第27話 オッサン、魔術師狩りと再戦する

「こ、こんなことが……」


 監視カメラの映像を見せられて、神父は明らかに動揺していた。この教会が魔術師狩りを匿っている動かぬ証拠だからな。


 これがミステリードラマなら大ブーイング確定の推理だが、俺は名探偵でも名刑事でもない。

 魔術師狩りを捕まえられるなら、どんな手段だって使ってやる。


「わかってもらえたようですね。映っていたシスターを引き渡してください」

「し、しかし……それは……」

「もういいです神父様」


 うろたえる神父をかばうように、シスターの一人が進み出た。監視カメラに映っていたあの女だ。

 彼女が頭の頭巾をとると、腰まで伸びる銀色の髪が姿を現す。


 もっと凶悪なツラを想像していたが、意外にもクール系の美人だ。だが顔に見とれている場合ではない。

 その手には呪文の刻まれた、銀製の剣が握っているんだからな。


「得体の知れない私を今日まで匿ってくれて感謝しています。食事と寝床をいただいたご恩はけっして忘れません。ですが……私はまた旅立たなくてはならないようです」


 落ち着いた口調で魔術師狩りはこちらに近づいてくる。魔眼で視てみたが、やはり魔力の反応はなかった。


 変身でもなく、これが本当の姿なのだろう。一歩、また一歩と距離が縮まり、俺は全身に魔力を集中させた。

 そして剣の間合いに入った瞬間──。


「またお会いしましょうみなさん」

「【変身】!」


 魔術師狩りの剣が俺の首を狙い、下段から振り上げられた。俺はスキルを発動し、ネズミに姿を変える。

 剣は虚空を斬り、その隙に背後へ回りこんだ。


「二度も同じ手をくらうかよ」

「ぐっ……ッッ!」


 人間の姿に戻り、鉄の拳を思い切り叩きつける。剣の腹で受け止められたが、前のような焼ける痛みはなかった。

 どうやら銀の力は刃の部分にしかないようだ。


「二人とも争いはいけません! まずは話し合いましょう!」

「お言葉ですが神父様……魔術師どもは人面獣心の畜生ばかり。獣相手に言葉など必要ありません!」

「リーシャ、マイヤ! 他の人たちを近づけないようにしてくれ!」


 神父やシスターたちと距離を取りながら、俺は剣をかわし続ける。奥の通路から二人が出て来たことを確認すると、魔術師狩りにまた意識を集中させた。

 それにしてもいまの罵詈雑言はなんだったのだろうか? 


「人面獣心ってのはどういうことだ。お前だって人殺しだろうが」

「私が好きで殺したと思うか! 使い魔ごときがわかったような口を利くな!」


 四方八方から迫りくる斬撃を、俺は鉄の拳でいなす。刃にさえ触らなければ問題ないが、剣さばきが速すぎて防御するのも中々キツい。


 生死を問わないならもっと強力な武器に変身できるのだが、生きたまま捕らえるとなるとそれも難しい。


 さて、どうしたものか。


「無理に傷つけるつもりはない。大人しくしてろ。【変身】」

「ちっ、鬱陶しいっ!」


 腕をロープに変えて足を封じようとしたが、長椅子の上に飛び乗って回避された。スキルこそ使ってこないが、身体能力が高いのが厄介だな。

 なんとかして隙を突くことができれば……。


「魔力供給! 【身体能力強化】!」

「リーシャ、助かる」

「ぐっ、拳の重さが上がっただと!?」


 リーシャの魔力供給で、俺の全身から力があふれ出す。ただ身体能力をすべて引き上げるのは魔力の消耗も激しい。

 短期決戦で勝負を決めろってことだな。


「その邪魔な剣、壊させてもらうぞ」

「っ……!」


 剣の中心を鉄拳がとらえると、バキンッという音とともに真っ二つに折れた。これで相手は武器なしだ。


 俺は一気呵成に畳みかけようと、大きく拳を振りかぶる。その時、魔術師狩りの手が修道服の腰元に回り、銀色のナイフが投擲された。


「まずいっ!」


 変身で回避する余裕もなく、二本のナイフが腕に刺さる。鉄の状態でも、ダメージが貫通する銀の効果は健在のようだ。


「リュウジ! 腕を切るのですわ!」

「わかってる!」

「魔力供給。【瞬間治癒】!」


 焼けるような痛みが襲ってくる寸前に、俺は自分の腕を切断した。その後、すぐリーシャが治癒魔術を使い腕を再生させる。


 いまのはかなり危なかった。まだ心臓がバクバクしている。


「決まったと思ったのがな。それなりに頭が回るようだ」

「もう二度とくらうのはごめんなんでな」


 余裕ぶった反応を返したが、もう一度くらいわけにはいかないな。すぐに腕を落とさなければ、焼ける痛みで戦うどころじゃない。

 それに、リーシャの魔力をだいぶ無駄にしてしまった。


 どういう結末になろうと、決着の時は近そうだ








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