第11話 オッサン、試験に挑む④
皮膚を鋼鉄にしたのに、まったく違和感がない。魔力の流れが滞っていることもない。むしろ快適なくらいだ
犬に変身するよりも、こっちの方が百倍簡単だし動きやすくていいな。
「ふんっ!」
「なに…………ッ!!」
俺は右を大斧に変身させると、六体の大蛇をまとめて切断した。大蛇たちはのたうち回って、あちこちに毒をまき散らす。
切り口からは鮮血ではなく、赤く光る魔力があふれ出た。
金魚鉢頭で表情のないアクエアリアスにも痛みはあるようで、苦しそうに体をよじっている。
試験開始から、はじめての手ごたえだ。
この変身スキルなら戦える。
「なにをやっている! ボクに魔力を無駄に消耗するな! さっさと殺せ!」
「……ハイ」
「遅いっ!」
振り下ろされる大鎌を、ボルトカッターに変身した腕で受け止める。そのままま力を込めて、柄の部分を切断した。
変身した武器は魔力で強化されているようで、頑丈な上に切れ味も抜群だ。
「リュウジ、すごいですわ! 変身スキルをこんなに使いこなせるなんて!」
「リーシャ、残っている魔力は自分の身を守るために使ってくれ。魔力供給はあと一回だけでいい。このまま変身で押し切る」
ずっと涙声だったリーシャの口調が弾んでいる。
使い魔としての仕事を果たす時だ。
「役立たずめ! 距離を取って水のスキルで攻撃しろ! 魔力供給。【スキル強化】!」
「後退しまス。【水衝弾】
ロバートに言われるがままに、アクエアリアスは後ろにジャンプして距離を取ると、水のスキルを発動する。
指先から魔力を上乗せられた巨大な水の弾丸が発射されるが、いまの俺には関係ない。
全身で攻撃を受け止めても、体が濡れるだけだ。
「効かないな。こっち金属の【変身】だぞ」
「水衝弾は鉄だって打ち抜けるんだぞ! 適当なことを言うな!」
「俺のイメージする理想の金属に魔力の強化だからな。そっちの基準で考えるなよ」
違う物質に作り変えるだけではなく、強度まで上がっている。俺にとって金属は強くイメージできる、相性のいい物質なのかもしれない。
ちなみにいまイメージしたのは炭素鋼だが、上手くいったようだ。
「今度はこっちの番だな」
「なんだその武器は!?」
「ナニ……ッ! …………ッッ!!」
俺は腕をサブマシンガンに変身させると、フルオートで銃弾を浴びせる。直撃したアクエアリアスの体から火花が飛び散った。
魔力を纏う使い魔相手では致命傷にならないが、ある程度のダメージはあるようだ。
生き物と同じように、銃に関する具体的な知識がなくても、姿形を見ただけで再現できるのは助かるな。
ただ自分の体を弾丸にすると、魔力の消費がかなり激しくなる。あまり使いすぎない方がいいかもしれない。
「強い……これが本当の力ですのね……」
「あんなやつをお前をやれないからな。最後の魔力供給を頼む」
「はい、ですわ!」
リーシャは力強くうなずく。
もうあの下衆野郎に怯える必要はない。決着をつける時だ。
「くっ、くそぉ! アクエアリアスなんとかしろ!」
「ここからは俺のターンだ。覚悟しろよ」
「魔力供給! 【速度強化】!」
魔力で強化された脚力で、床を蹴る。タイルに蜘蛛の巣状のヒビが入り、全身で風圧を感じる。
ロケットのように加速した俺は、一瞬でアクエアリアスの眼前に迫り、変身スキルを発動した。
「【水衝撃】……ッ!? な、ニ!?」
「あっ、あいつはどこへいった!?」
スキルを発動しようとしたあいつらは驚いただろう。さっきまで距離を詰めようとしていた俺が、いきなり消えたんだからな。
「消えた!? まさか透明化のスキルか!?」
「そんな便利なもんあるかよ」
素早くコガネムシから元の姿に戻った俺は、アクエアリアスの懐に入り、右腕を刃に変身させる。
最もイメージしやすく、切れ味の鋭い武器の形に。
「やめろ……その変な剣を近づけるなぁああああああああああああああっっ!」
「日本刀だよ馬鹿野郎!」
日本刀はアクエアリアスの胴体を真っ二つに両断した。上半身と下半身がズレて、その場で崩れ落ちる。
体に詰まっていた魔力が露出し、赤い霧となって噴き出していく。その光景は噴水に似ていた。
勝負あり、だ
「マスター……すみまセン」
「この役立たず! パパからどれだけ高価な触媒をもらってお前を呼んだと思っているんだ! 金に見合うだけの仕事をしろ!」
半狂乱になったロバートは、動けないアクエアリアスを蹴りつける。
まったく、本当にどこまでも見下げたやつだな。
「ルールは使い魔か魔術師どちらかの戦闘不能か降参だったよな」
「ヒッ!」
「使い魔は動けないがまだ魔力は残ってるし話しもできる。つまり戦闘不能じゃない。ならお前を戦闘不能にするしかないよな?」
「ま、待て! もう勝負はついた! これ以上は無意味だぞ!」
「それを決めるのは審判だろ。試験終了のアナウンスはまだ流れてないぞ」
青ざめて後ずさりをするロバート胸倉をつかんで、ドスの効いた声で言う。。
「お前が降参と言い終わる前に俺は顔面をぶん殴ることもできる。この鉄の拳でな。それが嫌なら試験前に言ったことを守れ」
「リーシャに謝って……それから……」
「全裸で一人ワルツだ。忘れるな」
「ぐ……ぐぬぬ。わ、わかった! お前の言う通りにする! だから暴力は勘弁してくれぇっ!」
プライドの高そうなロバートも、暴力の恐怖には敵わなかったようだ。俺はリーシャのいるところに、こいつを引っ張っていく。
「く、くそおおぉ~っっ! 覚えてろよ!」
「あ、あのわたくしは見たくないのですけれど……」
「じゃあ俺が見ておく。ほれ、やれ」
ロバートは服と下着を脱いで綺麗に折りたたんだ。こういうところはきっちりしているな。それから自分の言ったことを、やりはじめた。
「リーシャさん、重ね重ねのご無礼をお許しください。ボクはもう二度とあなたに近づきません。あとリュウジさん、降参します」
「試験終了。勝者、リーシャ・ルヴィエオラ!」
一人でワルツを踊りながら、全裸謝罪をするロバートへ降り注ぐように、試験終了のアナウンスが流れた。
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