第23話 オッサン、魔術師狩りと戦う

「どうしてマイヤさんの使い魔が死んでいますの……?」


 リーシャが怯えた声で言う。ポーンリザードに殺されたのかと思ったが、自由に飛べて変身もできるインプが簡単にやられるだろうか?


 俺がそう考えていると、少し離れた場所に人影が見えた。逃げる遅れた住民かと思ったが、その人物はボロボロのマントをまとい、フードで顔を隠していた。


 下水道でドブネズミに聞いた不審人物の情報が頭をよぎる。聞いた話とイメージが合致しすぎているな。


「リーシャ下りてくれ」

「どうしましたの?」

「あいつが魔術師狩りかもしれない。もし当たっていたら魔力供給を頼む」

「わ、わかりましたわ!」


 リーシャは背中から降りると、俺から距離を取った。遠すぎず近すぎず試験の時と同じポジションだ。

 俺は日本刀を構えながら、フードの人物に近づき声をかける。


「お前なに者だ? この町の人間じゃないよな」

「…………」

「通りすがりの一般人なら隠れた方がいいぞ。いまトカゲの使い魔が暴れまわってるんだ」

「…………」

「俺は敵じゃないから安心してくれ。なあ『魔術師狩り』」

「…………っ」


 最後の言葉を聞いた瞬間、わずかだが肩が動いた。やはりこいつで間違いない。足に魔力を集中させて地面を蹴り、一瞬にして相手の背後に回る。


 そのまま体を回転させ、日本刀の峰で胴体を狙った。殺すなという命令だが、使い魔でも悶絶は避けられない威力だ。


 だが、俺の刃は相手に触れる前に、剣によって受け止められた。


「なにっ!?」

「…………」

「こ、こいつ!?」


 魔術師狩りは両刃の剣を振るい、俺の刃をすべて弾いてくる。速い! アクエアリアスでも反応できなかった斬撃に、すべて対応してくる。


 腕力も相当で鍔迫り合いならこっちが負けそうだ。こんなやつが魔力の痕跡も残さずに、戦えるのか。

 

「くっ、力が負けか。リーシャ!」

「魔力供給! 【腕力重点強化】!」」

「…………ッ」

「ここからが本番だ。いくぞこの野郎」


 リーシャに手助けをしてもらって、ようやく斬り合えるようになった。本当になんてパワーだ。


 いまの俺は教会にした仕掛けのせいで、常に魔力が削られている状態になっている。雑魚相手ならともかく、このレベルと戦うなら追加の魔力供給が必須だ。

 リーシャには負担をかけて申し訳ないが、いまは頑張ってもらうしかない。


「ム……」

「どうした。風向きが変わってきたか?」


 相手からかすかに声が漏れる。これで俺の方がわずかに有利だ。

 少しずつ日本刀がマントを削り始めている。このまま押し切れるかと思ったが、魔術師狩りは後ろに飛び退くと、もう一本両刃の剣を取り出した。


「…………いくぞ」


 一本目と違い、刃の部分になにか文字が彫ってあるように見える。魔術師狩りはその剣を中段に構え、斬りかかってきた。

 俺はまた日本刀で受けようとするが──。


「かわしてくださいまし!」

「な、に……!?」


 リーシャの声に反応し、剣が触れる瞬間に体を引いた。しかし、完全には躱しきれず刃が胸のあたりをかすめる。


 その瞬間、焼けるような痛みが体を貫いた。鉄の荊を真っ赤になるまで熱して、体に巻き付けたようだ。


「がっ、ぐうううううううううううううううぅっっ! なんだいまのは!?」

「やっぱり……あの武器でしたのね」

「リーシャ、知ってるのか?」

「あの剣から感じる魔力は魔術協会大聖堂のものと同じですわ。つまり、洗礼済みの銀製武器ということです」


 初めて聞く単語だ。それがいまのダメージに関係しているのか。


「せんれい、ぎんせい……? つまりどういうことだ」

「使い魔を殺すことだけを目的にした武器ですわ。どんな物質に変身しても、構成している魔力そのものを破壊されてしまいますから防御ができません。つまり斬られたらお終いということですわ!」

 

 ガード不能のチート武器ってことか。かすっただけでも、泣き叫びたくなるほどのダメージだ。

 あの刃がまともに入れば、戦闘不能は免れない。ここは距離を取って戦うか。


「剣の勝負に無粋だが悪く思うなよ」


 手をリボルバーに変身させ、魔術師の胴体に狙いを定める。少し卑怯な気もするが、手段を選んでいる場合じゃない。

 意思が引き金を押し、銃口から弾丸が発射される。見て躱すことは不可能な鉄の礫は──当然のように剣に阻まれた。


「おいおい、嘘だろ」

「…………」


 一本目の剣が弾丸を真っ二つに切断している。直撃に耐えられるならまだしも、見て反応できるものなのか。

 やはりこいつは相当な化け物だ。


 リボルバーが無理ならガトリングガンにでも変身するか? いやダメだ。これ以上リーシャの魔力は減らせない。

 前のように倒れたら、今度はフォローできない。


「どこでその剣技習ったんだ? 殺人鬼のサークルでもあるのか?」

「…………」


 さっきから会話に応じる気がまったくないな。声も聞き取りづらいし、なにか事情でもあるのだろうか。


 これは思った以上に厄介な相手かもしれない。俺と魔術師狩りは正面から向き合い、互いに隙をうかがう。


 しかし、均衡は駆け引きの必要もなく、あっさりと破られた。


「横から来ていますわよ!」

「くっ……またトカゲか」


 魔術師狩りに意識がいっている間に、路地裏からポーンリザードが飛び出してきた。一撃で眉間に銃弾を叩きこんだが、あからさま隙を作ってしまう。


 マズい。これはやらかしたか。


「リーシャ! 防御を──」


 焼けるような痛みを覚悟して、視線を戻す俺の目に映ったのは、だれもいない無人の往来だった。


 ようやく邂逅した魔術師狩りは、俺を嘲笑うように姿を消していた。








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