第3話 スマホ
「あなた、私が見た限りではいつもスマホばっかり見ているみたいだけれど、何をしているのかしら?」
三度目の遭遇となったとき、シャー芯の君はそう質問してきた。
「なにって・・・・・・逆に尋ねるが、今の時代に、電車内でスマホをいじっていないやつなんているのか?」
俺の言葉を受けて彼女は、ぐるりと周囲の電車内を見回す。
「そうね。確かに、電車内でスマホを操作していないのは、私ぐらいのものみたいね・・・・・・でもそれと、あなたがスマホで何をしているのかという私の質問は、関係ないのではなくて?」
ああ言えばこう言う。やれやれだ。仕方あるまい、答えて進ぜよう、俺がいつもこの通学途中の電車で、スマホで何をしているのか。
「・・・・・・大学のレポート書いている。それだけだよ」
ま、女子高生からすれば、あまり興味がないだろうな。大学の授業とかレポートなんて。
しかし、俺の予想とは違い、彼女は食いついてきた。
「へえ・・・・・・なんのレポートなのかしら?国文学?美術史?それとも、哲学?」
「いや、違うが・・・・・・というかなんで俺が文系学生って前提なんだ」
「あら、違うの?」
澄ました顔で、そう問い返してくるシャー芯の君。
「いや・・・・・・確かに俺は、文系学生だよ」
そんなに「文系」な感じするのかね?よく知り合いから文系の顔だとかなんとか言われるけれど。まあ、確かに数学は苦手だが。
「で、答えは?」
「・・・・・・政治学のレポートだよ。ここ最近はずっと電車の中ではそればかり書いている」
「政治学・・・・・・というと、あれかしら?ハンナ・アーレントとか?」
「よく知っているな・・・・・・」
「倫理の授業で習っただけよ」
「そうか。ちなみに、俺が書いているのはアレントじゃない。フーコーだよ」
思想家ミシェル・フーコーのいう「生権力」とはどのようなものなのか、ということをまとめる、そう大したことのないレポートだ。
「なるほどねえ。“生権力”って、これまた倫理の授業でちょっと聞いたことがあるくらいなだけれど・・・・・・」
「ちょっと待て、お前の高校の倫理の授業、どうなっているんだ?」
さすがにちょっと濃すぎないのか、高校の授業にしては。
「別に、特別なことはないはずよ。
いつものようにシャー芯の君は、スタスタと車内から出て行った。
あいつの倫理の先生って、筑前先生っていうのか。つーか、また名前ききそびれたな。彼女の名前より先に、彼女の高校の倫理の教員の名を先に知ることになった。
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