第15話 オッサン、魔術協会に行く
翌日。
「緊張してきますわね」
「おいおい、しっかりしてくれよ。こっちはそのの十倍緊張しているからな」
俺とリーシャはまたトカゲの馬車に揺られていた。行き先は魔術協会の本部にある、魔術犯罪対策局だ。
この世界で仕事をするのは初めての経験なので、いろいろ考えてしまう。
元の世界のようにパワハラ上司じゃないといいんだが。殴りたくてもできない相手ってストレスがすごいからな。
そうして試験の時より長く揺られていると、目的地に到着した。
「ここが魔術協会の本部? 思ってたのとだいぶ違うな」
目の前にあるのは廃墟のような細長い家屋だった。元の世界で例えるとアパートのような感じだ。
とても人が住めるような状態ではなく、庭も雑草だらけで荒れ放題である。
「リーシャ、本当にここなのか? 行者が住所を間違えてるぞ」
「協会に繋がる入口は不定期に場所を変えますの。魔眼を使ってみてください。そうすれば進む方向が見えますわ」
そういえば、しばらく魔眼のスキルを使ってなかったな。いろいろ効果があって魔力の痕跡が見えるんだったか。
リーシャも何度か見た眼鏡をかけている。
「その眼鏡って前に俺の魂を見たやつだよな」
「これは魔力に関係するものを視る魔道具ですわ。【魔追いの眼鏡】といいますの。魔眼と違って何度も使うと壊れてしまいますけどね」
なるほど、そういう道具もあるのか。
リーシャの視線を追って、俺もスキルを発動する。
「【魔眼】……えっと、あそこだ」
瞳の中に紋章が浮かぶと、家屋の右から二番目の扉が薄く発光して見えた。俺はその方向を指さす。
リーシャは薄い金属の板に、呪文が刻まれた板を取り出した。一体なにに使うのだろうか?
「わたくしも同じ場所が光って見えますわ。ここに許可証をかざすと入口ができますの。さあ行きましょう」
「大丈夫なのか? なんかぐにょぐにょしてるぞ」
「ふふ、心配ならわたくしが手を引いて差し上げますわよ
扉のノブの部分に許可証をかざすと、光が強さを増し虹色の扉を形づくった。ゼリーのように揺れているのが、若干不安だ。
俺は先に進んだリーシャの後を追って輝く扉をくぐる。
まぶしい光が瞬いた次の瞬間、景色が一変した。
「おおっ! これが魔術協会か!」
目の前に広がっていたのはよく手入れされた庭園と、その奥にそびえたつ荘厳な古城だった。
薔薇の植木が規則正しく並び、頭部がハサミの使い魔が管理している。
俺たちの他にも何百人という魔術師や、様々なタイプの使い魔がいて、空にはワイバーンやペガサスが悠然と羽ばたいていた。。
立っているだけでも強力な魔力が感じられ、街で見かける使い魔とはレベルが違うと理解できる。
これが魔術協会に所属するエリートたちなのだ。
「かなり年季が入った城だな。いつぐらいからあるんだ?」
「たしか二千年くらい前からあるはずですわよ。古の大魔術師、イグリス・ゼリベオールが使い魔に造らせたそうですわ」
そんなに昔からあるのか。
元の世界なら世界遺産に登録されているな。
「さあ行きましょう。少し歩きますわよ」
俺はおのぼりさんのようにキョロキョロしながら、リーシャについていく。
開け放たれた古城の大きな扉をくぐり、受付に要件を告げると、金の扉をあしらえたエレベーターに案内された。
「何階にご案内しますか?」
「六階でお願いしますわ」
動くマネキンのエレベーターガールが、目的の階があるボタンを押す。
動力はどうしているのかとリーシャに聞くと、上げ下げを仕事にしているトロールが複数いるようだ。
扉が開き、俺たちは魔術犯罪対策局に到着した。
そこは広い部屋に膨大な数の机があり、魔術師たちが忙しそうに杖の整備をしたり、書類をめくっていた。
時折りどこかから怒号が聞こえ、刑事ドラマのような雰囲気だ。顔色の悪い魔術師が多く、かなり激務が察せられる。
ハードワークお疲れ様です。
「まだ聞いてなかったが、ここのだれに呼ばれたんだ? すごい人の数だぞ」
「驚くと思いますけど局長です。ここで一番偉い方ですわ。階級も上から二番目の黄金級魔術師です。わたくし昨日は眠れなかったですもの」
リーシャを見ると肩が震えている。これだけの魔術師を束ねる人物が、俺たちを呼びつけたのか。
なんの仕事が気が気じゃないし、そりゃ緊張するに決まってる。
ちなみに魔術師には階級あり、銅→銀→黄金→星界の順番で偉いらしい。あのロバートや当主になったばかりのリーシャは、銅級魔術師だ。
使い魔にも同じ階級が適応されるので、俺は銅級使い魔ということになっている。魔王は最低でも黄金級以上からだそうだが、前世がそうだとはいえないからな。
星界級の魔術師は魔術協会の会長しかいないそうだ。もし使い魔に星界級の存在があらわれた場合は、世界が滅びるレベルで危険らしい。
このあたりのことは屋敷でリーシャに教えてもらった
「で、ではいきますわよ」
「ああ」
と、言ったものの働いている魔術師たちに声もかけづらく、少し待っていると、案内役のゴブリンが局長室まで案内してくれた。
ゴツい扉を開くと、鼓膜が破れそうなほど大きな声が聞こえてきた。
「ハーハッハッ! はじめまして局長のハインツ・ゴールドスミスだ! よく来てくれたねリーシャくん、リュウジくん!」
ハインツ局長は、身長百九十センチを超えるガタイのいい男だった。金髪をオールバックにして、白のダブルスーツを着こなしている。
局長が椅子から立ち上がり握手を求めてきたので、こっちも手を差し出す。。俺とリーシャは握手の勢いで、腕をぶんぶんと振られた。
人間とは思えないパワーだな。
魔術より殴り合いの方が得意なんじゃないか。
「お会いしたばかりで失礼なのですが、どうしてわたくしたちに声をかけたのですか? 当主継承の試験だって最近受けたばかりですのに」
「その試験が魔術協会で話題になっているんだよ。名門ガブリエルゼナム家のロバートを倒して合格したんだろう? これは過去の実績にあぐらをかいている魔術師にはできないことだよ」
「あ、ありがとうございます」
「それで私は思ったのさ。キミたちは新人だが有能で実力があるってね。今日呼んだのもそこを頼りにしてるからさ!」
そう言ってハインツ局長はまた大きな声で笑った。良くも悪くも豪放磊落で、裏表のない人物のようだ。
どんな厳しい上司が出てくるかと思っていたので、正直拍子抜けした。
「さっそくだが仕事の話に入ろう。キミたちは『魔術師狩り』と呼ばれる犯罪者を知っているかね?」
聞こえてきたのは危険度がピリピリと伝わってくる単語。
こうして俺たちの初仕事は幕を開けた。
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