第14話
留依や育波さん、それから小型船では瑠亜が休んでいる間にも俺は俺でやらなければならないことがある。
総司令や1番艦、2番艦の艦長、さらに各艦の主要要員らと今後の手順の決定だ。
もっとも俺は方針だけ決め、後は彼らの出した手順を承認するだけになるだろうが。
会議はスムーズに進んでいく。
1番艦では直視装置の在庫部品等を使って急速に直視装置の装着者を増やしているそうだ。
現在は艦の運用に係る人優先で直視装置が支給され、2番艦の姿勢制御にも大きく寄与するに違いない。
さらに工場ではフル稼働で製造を行っているそうで、時間とともに”見える”人が増えていくだろう。
もっとも、今すぐという事ではなく、必要な分が支給されるのにもまだ日数はかかるだろうが。
実際の2番艦の姿勢制御に関しては、基本は1番艦自身が2番艦の最大推力を出した際の姿勢制御の補助をすることになる。
この際に1番艦搭載の工作艦が1番艦に接続されている資源衛星の制御を行うことになる。
工作艦の運用は直視装置の支給によって新たに”見える”ようになった人員が行う。
1番艦と工作艦を運用するだけで今ある直視装置の数は限界になってしまう。
もし、1番艦、および2番艦にある工作艦をすべて使う事が出来るのならもっと2番艦の負担は軽くなるのだが……。
とはいえ、こうして懸念の1番艦に接続されている資源衛星の制御に関しても一応の目途が立った。
そして2番艦の姿勢制御が実際に始まる時、そのスタートの合図となるのが皇帝陛下の2番艦への帰還だ。
これは俺たち、育波さん、瑠亜さん、そして留依にプラスして現在2番艦の艦橋で環境要員のうち一人が同行する。
緊急時における皇帝陛下の護衛としては少ないとは思うがより多くの人員を1番艦や工作艦の操艦に配置するためには仕方がない。
とはいえ、皇帝陛下の2人秘書のうち1人にはすでに直視装置が支給されたと事なので俺たちの負担はかなり低くなっているはずだ。
こうして手順が決まり実行にうつる。
2番艦の艦橋にいた直視装置の装着者のうち俺たちと同行して皇帝陛下をお迎えに上がるのは
2番艦の軍広報室のある建物の受付をしている一般の人だ。
「よろしくお願いいたします。」
福良さんはさすが受付をしているというだけあって丁寧なあいさつだった。
声を聴く限りかなり若い感じだ。
「こちらこそよろしくお願いします。受付をされているという事で皇帝陛下の随伴には頼もしいです。」
「できる限りの事は致しますが、何か至らないところがありましたら遠慮なさらず仰ってください。」
留依と育波さんには通信で事の次第を伝え合流する。
どうやら食事をしていたようで食事の話が出たとたん腹が減ってきた。
すると、
「どうぞ!」
留依がシェルターに備蓄してあった携帯食を差し出してくれた。
「ありがとう。」
「ヘルメットを取らずに食べられるものの中で一番おいしそうなのを貰ってきました!」
「へーどれどれ……。アップルパイ?」
包み紙にはアップルパイって書かれてる。
ヘルメットを取らずに食べられる携帯食って基本ゼリー状のやつだけど、これはそんな感じじゃないな。
5cm×10cmくらいの箱型だ。
どうやってヘルメットを取らずに食べるんだろ?
訓練でもやったことないぞ?
