第17話 オッサン、魔道具使いと会う

 次の日。

 早朝に屋敷を出発し、局長が手配してくれたユニコーンの馬車で揺られること十数時間。普段より快適な走行に眠くなりながら、俺とリーシャはメモリという町に到着した。


「ここですわね」


 リーシャは魔術協会に支給されたローブと、会員のある証のバッジをつけている。あからさまに魔術師らしい格好をしておいた方が、魔術師狩りを誘惑できるという判断だ。


 もちろん危険性は増すので、俺はボディーガードとして力を尽くす必要がある。


「あまり大きな建物はないんだな」


 町は石造りの家が立ち並び、洗濯物を干す女性の姿や、露店で野菜を売る男性の姿が見える。

 ファンタジー世界ならどこでもありそうな、いたって普通の町だった。


 ただ、俺たちに向ける視線が妙によそよそしい感じがする。

 魔術とは縁遠そうな住民たちだし、他所から来た俺たちが珍しのだろうか。


「まずはこの町の魔術師と合流するんだったか?」

「そうですわね。魔術協会の魔術師は災害などの非常事態に対応するために、あちこちの町に駐在していますから。この町のことを教えてもらいましょう」


 待ち合わせ場所は広場にある噴水の前だった。しばらく待っていると、小走りでこちらに向かってくる少女の姿が見えた。


「遅れてすみませぇーん! マイヤ・リーピスです! この町の魔術師です!」


 肩で息をしながら、少女はマイヤと名乗った。モジャモジャしたくせのある黒髪で、丸眼鏡をかけている。

 職人か研究者といった印象で、あまり外には出ないタイプに見えた。


「はじめましてマイヤさん。魔術犯罪対策局の捜査官、リーシャ・ルヴィエオラですわ。今回の魔術師狩り事件を担当しています」

「俺は使い魔のリュウジだ。よろしく」

「二人ともよろしくお願いしまぁす。わたしは魔道具開発局所属で、この町で工房を開いています。えっと、今日は仕事の話ですよね。」


 マイヤの発音にはときどき、屋敷がある街の人間とは違う訛りがあった。

 どこか遠い地域の出身なのだろうか。彼女は事件の重大性を察して、自己紹介もそこそこに町を案内してくれた。


「メモリの人口は三千人くらいでぇす。町としては小規模でしょうか。大きな建物は議事堂か教会くらいで、あとは民家や個人商店がほとんどですね」

「不審な人物を見かけたという話はないか? 人数が多くないならよそ者には敏感だと思うんだが」

「ないでぇすね。わたしの使い魔に一軒一軒、廃屋もふくめて探させましたが、そのような人物はいませんでした」

「となると、わたくしが考えた通りはぐれ使い魔の可能性が高いですわね。小動物や虫に姿を変えれば、まず見つけられませんから」


 やはりリーシャの見立て通りの犯人のようだ。そうなると魔眼が通用しない謎が出てくるのだが。


「ここ最近なにか事件はありませんでしたか。どんなに些細なことでもかまいませんわ」

「魔術師狩りについてはハインツ局長から話をうかがったばかりなんでぇすけど、この二週間の間に使い魔の襲撃があったんですよ。トカゲみたいな怪物で、街のあちこちで暴れてました」

「そんなことがありましたの!?」

「魔術師狩りはそこまで派手に動いているのか」


 それは大事件だ。平和そうに見えた町も、厄介なネタを抱えているようだな。


「数は三、四体であまり強くないから、町の人とわたしでなんとかしたんでぇすけどね。また襲撃があったら大変です」」

「町の人は無事だったのか?」

「幸い大きな怪我人はいませんでぇした。その魔術師狩りっていう犯罪者が関わっているなら許せないですよ」

「みなさん無事でよかったですわ。これは想像以上に危険な相手ですわね。テロの準備をしている可能性もありますわ」


 魔術師だけではなく、一般市民も襲うつもりなら相当に危険な人物だ。

 ハインツ局長は住処を突き止めるだけでもいいと、言ったことがよくわかる。


「情報提供ありがとうございますわ。あとはわたくしたちで調査してみます」

「お役に立ててなによりでぇす。わたしみたいな魔道具製作者ではやれることが限られていますし、あまり戦いでは役に立てませんから。あ、今晩はわたし家に泊まるんでしたよね?」

「魔術師が狙われているわけだからな。夜は一緒にいた方がいいだろう。俺はけっこう強いから安心していいぞ」

「えへへ、頼りにしてまぁす」


 マイヤから町の地図を受け取って、俺とリーシャは調査を続けることにした。まずはどこから調べるか。


「リュウジこれからどうしましょう? いまのところ手がかりはゼロですけれど」

「俺が町の中をすみずみまで調べてみる。マイヤの使い魔が見落とした場所があるかもしれないからな。昼間なら別々に行動しても大丈夫だろう」

「わたくしも町の人に聞き込みをしてみます。なにかあったら召喚陣で連絡しますわ」


 そう言ってリーシャはハンカチに刺繍された召喚陣を見せた。この大きさでは腕くらいしか通らないが、通話するには十分だ。

 なにかあった場合は片手だけだして、変身スキルも使えるしな。


 俺はまず町を見渡せる見張り台に向かうことにした。


「これくらいの町なら全体が視えるな」


 魔眼で強化された視力で、町の端から端まで観察する。通りを歩く住民の表情まで把握できるが、特に怪しい人物はいなかった。

 薄く光る魔力の痕跡があったので目で追ってみたが、たどり着いたのは今晩泊まるマイヤの工房のようだ。


「地上で見つからないなら地下をあたってみるか」


 この数週間練習したことで、俺は新たな生き物に変身できるようになっていた。まずは見張り台から降りる。

 それから下水道に続く排水溝の蓋を開けて、スキルを発動した。


「【変身】」


 俺の体は小さくなり、丸い耳と細い尻尾の生えたネズミに姿を変えた。狭い場所で素早く動くには小動物の方がやりやすい。


 下水道の中はあらゆるゴミが混ざり合った悪臭が漂っていたが、ネズミになったせいかそこまで気にならない。


 俺は魔力で脚力を強化して、下水道の中を高速で移動する。


「映画の悪党ならこういう場所にいるんだけどな」


 あちこちを駆けずりまわったが、見つかるのはグロテスクな虫かドブネズミくらいだ。しかも魔力の痕跡すらないので、姿を変えているパターンもない。

 いまのところ清々しいまでの空振りだ。


「そういえばこの姿なら動物と会話できるのか?」


 リーシャが町でやっているように、聞き込みをしてみるか。そう考えた俺は、近くにいたドブネズミに話しかけてみることにした。





















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る