第22話 オッサン、トカゲ使い魔と戦う

「きゃああああああああああああああああああああああああああっっ!」

「だ、だれか助けてくれぇ!」

「ママーどこー?」

「このトカゲどもはどこから出て来たんだ!?」

「捕まるな! 走れ!」


 建物を壊されて外に出た人たちで、表通りは大騒ぎだった。ポーンリザードは目に入ったものを、手当たり次第に襲っているようだった。


 なにか目的があるとか命令を受けているとか、そういう様子はまったくない。これが魔術師狩りの、はぐれ使い魔の行動だとすれば意味が見えてこない。


 一体なにが目的なんだ。


「じっとしてろトカゲども」

「ぎ……ギャヒィッ!」

「ガギ……ハグぅッ!」

「オ゛、ギイイイイイイイイイィッッ!」


 俺は考えを巡らせながら、日本刀を連続で振るう。刃が流れるように奔り、首や胴体を切断するたびに、魔力が噴き出し肉体が崩壊を始める。


 俺の脅威に気づいたのか、数体のポーンリザードが集まり、こちらに向かってきた。数の利で袋叩きにするつもりだろう。

 だがやつらは知らない。使い魔を強化できる魔術師の存在を


「魔力供給! 【身体能力強化】!」


 リーシャの声で全身に力があふれてくる。俺は強く地面を蹴ると、敵が目で追えない速度で間を通り抜けた。

 鋭い爪も牙も服を傷つけることすっらできない。


 その間、日本刀で十二回は切ったが、ポーンリザードはその動きにまったくついてこられなかった。



「遅いっ!」

「ギ、あぎ……?」

「がぎゴゴ……ガッ」

「ごえ……ベベベベべ」

「ぎゃギギギギギイイイイイイイイイィッッ!」


 ポーンリザードが背後を振り返ると同時に、首や胴がバラバラになって崩れ落ちる。大量の魔力が噴水のごとく噴き上がった。


 やっぱりこいつらは敵というレベルに達していないな。はっきり言ってしまえば雑魚だが、数が多いのが厄介だ。


「お前らの仲間を殺しているのは俺だ! どこからでもかかってこい!」


 少しでも敵を集めようと、大声で叫ぶ。つられたポーンリザートが何体かこちらにやってきた。


 俺とリーシャだけで町の人々を守り切るれるだろうか。そんな不安を抱きつつも、視界に入る敵を片っ端から斬り捨てていく。


 だかそれは悪手だった。俺だけが先行したことで、リーシャとの距離が開いてしまったのだ。


「魔力供給! 【スキル強──えっ」

「ガギギゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォッッ!」

「リーシャ!」


 屋根の上に隠れていたポーンリザードが、リーシャを狙い頭上から奇襲を仕掛けてきた。いくら速度を強化されていても、体の向きを変える時間がない。


「ま、魔術障壁……っっ」


 ダメだ。障壁を展開している時間もない。

 心臓がドクンッと大きく跳ねる。だが、俺の想像する最悪は訪れなかった。まばゆいばかりの炎が、中空で炸裂したのだ。


「ギャゴゴガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!」

「な、なにが起きましたの!?」


 炎を浴びのたうち回るポーンリザードに、驚きで目を丸くするリーシャ。その後ろからよく見知った魔術師が姿を現した。


「遅れてすみませぇん。マイヤ・リピース参戦します!」


 マイヤは全身に杖やナイフ、皮袋を装備していた。これが魔道具に特化した戦闘スタイルということなのだろう。


「隠れているやつらは全員出てきてもらいまぁす。【刃の鳩】!」


 マイヤの体に装備されたナイフに羽が生え、鳥のように飛び立っていく。数秒もすると屋根の上や建物の影に隠れていた敵は、悲鳴を上げながら出てきた。


「吹き飛べ【爆炎の杖】!」


 姿を現したポーンリザードの中心にマイヤは杖を投げる。杖が地面に当たると、激しい

 音を立てて、オレンジ色の炎が球体を描いた。

 さっきリーシャを助けたのはこの魔道具だったのか。


「ここはわたしに任せてくださぁい。お二人は他の人をお願いします!」

「了解した。リーシャ、こっちに来てくれ」

「わかりましたわ……って、ええっ!?」


 リーシャから離れると、またいまのようなピンチを招きかねない。少々不格好だがこのやり方で戦ってみるか。


 俺はリーシャをおんぶすると、脇腹のあたりをロープに変身させてしっかりと固定した。これで激しく動いても、振り落とされることはないはずだ。


 密着したことで胸が思いっきり当たっているが、いまは人命が優先だからな。不埒なことを考えている場合じゃない。


「よし、いくぞリーシャ」

「は、はい……」

「しっかりつかまってろよ」


 リーシャを背負ったまま、俺は町の中を走り回る。ポーンリザードは見つけ次第右手の日本刀で両断した。


 不意打ちを仕掛けてくるタイプは、町中に飛び立った刃の鳩があぶり出してくれるので、無用な心配をすることはない。

 マイヤには頭が上がらないな。


 三十体は斬り捨てた頃、俺たちは教会の前に来ていた。特に理由があったわけではない。町中走り回って、最後に来たのがたまたまこの場所だったというだけだ。


 いまさらになって、神父やシスターたちのことが心配になったが、幸いなことにポーンリザードの姿や暴れた形跡はなかった。

 俺はほっと息を吐く。


「急に止まってどうしましたの?」

「なにか気になるな。【魔眼】」


 魔眼で見ると地面にポーンリザートが消滅した時の魔力が、べっとりとこびりついていることがわかる。

 まさか俺たちよりも先に、倒した人間がいたのだろうか?


「り、リュウジ! あれを見てください!」


 いきなり背中に乗せたリーシャが叫んだ。彼女が指差す方向を見ると、いままさに消滅しかかっているインプの姿が見えた。


 それはマイヤが使い魔にしていた、ゼレドの死体だった。





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