第40話 オッサン、死闘を繰り広げる

「いまのは油断しただけで全然効いてないからな。いやホントノーダメージだから」

「ギ、ギギギ」


 魔力の光で目が眩みそうになりながら、魔眼で相手の一挙手一投足を注視する。この速さで動ける相手に、鈍重な武器や銃のたぐいは通用しないだろう。


 破壊力は下がるが、日本刀に魔力を上乗せして対応するしかなさそうだ。


「リーシャ全力で頼む。ここで残りの魔力を使い切ってもいい!

「わかりましたわ! 魔力供給! 【身体能力強化】!」


 リーシャの魔術で全身に力がみなぎってくる。上乗せされた魔力で、俺の周囲の大気が揺らいだ。


「いくぞ」

「ガギ、ギイイイイイイイイィ……ッッ!」


 そして、距離を測ろうとわずかに足を前に進めた瞬間、ライトナイツが襲い掛かってきた。


 ダンッと地面を蹴る音だけが響いて姿が消える。

 続いて大型トラックに衝突されたような衝撃が、激しく全身を叩いた。


 鎧ととっさに鋼鉄に変身させた俺の肉体が、ガリガリと鉄粉をまき散らしながらぶつかる。


「ガガ。ゴギギギギギギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイィッッ!」

「くっ、ぐううううううぅ……! 重い……!」


 今度は反応できたが、攻撃の重さに体がついていかない。

 両足で踏みとどまることができず、ズゾゾゾと地面を削りながら押されていく。

 こっちの重量も鋼鉄の変身で増加させているのに、なんてパワーだ。

 少しでも気を抜くと粉々に砕かれかねない。


「シネ。シネエエエエエエエエエエエエエッッ! ゴギギ、アギイイイイイイイイイイイイイィ」

「こいつ……強い……っ!」


 日本刀の刃が一ミリも鎧に入っていかない。鉄でも両断できる斬撃は、黒く太い血管で止められてしまった。


 スーパーアーマーでも使ってるのかライトナイツは。

 このままだと先に刃が折れる。


「だったら、【変身──」

「ジャマダ。ルルルルルゥッ!」

「ごっ、がああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!?」


 新たに武器を生み出そうとする前に、俺の体が浮き上がった。ライトナイツに頭をつかまれて、持ち上げられたのだ。


 二百キロを超す鋼鉄の体が、風船のように軽々と浮き上がる。

 反撃や防御を思考する時間もなく、そのまま風を切る音とともに、地面に叩きつけられた。


 ドゴンッと地震のような音が響き、大地が震える。


 いてぇ……衝撃が全身を伝わって、ミキサーでシェイクされた気分だ。

 人間のままなら、トマトみたいに頭が潰れていたな。


 なんにしても、このまま倒れているのはヤバい。俺はコガネムシに変身すると、爪の間から逃げ出した。


 一度距離を取って立て直しだ。


「リュウジ……がんばってくださいまし! 魔力供給! 【瞬間治癒】!」

「任せろ。あいつの動きは見切った。ここからは全部俺のターンだ」


 と、大口を叩いたはいいものの、根本的なスペックが違いすぎるな。リーシャのおかげで傷は回復しているが、このままではジリ貧だ。


 なにか手を考えないとな。


「ハーハッハッ! どうだい私の奥の手は!」


 いきなり瓦礫の中からハインツが立ち上がってきやがった。というかこいつ生きていたのか。


 俺が斬った右腕はネクタイで止血してるみたいだが。


「リーシャ、クラリッサ! ハインツの野郎をぶちのめしてくれ! あいつが消えれば魔力の供給ができなくなるはずだ!」

「了解ですわ!」

「言われなくても斬り殺してやる」

「悪いがもう遅いね。【血の対価・魔力解放】は魔術師の肉体の一部と、呪文を刻んだ物質から魔力を吸い上げ、使い魔の能力を大幅に引き上げる。いまのライトナイツは星界級に匹敵する力を身につけているはずだ。たとえ私を殺したとしても、魔力が尽きるまで止まることはない」


 最悪の状況を早口で教えてくれやがって。

 つまりこの化け物がガス欠になるまで、俺は戦わないといけないってことか。


 リーシャとクラリッサだけでも逃がしたいが、ライトナイツに追いつかれず、徒歩で森から脱出するのは現実的じゃない。


 やはり俺がなんとかするしかないな。


 ライトナイツの戦い方をコピーしようと、両手をかぎ爪に変身させたその時、とてつもない魔力の高まりを感じた。


「ゴギガギギギ。キエロ……【虹の光閃・滅界咆】!」


 開いたトラバサミのような口から、バチバチと黒い稲妻がほとばしる。中心に虹色の魔力が収束し、俺に狙いを定めていた。


 射線上にリーシャたちが含まれていたらマズい。

 俺は急いでその場を離れると、人のいない森を背にした。


 数秒後、ライトナイツのスキルが圧倒的な魔力を帯びて発射される。

 いままでとはレベルの違う極太のビームだ。


 発射の直前、俺は足をバネに変身させて限界まで高く飛び上がった。

 こんなものくらってたまるか。


 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォッッ!!


「ギシャアアア……!」

 おいおい、「嘘だろ……」


 熱風と轟音が吹き荒れ、思わず目を閉じる。なんとか着地に成功すると、俺の背後にあった森は跡形もなく消滅していた。


 体に穴を開けれた時と同じ現象が、何キロにもわたって続いているのだ。

 間違っても水蒸気でどうにかしようなんて考えなくてよかった。


 いや待て。

 スキルを使ったライトナイツはどこにいった? ビームを発射した地点にあいつの姿はなかった。


「一体どこへ……っ!?」

「ア゛ア゛アアアアアアアアアアアアアッッ! 【暗乗・虹の閃光】」

「い、【石造りの種】!」


 背後から発射されたビームは、石の壁に直撃して軌道を変えた。マイヤから受け取った魔道具のおかげだ。


 今までの虹の閃光よりも禍々しい、黒い雷をまとったスキルだった。直撃すればただじゃ済まなかったな。


 本当に命拾いした。


「動くなよ【変身】」

「……ギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッッ! ハナセエエエエエエエエエエエッ!」

「吹き飛べ! 【大爆炎の杖】!」


 腕を鉄の鎖に変身させて動きを封じ、ライトナイツ目掛けて杖を投げる。

 杖が胴体に当たると、大爆発が起こった。紅蓮の炎が熱風をまとい、火の粉を噴き散らす。


 町でポーンリザードに使った時の十倍は威力はある。

 さすがはマイヤだ。


「これで少しはダメージが入っただろ」


 結果から言うとこの一撃は悪手だった。大量の炎で敵の位置を見失ってしまったのだ。


 そして、報いはすぐに受けることになった。


「ゲググ。ゴギギギギギギ……ハカイ「【魔爪・虹の光帯】」


 地面からライトナイツが姿を現した時にはもう遅かった。

 爪の動きと連動して虹色の帯が迫り、俺の体は横から五つの部位に切り分けられた。





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