第5話 この前のこと
「おはよう、大学生さん」
「おう、おはよう」
シャー芯の
いつも、彼女の方から質問が飛んできて会話が始まるので、今日は俺の方から質問する。
「そういえば、この前古代都市アトランティスがどうとか言っていたよな。あれ、どういう話をしようとしていたんだ?」
「ああ、あれね・・・・・・簡単に説明すると、美術部で今、アトランティスの絵を描いているの?」
さらりとそう言うシャー芯の君に、俺は突っ込む。
「ん?でもアトランティスって確か、架空の存在だよな」
「ええ。古代ギリシアの哲学者プラトンが語ったのが最初と言われているわね。以後、忠中世から現代にかけてまで、漫画やアニメなど様々な媒体で、ネタにされている。私たち美術部の活動も、そんな古代都市アトランティスを自分たちなりに表現してみようという一環よ」
なるほどね。
「で、具体的にはどんな絵なんだ?ちょっと見てみたいな」
「え?見たいの?」
意外だと言わんばかりの顔になるシャー芯の君。それから、一人腕を組む。
「う~ん・・・・・・どうしようかしら。文字通り部外者に見せていいのかな・・・・・・ま、いっか」
彼女はリュックサックからスマホを取り出すと、ピピッと操作して、俺に差し出す。
「はいこれ。一週間くらい前に撮ったのだから、今はもうちょっと進んでいるわね」
スマホの画面の中に映し出されたのは、描きかけの絵画。深い青色で染められた海の底に、不思議な建物がいくつも並んでいる。
未完成だが、美しかった。ついつい見とれてしまうぐらいに。
「・・・・・・ちょっと顔を近づけすぎよ・・・・・・」
「あ、悪い悪い」
彼女の手にしたスマホの画面に顔を近づけすぎて、若干引き気味のシャー芯の君。慌てて距離をとる俺。
「・・・・・・気に入ってくれたみたいね。といってもまだ未完成品だけれど。完成したら、教えるわ」
「そうだな。そうしてもらえるとありがたい」
「他にも、私たちなりに考察した古代都市アトランティスの生活様式とか政治とかを書き記した冊子も制作中よ。じゃあ、私はこれでお
そう言うとシャー芯の君は、いつものように出て行った。
一人残された車内で、電車に揺られながらふと思う。あの古代都市アトランティスの幻想的な絵画。あの下書きに、俺の貸したシャー芯が使われていたりするのかな。
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