第31話 オッサン、黄金の騎士と戦う
「ま、魔力供給! 【瞬間治癒】!」
「すまん。助かった」
リーシャの魔力供給で腹部の傷がふさがっていく。ナイスタイミングだ。あれ以上ダメージを受けていたら危険だったな。
「てめえ! ──【変身】!」
俺は新たに腕を日本刀に変え斬りかかった。ライトナイツは黄金のランスを出現させると、刃を受け止める。
ガギンッと耳をつんざくような金属音が鳴り響いた。
「よくも腹に風穴空けてくれたな。覚悟しろよ金ピカ鎧」
「いまの一撃で即死しないのですね。銅級魔術師の使い魔にしてはやるようだ」
「まってください! なにか誤解されてますわ! わたくしたちは局長の敵ではありません!」
「誤解ではありません。魔術師狩り以外の人物はすべて消せと主からのご命令です」
リーシャの言葉にも耳を貸さず、ライトナイツは高速で槍の連撃を叩き込んでくる。
俺は残った手を鉄の盾に変身させ、どうにか軌道を逸らした。
一撃一撃が重く速い。こちらが追いつけるギリギリの速度だ。
「あまり時間をかけたくないのですが。【虹の光閃】」
「っ……リーシャ伏せろ!」
「は、はい!」
ランスを握っていない方の手から、虹色のビームが発射される。とっさに手首を蹴り上げたことで、ビームはあらぬ方向に放たれた。
運悪く軌道上にいた牧場の牛がビームの直撃を受けると、胴体に穴が開いて風船のように破裂した。
おびただしい量の血が水溜まりを作る。
「……なんだそのスキル」
なるほど俺が即死していないことに驚くわけだ。人間だろうが使い魔だろうが、あれを直撃して生きていられるわけがない。
その時、もろにビームを受けたマイヤの姿が目に浮かんだ。あの少女は俺たちに協力しただけで、なにも理解できないまま死んだのか。
「人の命をなんだと思ってやがる。この腐れ外道が! 【変身】!」
「な……にっ!?」
俺は腕をハンマードリルに変身させ、ライトナイツの兜を狙う。見たことのない道具が出現したことで、相手の防御に遅れが生まれた。
いまがチャンスだ。
「頭の風通しをよくしてやる」
「がっ、なあアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!」?
魔力で強化されたドリルの硬度と回転速度は、金属を発泡スチロールのように掘削する。
俺に接近戦を許したのが運の尽きだったな。
無数の眼球が潰れ、頭部が弾けとぶ。首を無くした鎧はガクガクと痙攣すると、その場でガシャンッと音を鳴らし崩れ落ちた。
「敵は取ったぞマイヤ」
ライトナイツの鎧から魔力が漏出していく。
とどめを刺そうとドリルを振り上げたその時、聞き覚えのある声が背後から届いた。
「ハーハッハッ! 待ちたまえリュウジくん!」
「ハインツ……局長」
「おっと、動かないでくれたまえよ。リーシャくんに死んでほしくはないだろう?」
振り返るとハインツの姿があった。召喚陣の書かれた布を腕に巻き、そこから出現した触手がリーシャの全身に絡みついている。
白く細い腕や足、そして首にもだ。
「リュウジ! あ……あああああああああっっ!」
「やめろ! リーシャに手を出すな!」
「ではその物騒な武器をしまってもらおうか。怖くて仕方がないんでね」
触手がリーシャをギリギリと締め付け、苦しそうな声が口からこぼれる。
からかうようなハインツの言いぐさには腹が立つが、ここは言うとおりにするしかない。
血が沸騰しそうなほどの怒りを抑え、俺は変身を解除する。
ここから一体どうするかだな。
ハインツも主力の使い魔は戦闘不能のはずだ。隙を見て触手を切断できないだろうか。
ひとまず会話で様子をうかがうことにする。
「ハインツ……なぜ俺たちを裏切った。マイヤを殺した理由はなんだ」
「キミたちが真実を知ってしまったからだよ。魔術師狩りに逃げられたのは想定外だったけど監視用にかけておいたスキル、その中の一つはまだ効果が残っていたのさ」
「スキルだと」
「【忌み名の棘】魔術師狩りから『ハインツ・ゴールドスミス』の名を聞いた者は足にイバラの紋章が浮かぶ。ってね」
靴を見るとたしかに薄っすらとイバラの絵が見える。使用されている魔力があまりにも少なく、気づかなかった。
「それで殺すと決めたのか。こっちはまだ半信半疑だったんだぞ」
「キミたちが信じようと信じまいと結論に変わりはない。私の計画を知った者を生かしておくつもりはないからね」
計画、魔術師狩りに行った人体実験のことだろうか。
俺が思っていたよりも、彼女の存在は重要らしい。
「悪いがいつまでも質問に付き合っている暇はないのだよ。魔力供給。【瞬間治癒】」
「我が主……申し訳ありません。油断しました」
「遊びすぎたライトナイツ。次はないと思え」
ライトナイツが起き上がり、兜が元通りに再生していく。
マズいな。まだリーシャを助けるプランもないのに、状況が悪化していく。
「ご命令通り計画を知った者を消しましょう。だれ一人として生かしては帰しません」
「いや、リーシャくんは生かして連れて帰る。ルヴィエオラ家の当主が初仕事から行方不明なんて、他の局長に突っ込まれたら面倒だ。あとで人格を消去して、生き人形にでもなってもらうよ」
「では彼女と魔術師狩りは除外します」
こいつらなんて方向で話を進めてやがる。くそ、戦うことさえできればぶっ飛ばしてやるのに。
「リュウジ、わたくしにかまわないで! 戦ってください!」
「使い魔にそんなセリフを吐くなんて魔術師失格だね。キミが死んだらリュウジくんも消えるてしまうのに。ライトナイツ、終わらせてくれたまえ」
「ハイ。【虹の光閃】」
「ぐっ……リーシャ……」
今度は手のひらから太いビームが発射され、虹色に輝きながら俺の胴体を真っ二つにした。
形容のしようがない激痛とともに、魔力が大量に漏出していくのがわかる。
「リュウジ死なないで! わたくしにできることならなんでもしますからこれ以上──」
「リーシャ! ──あ、あ」
リーシャが喉が枯れそうなほど叫んでいるのがわかる。
彼女にそんなことをさせる自分にも怒りが湧いたが、続くビームで頭が消滅すると、なにも感じられなくなった。
俺の意識は暗黒の世界に沈んでいった。
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