第35話 オッサン、罠地獄で奮闘する
「キシャシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!」
「こい、虫野郎」
巨体をうならせワームがこちらに突撃してくる。鋭い削岩機のような牙が、触れた物を一撃で、真っ二つに両断する。
牙の届かない懐にもぐりこむと、ガントレットで思いっきり殴りつけた。ブヨブヨした皮膚がたわみ、内部に衝撃を伝えた感触があった。
「シャギャギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!」
「効いたか」
ダメージがあったのか、ワームはその場で激しくのたうち回った。体液を噴出させない、打撃中心ならなんとかなりそうだ。
俺は回復する時間を与えないように、鉄の連打をあびせていく。サンドバッグを叩くような音が数分の間響くと、ついにワームは限界を迎えたようだ。
倒れた瞬間ズシンッと轟音が鳴り、泥が雨のように降り注いだ。
「ハァハァ……終わったか」
ワームは倒したが、魔力と時間を無駄にしてしまった。いまはこんなことをしている場合じゃない。
魔力の気配をたどり、また走りだす。ひたすらに続く沼地には気が滅入るが、ある程度走ると終点が見えてきた。
「ここが出口か」
魔眼で視ると枯れ木の幹に、光る扉のようなものが見える。魔力の気配はこの先に続いていた。
ここを通れば、元の城に戻れると思いたい。
「行くぞ」
俺は意を決して光る扉を通った。その先に見えてきたのは、
「ま、マジかよ……」
どこまでも続く灼熱の砂漠だった。
見渡す限りどこまでも砂しかなく、頭上からはギラギラと太陽が照りつけてくる。
使い魔の俺でも、茹で上がりそうな高温だ。
「本格的にマズいそこれは」
さっきのワームとの戦いで、これが幻覚のたぐいでないことはわかった。ここは侵入者を排除するために用意された、特殊な空間なのだ。
そう思うとあのあからさまな出口は、罠だったのかもしれない。この空間に魔眼のあざむく効果があっても、おかしくはないからな。
脱出するなら自力で道を探すしかなさそうだ。
「出口を見せろ。──【魔眼】!」
魔眼に魔力を集中させて、より強くリーシャへ続く魔力の気配を探る。そうすると元から見えていた糸よりも、強い気配を足元から感じた。
この下に本当の出口があるかもしれない。
「おおおおオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!」
腕をスコップに変身させて、全力で地面を掘る。それにしてもスタート地点に本当のゴールがあるのなら、この罠を考えたやつは性根が腐っているな。
俺はとにかく下に穴を掘り進む。
「まだか……まだかよ……まだ──な、なんだ!?」
十メートルほど掘ったところで、異変が発生した。足元が沈みはじめたのだ。テレビで見たことのある、流砂というやつなのだろう。
すぐに腰まで沈み、身動きがとれなくなってしまう。
「っ……埋まる……」
砂が口を塞ぎ、頭もすっぽりと飲み込んだ。俺の視界は完全な暗闇に飲み込まれる。
ザラザラした砂粒が全身に纏わりつき不快だ。
呼吸もできないが、これは使い魔なので問題ない。問題なのはどこまで落ちていくかわからないことだ。
ただ魔力の気配は絶対に下へ続いている。ならいっそのこと加速させた方が、早く目的地につけるのではないか。
「できるだけ早く下へだ。【変身】」
俺は全身を金属化させて、重量を一気に増やした。思ったとおり、下に沈んでいくスピードが加速していく。
この状態がずっと続くことが一番の恐怖だったが、思ったより早く終わりが訪れた。
「抜け……たか?」
砂から抜け出し、俺はドーム状の広い空間に放りだされた。周囲を見ると洞窟のように、無数の穴が開いているのが見える。
魔力の気配は穴の中の一つに続いている。いまは落下の最中だが、飛んでしまえば問題ない。
「【変身】」
俺はコガネムシに姿を変え、羽を振動させる。目当ての穴は斜め下の方向なのだが、その途中で新たな問題が現れた。
穴の中から無数の海鳥が出現したのだ。海鳥たちはいいエサを見つけたとばかりに、俺を狙って殺到する。
「マジで……いつまで続くんだこのクソ罠は!」
終わりの見えないトラップ空間。気づけば俺は叫んでいた。
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