第13話 オッサン、お嬢様と寝る(リーシャSide)
《リーシャ・ルヴィエオラ》Side
(リュウジとベッドで二人っきりでなんて……こんなの……こんなの眠れるわけありませんわ~~っ!)
眠ったフリをしていたリーシャは、ベッドの上でもだえていた。互いの体温が伝わるほど距離が近いせいで、脈拍が早くなってくる。
背中合わせで顔を見られないことに、ここまで安堵するとは。
(目を閉じていれば眠れるかと思いましたけど、まったく無理ですわね。むしろリュウジはなんで普通に眠っていますの!? 美少女が隣にいたらドキドキして、落ち着かないと思うのですけれど)
まったく手を出してこない男に紳士的だと思う一方で、乙女のプライドが少し傷ついた。つい自分に女性的な魅力がないのだろうかと思ってしまう。
リーシャも年頃の少女なのだった。
(はあ、わたくしが子供だから相手にしてないのでしょうけど。他のことを考えて、もう寝ましょう。意識しすぎるからいけないのですわ)
目を閉じて関係ないことを考えようとする。思い浮かぶのは、今朝あった認定試験のことばかりだ。
(今日は色んなことがありましたわね。お父様と模擬戦をしたことはありますけど、実際に戦うのは初めてでしたから。リュウジが力を貸してくれなかったら、絶対に勝てませんでしたわね)
召喚に失敗して魔王の生まれ変わりが来たわかった時は、もうダメだと思っていた。財産の半分以上をつぎこんだ触媒はもうないし、新たに使い魔を呼び出す時間もない。
絶対に試験を突破できる使い魔を探していると、時間はあっという間に溶けていった。契約書すら効かなかった時は、目の前が真っ暗になった気分だった。
(基本スキルの変身をあそこまで使いこなせるなんて、これが魔王の力ということなのでしょうか。あんなことができる使い魔なんて、一度もみたことがありませんもの)
ロバートが魔力供給をして、やっとアクエアリアスが両腕でできたことを、リュウジはいとも簡単にやってのけた。
それも様々な武器を連続してだ。並みの使い魔ではどんなに鍛えてもできることではない。
(見たこともない武器にも変身していましたわね。あれはリュウジが元いた世界のものでしょうか。この世界にはない機械のようにも見えましたわ。
日本という国から来たと言っていたことを思い出す。鉄の礫を大量に出せる武器があるなんて、あちらの世界は戦いが当たり前なのだろうか。
(……わたくしリュウジのことばかり考えていますわね。意識しないようにしていたのに、もっと眠れなくなってしまいますわ~~っ!)
事実に気づいて、体がカッと熱くなる。金髪お嬢様はジタバタした。
(こうなったら開き直って、リュウジのことを考えた方がいいかもしれませんわね。
まぶたを少し開くと、大きな背中が目に入ってきますの)
体の向きを変え、大きな背中を見る。シャツ脱いでいるせいで、肌が無防備にも丸出しだ。
(男の人と関わることがありませんでしたから、こんなに逞しいのかとびっくりしてしまいますわ。筋肉もすごくついてますし、わたくしとは全然違いますわね)
肩甲骨のでっぱりに目を奪われる。ところどころにある傷が、人間であった時の過酷な生活をうかがわせた。
使い魔になる前についたものは、治癒魔術でも治すことはできない。
(違うといえば匂いもそうですわね。汗が混じった独特の体臭ですわ。でも別に嫌ではないというか……)
くん、クンクン。
リーシャは無意識の内に、鼻を近づけていた。そして匂いを嗅ぐ。
(わっ、わたくしはなにをしていますの!? 相手が寝てるからといって匂いを嗅ぐなんて! これではまるで変態ではありませんの!)
我に返り顔から火が出そうになるお嬢様。自分はけっして変態ではないと言い聞かせるが、一度燃え上がった欲望の炎を消すことはできない。
(ああ……でもこの匂いクセになりますのぉ。もっと近くでシャツに鼻を近づけて……匂いを胸いっぱいに……」
くんくん、クンクンクン、クンクンクンクンクン。
スーハー。スーハー。スーハー。スーハー。
(はぁ…………ヤバいですわね。ちょっと意識がトビそうでしたわ。でももう我慢できませんの。身体をピッタリくっつけて、腹筋の割れたお腹撫でながら鼻を押し付けちゃいますの)
男性の野性味あふれる匂いを堪能するリーシャ。性別を逆にすると捕まりそうな状況だが、思いっきり抱き着いて呼吸をする。
ひと嗅ぎごとに胸の奥が疼き、甘い吐息が漏れる。
(ああっ、背中から伝わってくる体温と、匂いのマリアージュがたまりませんわ。いままでこんなこと、想像でだってしてませんのに。お父様、お母様、まわたくしはおかしくなってしまったのでしょうか)
背徳感でぎゅっと目をつむる。いけないことだとわかっていても、はしたない本能を抑えることができない。
リーシャは無意識の内にへその下へ手を当てていた。
(リュウジごめんなさい。でも、今夜だけはこの幸せに浸らせてほしいんですの)
愛しい人に寄り添い、リーシャは幸福に包まれた。
やがて泥のような眠りが彼女をいざなっていった。
翌朝。
「まだ寝ていますのね」
リーシャが目が覚ました時、リュウジはまだ眠っていた。寝息を立てて、まだ夢の世界にいるようだ。
(使い魔がここまで深い眠りに落ちるなんて、それほど疲れていましたのね。魔力供給は十分にできているはずですから、そっと布団をかけて部屋から出ることにします)
リーシャは起き上がりと、音を立てないように歩いて入口の扉を開いた。
(そうだ、今日の朝食はわたくしが作ってみましょう。リュウジが喜んでくれると嬉しいですわね)
金色の縦ロールを手で触りながら、リーシャは微笑んだ。
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