第26話 オッサン、推理する

「マイヤ、ちょっといいか」

「おかえりなさいリュウジさん。なにかあったんでぇすか?」


 俺とリーシャは町に戻り、森にいた死体のことをマイヤに話した。

 魔術師狩りの情報が洩れている可能性については伝えようか迷ったが、リーシャを救ってくれた彼女のことを信じて、すべてを伝えた。


「そんなことがあったんでぇすね。田舎魔術師のわたしにはなんと言ったらいいか……」

「混乱しているのはわたくしたちも同じですわ。このことはハインツ局長にも話すつもりです」

「魔術師狩りを中心にこの町で異常事態が起こってるのはたしかだ。俺はいまからその原因を突き止めようと思う」


 教会に行ったときの話をもう一度する。俺の仕掛けが上手くハマっていれば、魔術師狩りの正体がわかるはずだ。

 そうすればリーシャの仮説も証明できる。


「わかりました。わたしも一緒に行かせてくださぁい。戦闘は苦手だけどがんばってみます」

「助かる。マイヤは教会の人たちを守ってやってくれ」

「わたくしも全力でサポートしますわ」


 工房で準備を整え、俺たちは教会へ向かう。胸の傷の借りを返すときがきたようだ。






「急にすみません。前に言った通り、またうかがわせていただきました」

「リュウジさん、お久しぶりです。今日はどういったご用件でしょうか?

「以前話した不審人物がここにいる証拠がつかめたかもしれません。協力してもらえませんか?」

「わ、わかりました。それで私はどうすれば……」


 俺は神父に事情を説明する。かなり戸惑っていたようだが、最終的にはこちらの要望を聞き入れて、祭壇の前にシスターたちを集めてくれることになった。


「ここに集まればいいのですよね?」

「一体どうしたのでしょう。だれか事情をお知りの方は?」

「よくわかりませんが不審人物について話があるとかなんとか……」

「パパどうしたんだろう」


 集まったシスターたちは、意図がわからず動揺しているようだった。まあ魔術の関係者に呼びされることなんてないだろうし、無理もないな。

 その中には前に会ったナタリアという神父の娘もいる。俺が覚えた違和感は彼女が原因だ。


「みんな不安になってますわね」

「無理もないでぇすよ」

「二人は俺が話している間、祭壇右奥の通路に隠れていてくれ」

「わかりましたわ。魔術師狩りが正体を現すまで、ですわね」

「そうだ。じゃあいってくる」


 リーシャとマイヤに作戦を伝えて、俺はシスターたちの前に出る。すぐそばでは神父は不安そうに事態を見守っていた。


「みなさん本日はお集まりいただきありがとうございます。俺は魔術協会所属の使い魔、リュウジと申します」

「リュウジさん!? 町を救ってくださった方ですよね?」

「今朝お会いしたばかりですわ。なんのご用なんでしょう」


 あの夜の戦いのおかげで、シスターたちの反応は悪くない。使い魔というだけで話を聞いてくれない展開はなさそうだ。


「この町に来たのは魔術犯罪対策局の仕事で、『魔術師狩り』と呼ばれる犯罪者を追っているからです。そして、その悪党はみなさんの中にいる可能性が極めて高い」

「まってください! ここのシスターは一年前からいる者たちばかりだと、説明したばかりではありませんか!」

「神父様、はっきり言いましょう。あなたは嘘をついていますね?」


 俺の言葉にシスターたちから、どよめきが聞こえてくる。娘がいる前で悪いが、手加減はしていられない。


「私は嘘などついて……」

「この町では二週間ほど前からはぐれ使い魔が発生しています。基本的にはマイヤが対処していたようですが、この教会の近くにも来たと娘さんが言っていましたね?」

「え、ええ」

「そう、『教会の近くにも出て来て、わたしも怖かったよ』と言っていました。ただそのことをマイヤにたずねても、教会の付近で戦った覚えがないそうです」

 神父が息を吞み、シスターたちは押し黙った。俺の想像していた通りの展開のようだ。


「ではだれがはぐれ使い魔を倒したのか? まさかここのシスターではないでしょうし、通りすがりの一般人でもかなりの人数が必要です。それができるのはあの時、魔術師狩りしかいません。神父様、あなたは魔術師狩りにシスターか娘を助けられ、その恩に報いるため教会で匿っているのではありませんか?」


 俺は自分の推理を一気に言い切った。もちろん他の可能性もあるが、自信なさげに言ってはプレッシャーがかけられないからな。


 こっちが真実に気づいていると思わせるのがコツだ。これで自白してくれれば楽なのだが……。


「いえ、そのような事実はありません。まだ幼い娘のことです。なにか勘違いをしているのでしょう」

「魔術師狩りのことなど知らないと?」

「はい。この場にいるだれに聞いてもそう言うでしょう」


 自分たちの命の恩人ならシスターたちは庇うだろう。家族のようにここでずっと一緒に暮らしているなら当然のことだ。

 俺はいまからこの人たちの嘘を、無理やりにでも暴かなければならない。


「そもそもあなたの話はすべて推測にすぎない。証拠はあるのですか?」

「証拠ですか。あります」


 大きなどよめきが教会に響く中、俺は石壁の中に隠しておいた監視カメラを取り出した。

 前に変身でスマホを作った時は機能が多すぎて失敗したが、機能を絞れば一つくらいは機械も作れる。


「なんでぇすかあの道具? あんなの見たことありません」

「映像を記憶装置だと聞いていますわ。わたくしもちゃんと見るのは初めてですの」


 前に来た時に設置しておいたもので、魔力をフル充填しておけば、一週間は映像を記録することができる。


 リーシャには負担をかけるし、体の一部を切り離し維持するので、体内の魔力総量が減るのが欠点なのだが。


「神父様、どうぞご覧になってください」


 映像をチェックすると、そこにはあの夜に剣をたずさえ扉に向かうシスターの姿があった。





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