第14話 オッサン、目を覚ます

「ふぁ~、もう朝か」


 目を覚ますと、もう隣にリーシャの姿はなかった。

 昨日はよく眠れたのだろうか。俺はあれだけ緊張していたのに、熟睡していたのだが。


 朝食のテーブルに着いた時にわかったが、彼女は朝早くから食事の準備をしてくれていたようだ。

 俺の主人が天使すぎる。


「形はアレですけど……美味しいと思いますわよ。きっと。たぶん」

「うん、美味しいぞ。はじめての料理なんだろうけど、全然いけるじゃないか」

「よかった……安心しましたわ。


 彼女が作ってくれたハムエッグは黄身がつぶれていたが、いい塩加減だった。あとは殻が入っていなければ完璧だな。


 朝食を食べ終わると、本日の予定についての話になった。


「今日は魔術協会で当主引き継ぎの手続きをしてきますわ。リュウジは休んでいてください」

「俺は行かなくていいのか?」

「もし用事がありましたら協会の召喚陣で連絡しますわ。緊急の時はわたくしの元に呼び寄せることもできますし」


 召喚陣は異世界から使い魔を召喚するだけでなく、電話やテレポート装置のような機能もあるようだ。


 俺が元いた世界のように電子機器は発達していないが、特定の分野では目覚ましい発展を遂げている。


「いってきますわね」

「いってらっしゃい。お土産期待してるぞ」


 リーシャが屋敷を出ると、俺は暇になった。メイドさんは家事で忙しそうだし、もう一度スキルでできることを確認してみるか。

 この間はぶっつけ本番だったからな


 俺は屋敷の裏にある訓練場に向かうことにした。


「【変身】スキル、こいつにどこまで応用力があるかだな」


 いまの俺が唯一使える戦闘スキル。生き物になることはまだ苦手だが、他の使い魔には難しい部分変身ができる。


 手や足だけを武器にもできるし、この世界にはない銃なんかにも変身可能だ。前世の魔王が得意としていたのだろうか。


 一番の驚きは俺に変身する物の知識が必要ないことだな。

 犬に変身していた時はそういうものだと思っていたが、練習なしでマシンガンを出した時は、正直ちゃんと動くとは思っていなかった。


 どういう原理で銃弾を飛ばしているのかさえ謎だからな。きっと魔力がいい感じに働いているのだろう。


 さてと、それじゃいろいろ試してみるか。


「まずは簡単そうな武器からだな。【変身】日本刀、【変身】斧、【変身】槍、【変身】盾」


 腕を金属製の武器に変身させることは、もう一秒もかからなかった。手の部分だけでも、指だけでもできる。

 もちろん、足や頭、脇腹なんかでも可能だ。これで不意打ちにも対応できそうだな。


「振りやすいしよく斬れるな」


 強度もかなりあるようで、古びた鎧くらいならバターのように切り裂ける。よく見れば刃の部分が青白く光り、魔力を帯びているようだ。


 これが凄まじい切れ味に繋がっているわけか。子供の頃に見ていた

 時代劇が役に立った。


「【変身】拳銃」


 手をリボルバーに変身させて、的に置いておいた空き缶を撃ってみる。ちゃんと銃口から鉄の弾丸が出て、ど真ん中に命中した。


 ただ火薬の匂いはしないし、薬莢が弾頭を押し出している感触もない。やはりこれは魔力で動くイメージの拳銃なのだろう。


 まあ学のない俺に銃の詳しい仕組みなんてわかるわけがないので、そりゃそうかといった感じだ。


 あとマシンガンの時もそうだが、弾丸を撃ちだすと魔力が減る。気分としては体を削るようで、痛みはないが気分はよくない。


 できるならド派手にガトリングでも使ってみたかったが、リーシャからかなり魔力を供給されないと無理だろう。

 使うとしたらよほどの強敵相手にしよう。


「次は【変身】……チェンソー」


 これもちゃんと動いた。混合油のような燃料を入れなくてもエンジンは動くし、刃も回転する。


 ただ魔力で切れ味を強化できるなら、日本刀でもよさそうだ。本来の目的どうり木を切断するにはいいかもしれない。


「これはどうだ。【変身】スマートフォン」


 手の部分をスマホに変身させて切り離す。これで異世界でもネットができる。……なんてことはなかった。まあ、それはそうだ。


 その代わりにライトやカメラ、動画を撮るなどの機能は再現できた。ただ、複数の機能を搭載しているせいか、魔力をかなり消耗する。

 ライト、カメラでそれ専用の道具に変身した方がよさそうだ。


「最後は難しそうだが……【変身】軽自動車」


 これはさすがに無理だった。見た目はそっくりにできても、タイヤを安定して回転させて、真っすぐに走ることができない。


 自動車レベルで大きな機械に変身するとなると、全身を変身をさせるしかない。俺は姿をすべて作り変えることが苦手なようだ。


「当面はこっちだな」


 足をローラースケートに変えるのは簡単にできたので、急ぐ場合はこれで走ることも考えておこう。


 この後も色々と変身スキルを試してみた。ロープやガラスなど、真似る対象がイメージしやすいほど、素早く変身できるようだ。

 残念ながら現代知識は活かせそうにないが仕方ない。


 今後の課題としてはもっと生き物に変身できるようになることだな。コガネムシ以外にも変身することができれば、戦闘と関係ない場面でも役に立つだろう。


「よし、まずは犬……いやネズミから始めてみるか」


 この日から暇な時間は、変身スキルの練習をすることにした。

 失敗も多いが、やりがいはある。


 元の世界じゃなにかに打ち込むことなんてなかったのに、異世界の方が生き生きしてる気がするな。







 数週間後。

 いつものようにスキルの練習をしていると、リーシャが慌てて駆け寄ってきた。


「大変! 大変ですの!」

「どうした? なにかあったのか?」

「わたくしたちにお仕事が来ましたわ! ルヴィエオラ家の当主になってから初めての、魔術師としてのお仕事です!」


 ついに魔術協会の一員として働く時が来たようだ。

 使い魔として、リーシャをどんどん出世させるぞ。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る