第13話

2番艦の本体部分──居住区画──は巨大な円筒形をしており円筒形の先端部分に艦橋がある。

艦橋の近くには小さな港もあるにはあるのだが今回はそこは使わない。

否、使えない。

港を管理しているAIも反応がないうえ、手動で入港するにもできる人がいないのだ。

さらに艦橋までも艦橋近くの非常用エアロックと比べれば遠い。

なので艦橋近くのエアロックから艦橋へと向かうことになった。


瑠亜さんは小型船で待機。

育波さんと俺で艦橋で読み上げ機能に使うカメラを背負って運ぶ。

留依は俺に正面から抱きつく形で掴まって小型船からエアロックまで移動することに。

先ほどのぐるぐるもあったしね。


「これ……恥ずかしいです……。」

「ごめん。少し我慢して。」

「あたし訓練して宇宙空間での活動ができるようになります!絶対!」

「ボクはそうしてる留依ちゃんは可愛いと思うっスけどねー。」


決意表明する留依とからかう育波さん。

告白すれば正面から留依に抱きつかれてる状況は嫌じゃない。

なんだったら、ずっとそうしていて欲しいくらいだ。

これ以上意識するとまた鎮静剤打たれるから気を付けよう……。


無事にエアロックに到着し、艦橋へ向かう。

残念ながら留依は自分で歩いている。


朝日蔵あさひのくら伶旺れお様が到着されました。」


艦橋に着くと普段の育波さんと全く違った普通の軍人としての対応を見ることができた。


「併せて育波少尉、協力者の音標留依到着しました。」

「おお!来ていただけましたか!2番艦艦長の竜今時りゅうこんじです。w……。」


艦長は話を続けようとしていたが急を要するので話に割り込む。


「失礼。話はあとにしてとりあえず、艦橋に読み上げ機能を付けます。育波さん、留依よろしく頼む。」

「わかりました。」

「了解っス。」


留依がモニタを映すようにカメラをセットし、育波さんが読み上げ機能を起動させていく。

その間も艦橋では2番艦で直視装置を装着している二名ほどのクルーが慌ただしくモニタのデータを担当者に伝える事をしている。


「伶旺様、2番艦は軌道の修正が難しいことはご存じかと思います。状況的には退艦を検討しても良いレベルではあるのですが……。」

「スムーズな退艦は難しい、と。」

「その通りです。なにせ殆どの臣民の目は見えておりませんので。」

「そうやるとやはり軌道修正をするしかない、と。」

「そうなります。しかし推進器の最大出力をしかも進行方向を変え続けるというのは船体への負荷がかかりすぎます。」

「そんなになのですか?」

「はい。2番艦は”鳥籠”のような構造になっていますので、どこかに力が集中するとそこから折れる可能性があるのです。」


2番艦の居住区は円筒形の全長50km、直径7kmの巨大な構造物であり、さらに外側に格子のようなコリドールと呼ばれる柱状の構造物が並行しており、見方によっては円筒形の居住区が檻に入っているような形になっている。

その柱、コリドールの部分に小さめな資源衛星や艦艇の停泊できる港があったりする。

こうしたことから鳥籠に例えられる事がしばしばある。


そしてそのコリドールが万が一折れるようなことになれば居住区へ接触もあり得ることになる。

それだけは避けなければならない。


「せめて大型の工作艦が動かせれば助けになるのですが……。」

「工作艦なら軌道修正できるのですか?」

「はい、工作艦自体が当艦を軌道修正するというよりは工作艦が当艦の推力でかかる負荷を軽減することでスムーズに軌道修正できるはずです。」

「しかしその工作艦を動かすことができない……と。」

「はい、専門の乗組員が必要になりますが、”見えている”乗務員がおりません。」

「小型船……外装土建の船では厳しいですか?」

「1番艦から3番艦までの全ての小型船でようやく……といったところでしょう。少数ではほぼ意味がないと思います。」


いよいよ危機的な状況が見えてきた。

まず第1に機関部の人員が足りず最大出力での推進力の維持が難しい事。

第2に最大出力で姿勢制御した際にコリドールが折れ、居住区を破壊してしまう可能性がある事。


これらの解決方法としては第1に関しては俺や留依などの”見えている”人員でどうにか対応するしかない。

1人とは言え機関部の専門家に直視装置装着者がいたのだ。

専門知識がない俺たちでもどうにかなるかもしれない。


第2に関してはもうどうしようもない。

工作艦などの大型の船なんて専門知識と経験を持つ乗組員が大勢いて初めて運用できるものなのだ。


…………もし。

もしも、1番艦の重力牽引を使う事が出来たら……?

