第19話 オッサン、教会で聞き込みをする
教会? こんなところにいるのなら、もうマイヤが見つけていそうだが。
ただの通り道にしているかもしれないが、一応調べてみるか。
俺は門をくぐると、分厚い木製の扉をノックした。
「はい、なんのご用でしょうか?」
「魔術犯罪対策局のリュウジと申します。神父様にうかがいたいことがあるのですが」
「少々お待ちください」
扉を開けたシスターに局員手帳を見せると、呼び出しに応じてくれた。
所属組織が明確だと話が早くて助かるな。
それにしても異世界に来て、刑事ドラマみたいなことをするとは思わなかった。例によってテレビか小説の知識しかないのだが、上手くいくのだろうか?
もちろん仕事にためにやるしかないのだが。
しばらくするとここの神父が現れた。白い髭をたくわえた、温厚そうな顔つきの老人だ。
「魔術関係の方とうかがいましたが。どういったご用件ですかな?」
「この町で魔術を悪用する不審な人物がいると情報が入りました。教会を潜伏先にしている可能性もあるので、調べさせてもらってもかよろしいですか?」
「かまいませんよ。どうぞ見ていってください」
神父に案内されて、教会の中に入る。中には長椅子がずらりと並び、祭壇にはステンドグラス越しに光が降り注いでいる。
信者が訪れる時間ではないのか、人影は見当たらずがらんとした雰囲気だった。まずはスキルを使ってみるか
「【魔眼】」
かすかな魔力の痕跡も見逃さないように、隅々まで観察する。しかし、ここにも怪しい魔力の反応はなかった。
だがこれで退散するわけにもいかない。神父に色々とたずねてみることにする。
「人がいませんが、いつもこんな感じなんですか?」
「いまはほとんどシスターが食事を摂っていますので。普段は掃除や聖歌の練習でにぎやかですよ」
「食事を見せてもらっても? 中には入らないので」
「ええ」
祭壇の左手にある扉を通って少し歩くと、シスターたちのいる食堂が見えてきた。みんなパンやスープを落ち着いた所作で口へ運んでいる。
まさに清貧といった光景だ。
シスター髪や肌の色は様々で、あちこちの町からここに来ているのかもしれない。教会はわけありの人物を受け入れるイメージが俺にはあった。
魔術師狩りもここにいるのだろうか。
「この中に最近新しく加わったシスターは?」
「いませんね。みんな一年以上前からいる者たちです」
たしかに浮いているシスターはいないように見える。何人かに不審人物について質問したが、答えはみんな同じで「見ていない」そうだ。
その後も教会の中を案内してもらったが、どこを魔眼で見ても魔力の痕跡は見つからない。なにかのスキルで偽装しているにしても、ここまで完璧に消せるものなのだろうか?
「お父様、その方は?」
「魔術協会の方だよナタリア。悪い人の捜査をしていらっしゃるそうだ」
その途中で神父の娘らしい小柄なシスターと出会った。歳はまだ八歳くらいだろうか。
せっかくなので彼女にも質問をしてみる。
「わたしも見てないです。ごめんなさい」
「最近あった事件でも大丈夫だよ。食べ物がなくなったとか、どんな些細なことでもかまわないから」
「えっと、使い魔っていうのがきて困ってます。トカゲみたいで人や動物を襲うから大人の人や魔術師さんも大変です」
マイヤが言ってたやつか。町で暴れたらしいし大変だな。
なにが目的なのかまだわからないが。
「この近くにも出たのか?」
「うん。教会のそばにもきて、わたしも怖かったよ」
「魔術師の方がいなければどうなっていたことか。こちらの原因も突き止めてもらえませんか?」
「善処します」
この町の人間にとっては魔術師狩りよりも、トカゲの使い魔の方がはるかに重大な問題のようだ。
なんとかしたいが、こっちはまだ手がかりもつかめていない。
「時間を割いて頂きありがとうございます。なにかあればまたうかがいますので」
「魔術師の方にはお世話になっていますから。いつでもいらっしゃってください」
礼を言って教会を後にする。特に収穫はなかったが、俺の中にモヤモヤした違和感は残った。
複数の人間が生活しているのに、だれ一人として教会のすぐ近くにあるマンホールを出入りする瞬間を見ていない。
移動が深夜や早朝だとしても、音も聞かず蓋のズレすらもおかしく思っていないのは不自然だ。
魔力の反応はないが、なにかある気がする。そういえば一番はじめに会ったシスター、俺が魔術犯罪対策局だと名乗ったのに、全然動揺してなかったな。
元の世界なら警察が来たようなものだと思うんだが。それともこの世界では普通のことなのだろか?
「もう少しだけ調べるか」
コガネムシに変身して、扉の隙間から教会の中に入る。そして、壁の一部に仕掛けをしておいた。
魔力を継続して消費することになるが、使い魔の勘がここにいると告げている。
それから俺は元に戻り、噴水のある広場まで戻ることにした。。
「おっ、いたいた」
リーシャの姿を見つけたので合流する。彼女はジャグリングをしていた大道芸人に話しかけているようだ。
「怪しい人物について見かけたことはありませんか?」
「い、いやないよ! 本当だって魔術師さん!」
大道芸人はすいぶんと動揺しているようだった。なにか隠しているのかと思ったが、リーシャは少し話をして終わりにしたようだ。
「リーシャ」
「あっ、リュウジ。戻りましたのね」
「いまのやつ怪しくないか? 魔術師狩りの情報を知っているのかもしれないぞ」
「いえ、たぶん違うと思いますわよ。これは仕方のことなのですけれど」
そう前置きしてリーシャは話を続けた。
「魔術師を相手にするとああなる人は多いんですの。魔術を扱わない普通の方からすれば、得体の知れない怪物に見えるのでしょうね。だから調査には応じてくださるのですけど、聞き取るのが難しかったりしますわ。話を早く切り上げようとしますし」
魔術師が権力を握っている世界の一般人は、そういう反応になるのか。たしかに使い魔のスキルは銃火器よりも強力だし、無理はないと思う。
やはり俺の考えは間違っていなかったようだ。
「なにか収穫はありまして?」
「下水を移動する不審者の情報は手に入った。あと教会がなにか関係しているかもな。これは勘だけど、手は打っておいた」
「もうそんなに調べてますの!? 仕事ができすぎて怖いですわ!」
確かな証拠があるわけではないんだが、と前置きして俺はここまで調べたことを話した。
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