第34話 オッサン、敵の本拠地に潜入する
「リーシャがいるのはここか」
空がオレンジ色になる頃、魔力の糸がある場所で止まっていた。そこは周囲を木々に囲まれた、森の中にある古城だった。
外見は朽ち果てた廃墟のように見えるが、扉のノブにだけ埃が積もっていないのが怪しい。
そして普通の景色を装いつつも、得体の知れないプレッシャーを感じる。
「さすがに無警戒ってことはないよな。【魔眼】」
魔眼で視てみると、光る球のようなものがびっしりと浮かんでいた。おそらく、侵入者を探知するスキルだろう。
正面から入っていくのは難しそうだ。
「あれに触れないようにいくか。【変身】」
おれはコガネムシに姿を変えると、こっそりと侵入することにした。ネズミにならなかったのは、地面にもあちこちに光球があるからだ。
近くの枝から飛び立って、羽音を鳴らし進んでいく。
「すごい数だな。隙間がほとんどないぞ」
この姿で飛ぶことに慣れていなかったら、確実に触れてしまっていたな。これだけ厳重な警備を敷いているということは、重要な施設なのだろう。
魔術師狩りにおこなった人体実験も、この場所の可能性が高い。五分ほど飛ぶと、ようやく光球を抜けることができた。
「さて、ここからどうするかだな」
いま俺は城の窓枠の部分に止まっている。ここから窓を叩き割ることは簡単だが、こちらの居場所がバレてしまう。
まずリーシャを救出しなければ、戦うこともままならないからな。
侵入できるところを探していると、壁に隙間が空いているところを発見した。古い建物だったことが幸いしたようだ。
この体ならギリギリ通れそうである。
「んぐ、狭いな」
六本の脚を動かして、壁の隙間を進んでいく。そこを抜けると、ようやく城内に入ることができた。
中は外見から想像できないほど、手入れが行き届いていた。通路には赤い絨毯が敷かれ、高そうな絵画や甲冑が並んでいる。
「さてと、リーシャの魔力は……」
魔力の糸は上階の方に続いているようだ。俺はネズミの姿に変身すると、階段を探すことにする。
部下が警備をしているかと思ったが、この階にはだれもいないようだ。しばらく進むと、やたらに幅広い階段が見えてきた。
「いま行くぞリーシャ」
近づいてきているのか、リーシャの魔力がより強く感じられる。ハインツがなにかする前に、間に合えばいいのだが。
急いで階段を上り半分ほどまで進んだ時、急に目の前の景色が変わった。
「な、なんだ!?」
いままで城の中にいたはずなのに、不気味な沼地にいる。周りにあるのは異臭の漂う紫色の沼と、枯れた木々だけだ。
幻覚のスキルか、他の空間に転移するスキルを使われたのかもしれない。なんにしてもマズい状況なのはたしかだ。
やはり魔術師の居城、強力な罠が仕掛けてあるようだ。ここに来てからずっと魔眼を使っているが、まったく探知できなかった。
「くそっ、こんなところでモタモタしてる場合じゃないってのに」
こんな場所でもリーシャの魔力は感じられる。いまはそちらの方向へ進むしかない。
変身を解除して、元の姿に戻る。
足元が沈みやすいが、なんとか歩けそうだ。
「急がねえと──ッ、ヤバい!」
魔眼に強力な魔力の反応があり、足元が青く輝きはじめる。俺はその場から跳躍して、枯れ木の上に着地した。
その数秒後、巨大なワームが沼から出現した。体長は二十メートルを超え、ミミズのような体の先端には、無数の牙が生えた頭部がある
あきらかに侵入者を排除するための門番で、話し合いが通じるような見た目じゃない。
「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!」
「やるしかなさそうだな」
俺は腕を日本刀に変身させる。ワームの突進をかわすと、すれ違い様に刃で分厚い肉を切り裂いた。
紫色の体液が派手に噴き出すが、問題はここからだった」
「あの体液酸かよ!?」
体液に触れた部分が煙を上げ、溶け出したのだ。近くにあった枯れ木も、瞬く間に黒いシミになった。
見ると日本刀も斬った部分が溶けている。
こっちは回復できない状態だってのに。直撃どころか掠るだけでも危険だな。打撃メインでやってみるか。
「野蛮な方法でいくぞ【変身】!」
俺は両腕を丸太ほどの太さがある、ガントレットに変身させた。打撃の威力は速さと重量だ。
こいつで迎え打つことにする。
拳を構える俺に向かって、再びワームが突進を開始した。
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