第11話 アトランティス

 長いような短いような時間を過ごした俺は、水族館カフェを後にする。


 さて、と。意を決して行くことにしよう。美術部の展示へ。


 美術部の展示がされている教室の前へと来る。ドアを開けて、俺は中へと入る。


「あ、フーコー先輩~」


 室内に入った俺を、聞き覚えのある声が出迎える。


 見ると、受付にシャー芯のきみの友人――佐久間海玲さくまみれいが受付に座っていた。


「先輩、やっぱり来たんですね。あ、すみません。りーちゃん、いまちょっと外していて・・・・・・」

「構わんよ。じゃ、見ていくぞ」

「どうぞ、ごゆっくり~」



「アトランティス」というひとつのコンセプトを、様々な方法で芸術表現してみせる。一言で説明するなら、そういう展示だった。


 まず最初に目に飛び込んでくるのは、一枚の絵。それはかつてシャー芯のきみがスマホで見せてくれたあの絵の完成形だ。


 美しかった。海中に悠然とたたずむ古代都市アトランティス。海水に侵食され朽ちつつもなお壮麗さを失わないその建築物は、一夜にして海に沈んだというこの古代都市の在りし日の栄華を伝えてくる。


 絵の中の世界に充分過ぎるほど浸ったあと、次の展示へと目を向ける。


 人間をかたどった木彫りの彫刻がひとつ、おいてあった。男とも女ともつかない身なりで、奇妙な形の帽子をして、その服もまた不思議な装飾をほどこされている。


 彫刻を置いている机に、その像の簡潔な名称が記された紙が張ってある。


「アトランティス王の像」


 海中深く沈んだアトランティスのイメージ。先程見たその古代都市の時間が、俺の想像の中で、巻き戻っていく。古代都市アトランティスが、かつて地上で繁栄を謳歌していた時代。壮麗な建築物群が、太陽の光を浴びて輝いている。


 都市を中心に四方八方に伸びた道路には、日夜、数多くの人々の往来がある。すべての人が、どこかの目的地に向かいながら行ったり来たりする。


 そんな街の様子を、中心部にある一際荘厳な建物から眺める、不思議な恰好をしたアトランティスの王。


 漠然と都市の建物だけだったアトランティスのイメージに、そこに住む人々のイメージが加わる。


 俺は次の展示に向かう。

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