第28話 オッサン、魔術師狩りと再戦する②

「魔術協会の犬どもが。貴様らだけは絶対に生きて帰さん。どんな手を使ってでもな!」

「えっ」


 魔術師狩りは俺をにらみながら、ノールックでリーシャにナイフを投げた。なるほど、先に魔力の供給元を絶つつもりか。


 だが、俺に焦りはなかった。いまはマイヤがそばにいるからだ。


「出番でぇす。魔道具【石造りの種】!」


 マイヤの足元に落ちていた種から、瞬時に石の壁が生成されナイフを防いだ。

 ここに来るまでに自動防御の魔道具だと説明を受けた。主人に危険が迫れば、コンマ数秒で発動できるらしい。


「こっちは気にしないで思いっきりやってくださぁい!」

「し、心臓が止まるかと思いましたわ……魔力供給! 【スキル強化】!」

「俺の主人によくも手を出してくれたな。覚悟しろよ」


 マイヤが後ろを守り、リーシャも残り少ない魔力を供給してくれている。俺は腕を鞭に変身させ、距離を取ったまま攻撃する。


 先端には鉄の分銅がついており、直撃した長椅子が派手に壊れて木片をまき散らした。


「その自分たちは正義だという態度が許せん。汚らわしい外道どもが!」

「さっきからなんの話だ。匂わせてないではっきり言え」

「フン、また知らないふりか。私を追ってきたというとは、ハインツから事情を聞いているんだろ?」


 ハインツ局長と魔術師狩りの間でなにかあったのか? 敵の言葉に耳を貸すべきではないのだろうが、どうしても気になってしまう。


 そもそも魔術師狩りが凶悪な犯罪者なら、なぜ神父やシスターを人質に取らなかったのだろう。

 俺たちと正面きって戦うよりも、その方がはるかに楽なはずだ。


「お前にはあとで色々と聞かせてもらうぞ」

「貴様が生きていればな」


 続けざまに投擲されるナイフを、俺はギリギリのところで躱す。こちらの鞭も魔術師狩りには当たらない。

 なにか決め手を見つけないとな。


 そう考えているところに、数を増やしたナイフが飛んできた。俺は長椅子を持ち上げて直撃を防ぐ。


 防御で視界がふさがったタイミングを狙ったのか、魔術師狩りがこちらに向かって突っ込んでくる。


「決着をつけようか」

「こい魔術師狩り」


 武器がナイフしかない以上、リーチは限られる。間合いに入った瞬間、俺は槍で迎撃する算段だった。


 だが、魔術師狩りは間合いに入る寸前でかがみ、前転から足を突き出した。足の先には靴の先端に仕込まれた、銀の刃が見える。

 そんなところにまで武器を仕込んでいたのか!


「終わりだ。使い魔」


 鋭く尖った刃の先端が、俺の胸に食い込む。わずかに見えた魔術師狩りの表情は、嗤っているように見えた。

 その気持ちはよくわかる。なぜなら俺も同じように嗤っていたからだ。


「この感触……まさか!」

「悪いが俺の勝ちだ」


 魔術師狩りの刃は俺の服を貫通し、背中から飛び出していた。ただし、肉体

 を素通りしてだ。


 俺は相手がこちらに向かってきた時すでに、肉体を骨格だけ残して動けるように変身していた。

 肉がない分、服の下はスカスカだ。


 相手の一撃が空振りに終わったことを確認すると、立ち上がった魔術師狩りを思いっきり両腕で抱きしめた。

 相撲でいう『鯖折り』の体勢だ。


「はっ、はなせっ!」

「それは無理な相談だな」

「ぐっ、ぐあああああああああああああああああああああああああッッ!」


 俺は腕を鋼鉄化させ、万力のような力で魔術師狩りを締め上げる。

 骨がきしむ音が聞こえはじめ、相手の腕が折れたその瞬間、魔術師狩りは意識を失っていた。


「言っただろ。あの夜とは違う」


 変身でロープを生み出し、逃げられないように縛っておく。途中で避難したのか神父やシスターたちの姿はなく、リーシャとマイヤがこちらに走ってきた。


「お疲れ様ですわ。胸を刺された時はわたくしの心臓も止まるかと思いましたわよ……」

「これでお仕事完了でぇすね」


 リーシャは少し涙ぐんだ声で、マイヤは弾んだ声で労いの言葉をくれる。ひとまず任務完了と言いたいところだが、まだ謎は残っていたな。


 どうやって魔眼でも探知されずに、町を移動していたかだ。以前仮説を立てていたリーシャが、魔術師狩りに触れて確かめてくれている。


「……やはり、わたくしの思っていたと通りでしたわ」

「なにかわかったのかリーシャ」

「魔術師狩り、彼女は人間です」


 俺はすぐにリーシャの言葉が理解できなかった。人間? 俺と互角以上の動きをしていた魔術師狩りは人間だったのか!?


「使い魔と戦える人間なんて、そんなやつがいるのか?」

「普通はありえませんわ。人間の運動能力ではけっして使い魔に追いつけませんから」

「じゃあこいつはなんなんだ」

「なんらかのスキルを埋め込んで肉体を改造されていますわね。簡単に言うと彼女自身が魔道具化ということですわ。見てくださいまし。もう傷が治りはじめていますわ」


 いま折ったばかりの腕から異音が聞こえ、骨を繋げようと勝手に動いていた。そのグロテスクな光景は、ソンビを思わせる。


 俺たちは一体なにと戦っていたのだろうか。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る