第6話 先輩


 その次にシャー芯のきみを見かけたとき、珍しいことに彼女には連れ合いがいた。同じ制服を着ているので、クラスメイトかなにかだろう。


 話しかけるべきだろうか・・・・・・。俺は彼女たちをチラチラと見ながら迷う。


 いきなり男子大学生から話しかけられたら、シャー芯の君の友人は、戸惑うだろう。ナンパとか不審者に思われる可能性も少なくない。


 陽キャなら、こういうときにためらいなく積極的に声をかけるのだろう。だがあいにく俺はどちらかといえば陰キャなので・・・・・・。


 とかなんとか、思案という名の臆病風に吹かれているうちに、シャー芯の君の方から声をかけてきた。


「あら、あなた・・・・・・お久しぶりね。といっても一週間ぶりくらいかしら」

「久しぶり。今日は、友だちと一緒なんだな」


 シャー芯の君の隣にいる女子高生を軽く一瞥する俺。背の高い、眼鏡をかけた、ザ・文学女子という第一印象の子だ。


 文学女子は、俺の方を見たあと、視線をシャー芯の君へと転じる。


「りーちゃん、この人が噂のフーコー先輩?」


 りーちゃん。フーコー先輩。それが、シャー芯の君と俺のことを言い表しているの

だと理解するのに、しばしの時間を要した。


 俺はまず質問をする。


「おい、ちょっと待て・・・・・・なんだそのフーコー先輩、て」


 俺の質問に、シャー芯の君は済ました顔で答える。


「だって、あなた以前フーコーで卒論書いていたでしょ?だから、それにちなんでフーコー先輩よ」


 どうよ?とばかりに胸を張るシャー芯の君。「いや、どうもこうも、あれは卒論じゃなくてレポートだからな。そんな詳しいわけでもないし」


「あら、そうだったかしら?ま、細かいことはどうでもいいでしょ?それより、こちらが・・・・・・」

「りーちゃんと同じ美術部に所属している佐久間海玲さくまみれいと申します。」


 文学女子はぺこりと礼儀正しくお辞儀をする。


「どうも。俺は、その、フーコー先輩です」


 俺の自己紹介に、にっこりと笑う。


「ふふふ、自分からフーコー先輩、て名乗るのって、なんだか面白いですね」


 あ、いけね。ついつい話の流れで、そう名乗ってしまた。


「りーちゃんったら、最近はしょっちゅうフーコー先輩の話ばっかりなんですよ~。このまえも・・・・・・」

「こらっ、みれいっ!当人の前で話すなんてもっての他よ!」


 シャー芯の君は、慌てて海玲を制して、口を止めようとする。


「え~、わたしもフーコー先輩ともっとお話がしたいよ~」

「なにいってんのよ・・・・・・それじゃフーコー先輩、私たちはこの辺で」


 海玲を引きずっていくようにして、電車の中からシャー芯の君。慌ただしく姿を消していく二人の女子高生だった。


 フーコー先輩、か・・・・・・。唐突に聞かされた自分の呼び名を、心の中で密かに何度も反芻はんすうする俺だった。


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