1番艦にも重力牽引は可能なはずだ。

重力牽引とピラーを併用して資源衛星を抱えているのだ。

1番艦は資源衛星の切り離し自体はすぐにできる。

その資源衛星を切り離し、2番艦の姿勢制御補助に回るのだ。

1番艦は育波さんの設置した読み上げ機能で一応の操艦ができるようになっている。

ならばできるのではないか?


「艦長、1番艦の重力牽引を使用しての姿勢制御補助は可能ですか?」

「!?……可能と言えば可能かと思いますが……。やはり難しいと思います。なにより1番艦と当艦の距離が近すぎます。切り離された資源衛星との衝突の可能性があるだけでも問題です。」

「やはり難しいですか……。」

「はい。しかし最終手段としてはありかもしれません。1番艦の資源衛星との衝突と2番艦のウィリデへの落下。この二つを天秤にかけた時にどちらがよりマシかということになります。」

「それでは一応、選択肢として頭の隅に置いておいてください。」

「……了解いたしました。」

「皇帝陛下には私から伝えます。」


そして早速俺は皇帝陛下と上皇陛下へ説明をする。


「わかった。だが、その際にわたくしは2番艦に移る事を希望する。わたくしは常に臣民と共にある。」


皇帝陛下はそう決意を述べられた。

こうした不安の方が大きいだろう状況でこの対応ができるのは、15歳という若い皇帝だが本当に素晴らしいことだと思う。

俺はこの皇帝陛下に仕えることができて本当に良かったと思っている。


「そうか。分かった。そのつもりでいる。」


上皇陛下は簡潔な返答だった。

そして同僚の大沼さんには政府への説明を頼んだ。


「頑張れよ。」


最後には普段のキリッとした物言いではなく柔らかい励ますような言葉をもらった。

そして1番艦にいる総司令と1番艦の艦長にも伝える。

こちらは準備は進めておくという返答をもらった。

下準備はできた。


俺が各所への連絡をしている間に2番艦の艦橋では読み上げ機能が実装され、どうにか自力での運用が始められていた。


「申し上げにくいのですが……。」


艦長が申し訳なさそうに話しかけてくる。


「機関部では新たな人員は必要ではないようです。素人が来ても邪魔になるだけだと。」

「それでは機関部はどうやって最大出力の維持をするのですか?」

「どうやら直視装置装着者が見えていない人員を指揮しつつ運用するようです。」

「できるものなのでしょうか?」

「彼らができると言ってきているのですから恐らくは出来るのでしょう。なんでもこう……両耳を壁にくっつけて音を頼りにするとか。」


艦長はそう言うと手のひらを壁に見立ててヘルメットの額部分に当てる仕草をする。


「……分かるモノ……なんですかね……?」

「さあ……彼らができると言ってますから……。」


その手段はさておき、艦長は機関部員達の事は信頼しているようだ。

なので任せても良いのだろう……多分。


さて、こうなると人員に余裕ができてくるな。

俺たちが2番艦に着いたころに慌ただしくしていた二名の直視装置装着者も床に座り込んで休んでいて、現在は同じく読み上げ装置の設置がひと段落したらしい育波さんと留依の二人と4人で何やら話をしている。


彼女らには機関部の準備が整うまで少し休んでいてもらうことにしよう。

特に1番艦から来た留依と育波さんなどは途中多少の休息はとったものの働き詰めだ。

休める時にはしっかりと休んでもらおう。

1番艦による2番艦の姿勢制御という大仕事はあるものの、それらに俺たちの出番は殆どないだろう。

とはいえまだまだ何があるか分からないしな。


艦橋内は読み上げ装置のお蔭で”見える”人間がいなくても運用できているが、念のため2番艦の直視装置装着者の二人にはその補助に入っていてもらい、1番艦から来た育波さんと留依には食事と休息を取ってもらうことにした。

小型船で待機している瑠亜にも船を固定して休むよう伝える。


1番艦から来た直視装置装着者が休んでいる間にも俺は俺でやらなければならないことがある。

俺が休むのはその後だ。

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