第10話 水族館カフェ


 教室を改装した店内に入ると、いきなりタコが出迎えてくれた。


「いらっしゃいませー」


 もちろん、単なるタコのコスプレで、中身は高校生ではあるのだが・・・・・・そうと分かっていても、シュールな光景だ。


 店内には他にもクラゲやチョウチンアンコウ、ウミウシ、その他諸々の海洋生物が行きつ戻りつしながら注文をとっていて、壮観だ。


 室内は全体的に薄暗く、海の底を思わせる。室内のあちらこちらにはブラックライトで照らされた水槽が配置されていて、幻想的な雰囲気を醸し出している。


 コーヒーを一杯注文して、ちびちびと飲む。 キビキビと動く海洋生物の店員たち。室内の雰囲気と相まって、まるで本当に海の中にいるような気がする。水族館カフェ、というより海カフェと呼んだ方がいいかもな。


 そんなどうでもいい思考に浸りながら、俺はコーヒーを飲み続ける。


 カタン。


 店内の雰囲気に呑み込まれ、少し異世界に飛びそうになっていた意識が、小さな音によって引き戻される。


 見ると、テーブルの上に一つの皿が置かれていた。その上にはお菓子がひとつ、載っている。


「サービスよ。お口に合うかは分からないけれど」


 清涼感のある、聞き慣れた声。よく見ると目の前に巨大ペンギン=シャー芯のきみが、お盆を抱えて立っていた。


「おう、ありがとうな」

「どういたしまして。そういえばあなた、美術部の方にはもう行った?」

「うんにゃ。まだだ」


 俺がそう言うと、シャー芯の君はなぜかほっとしたような表情をする。


「そう。ま、今日中に来てくれればいいわよ。それじゃ、ごゆっくり」


 シャー芯の君は、店の奥へと消えていく。


 サービスとして出されたお菓子はよく見ると、包装紙に入ったせんべいだった。コーヒーにせんべいって、組み合わせとしてはどうなのかね?まあ、ありがたくいただくが。


 バリバリとうるさい音をなるべくたてないようにして、俺はせんべいにかぶりつくのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る