスね。ボクらのいた座標にそのままの可能性も高そうっスけど。」

「そのまま転移しない場合の方が生存率は低くなりませんか?」

「瑠亜ちゃん……。」

「だってそうでしょ?3艦揃が補い合って十全の体制になるようになってるんだし。」

「単艦でも生き残れるようにもなってるスから、3番艦の人たちでどうにかしてもらうしかないっスねぇ。それより……。」


ニヤニヤして育波さんが続ける。


「伶旺様が大きなフラグを立てた気がするっスよ?」

「「あー。」」


音標姉妹もなるほどという感じで俺を見ないでくれ。


さて、そんな事をしている間にそろそろ時間だ。

瑠亜さんが操縦席に着き、育波さんは各所のカメラを使って、俺と留依は小型船に搭載されたカメラを使って現地人のモノと思われる衛星を探す作業をしている。


小型船は待機場を離れ事前に設定されていた1番艦との合流位置へと進む。

徐々に2番艦で見えなくなっていたウィリデが見えてくる。

相変わらず美しい星だ。

海も緑も俺たちの故郷の星よりも多い気がする。


1番艦も2番艦の地面ちめん(底面)の方へとほぼ移動を終えた状態だ。

2番艦の地面ちめん方向から引っ張る形で姿勢を変える手筈になっている。


そして1番艦の配置が終わり俺たちの乗った小型船が動き始めた時に事は起こった。

まさに俺の発言が壮大なフラグだったらしい。


育波さんと留依の顔が俺の方を見る。

操縦席の瑠亜さんですら操縦席から身を乗り出すような感じで俺を見た。


俺たちの目の前には巨大な資源衛星を腹に抱えた3番艦が現れたのだった。

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