「伶旺様!1番艦に行く途中で食べてくださいね。今は移動優先です!」
なんだか弾んだ声で留依が小型船への移動を促す。
アップルパイと書かれた小さな箱をひっくり返したりしつつ食べ方が書かれていないか探していたが諦めてエアロックへ向かうことにした。
エアロックでは当たり前のように留依が俺の背に抱きついてきた。
留依はエアロックから小型船への移動する際の宇宙空間での挙動がまだ難しいのだ。
ただ、来た時は育波さんが持ってきた大量のカメラがあったから抱きついてもらったが、今回は荷物もないので本当は手をつなぐだけでいいと思うのだが……それは言わないことにした。
どうやら福良さんも宇宙空間での移動は不慣れのようで福良さんの方は育波さんが連れて行ってくれることになった。
「にしし……それじゃ福良ちゃんもボクにしっかり抱きついていてね~!」
「は、はい!よろしくお願いします!」
育波さんは俺と留依を見て笑いつつ、俺たちと同じように福良さんを運ぶことにしたようだった。
1番艦への移動は楽だった。
というのも1番艦の方では艦の重要な施設に直視装置装着者が配置されていたからだ。
そのこともあり今回は出発した時の格納庫ではなく、艦首に近い港に船を泊める事になった。
もちろんこれは皇帝陛下が安全に乗船してもらうためでもある。
港にはすでに皇帝陛下とその秘書の3人が到着していた。
秘書は2人。
関さんはベテランの男性で穏やかな方で俺もいつもお世話になっている。
一般的男性の体形で灰色の毛色がちょっとカッコいいと俺は思っている。
上庄さんも男性の秘書で、頭の回転も速く才気も溢れ、体も大きくかなり期待されているらしい。
ちなみに上庄さんは大沼さんと同い年でお互いにライバル同士という感じらしい。
3人の中では上庄さんのみが直視装置を着けている。
恐らくだが、皇帝陛下は秘書の直視装置の支給ですら渋っただろう。
その分を艦や居住区の重要施設の担当者に使ってもらった方が原状回復には良いからだ。
しかし、それは皇帝陛下をお守りする側としては許容できない。
せめて秘書だけにでもと言って直視装置を支給したと思われる。
上庄さんに手を引かれ皇帝陛下が搭乗口まで来られる。
「皇帝陛下。」
「!伶旺か。」
「はい。どうぞこちらへ。」
「ああ。」
皇帝陛下を小型船の座席へと案内する。
座席に案内し、しっかりとシートベルトを締め、関さんと上庄さんも座席に座ってもらう。
「これから2番艦への移動を開始します。陛下が2番艦の皇族用シェルターに入られた時点で2番艦の姿勢制御が開始されます。」
「聞いている。伶旺はどうするのか?」
「私は陛下を2番艦へお送りしたのち1番艦へと戻り姿勢制御を見守ることになります。」
「そうか。」
皇帝陛下の言葉は少ない。
それも仕方のないことかもしれない。
何しろ2番艦が無事に姿勢制御を終えるかどうかもまだわからないのだ。
「陛下。かならず成功させますのでどうかご心配なさらなずに。」
「うん。期待している。」
少なくともここまで全力でできるだけの事はやってきた。
あとはそれこそ運を天に任すだけだ。
俺は陛下達が座席に着いたことを瑠亜に伝え、2番艦へと出発する。
港から外へ出る。
「こ、これは……。」
小型船から見えるウィリデと2番艦の状態に流石の上庄さんも言葉がないようだ。
「そんなになのか?」
陛下も思わずという感じで尋ねる。
「はい、多少でも艦の航行に関しての知識があれば絶望しかないような光景です。」
「上庄さん。」
「あ、いや。申し訳ない。きっとこの状況を彼らは打破してくれるはずです。」
普段から冷静で頭の回転の速い上庄さんらしからぬ言動だったが、それだけこの光景は衝撃だったのだろう。
「そうですよ。我々が何とかします。陛下、録画はされているので後でゆっくりとご覧になってください。」
俺はそういってフォローする。
「そうですなぁ。私も録画を見るのが楽しみですな。上庄が取り乱すほどの状況ですからな。」
笑いながら関さんも場を和ませてくれた。
小型船は2番艦の艦船用搬入口へと進む。
艦船用搬入口は2番艦の筒状の居住区へと船のまま入れる港だ。
通常は未登録船は居住区へは入れないが、今回は船のまま皇帝用シェルターへ向かった方が早くて安全だろうという事で許可が出た。
もちろんこれには2番艦側に直視装置装着者が増え、小型船の誘導ができるようになったことも大きい。
小型船は1番艦から2番艦の居住区を鳥籠のように囲うコリドールの隙間を抜け2番艦の中ほどにある艦船用搬入口へと進む。
コリドールとコリドールの間は数km離れているとはいえ遠近感の狂う宇宙空間ではすぐ近くを通っているような感覚になる。
俺のすぐ近くに座っている留依が感想を呟く。
「ど、ドキドキしますね……。」
「そうだね。すぐ近くにコリドールがあるみたいで怖いよね。」
「帰りは通らないスから今のうちに楽しんでおくっスよ?。」
「育波さんは怖くないんですか?」
「ボクはゆっくり見てる暇ないス。」
育波さんは笑いながらそう答えると、端末を弄っている。
恐らく色々な場所を中継しているカメラを見て情報の共有や指示をしているのだろう。
「ある意味うらやましい。」
「ですねぇ。」
そうこうしているうちに居住区の回転との同期が始まったらしくグングンと艦船用搬入口が近づいてくる。
すぐ近くまで来ると搬入口が開き、小型船が搬入口に入っていく。
外側の扉が閉まり、気圧の調整が行われ内側の扉が開いていく。
2番艦の居住区へと入った。
そこには1番艦では味わえない高い空と広い大地が広がっていた。
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