第2話 二回目の出会い
シャー芯の
場所は再び、電車の中。時間帯は前回と同じ頃合いくらいだ。
「あら、お久しぶり。また会ったわね・・・・・・そうそう、これ。この前のシャー芯のお返しよ」
彼女はそう言うと、リュックサックからペンケースを取り出して、器用な手つきでその中からシャー芯の入ったプラスチック製の容器を抜き出す。
4B。この前彼女が言っていた通りだ。
スライド式の蓋を開けて、俺の前に差し出してくる。
「はい。一本でも二本でも、欲しいだけ取り出しなさい」
「え?ああ・・・・・・」
俺はケースの中からそっと一本を抜き出し、胸ポケットに突っ込んでいたシャープペンの中に入れる。
「これで貸し借りはもうなしね。ありがとう」
全く感謝の意を感じさせない口調で、彼女は言う。
そんな俺の心のうちを見透かしたように、彼女は話を続ける。
「・・・・・・言っておくけれどね、私これでもあなたに感謝しているのよ?そう見えないかもだけれど」
眉ひとつ動かさず、そう告げる彼女。
「・・・・・・別に疑っているわけじゃないよ。というか、シャー芯一本がそんなに大切だったのか?」
俺の問いかけに彼女はしっかりと頷く。
「ええ。あの日は特にね。美術のテストがああったから」
「ああ、成る程。テストだったのか」
ならば、少しは分からなくもない。テストの朝に、シャー芯切れが分かったら、そりゃあ見ず知らずの大学生にも頼りたくなっても無理はないだろう。
「ということで、重ねて感謝申し上げるわ。ありがとう」
深々と頭を下げるシャー芯の君。思いのほか、礼儀ただしい子・・・・・・なのかな?
「別に構わんよ。たかがシャー芯一本くらい。というか、俺がシャー芯を持っていて良かったな」
「?」
「最近の大学生は、筆記具も持たずに、すべてこれ一台で済ませるのも多いからな」
俺は手にしたスマホを指し示す。
「ああ・・・・・・大学って、そういう場所なのね」
「まあな。授業の黒板とかも、写真撮ればいいし。それに、資料をオンラインにあげる教授も多い」
「なるほど・・・・・・私たちの学校も、スマホで美術のテストが受けられればいいのだけれどね」
おいおい、流石にそれは無茶だろう。俺がそう言おうとしたとき、彼女は「じゃ、わ私はここまでなので」と一方的に告げて、降車していった。
「まったくなんなんだよ・・・・・・」
前回と同じく、置いてけぼりをくらったような気持ちになる俺。
そういえば、彼女の名前をまだ聞いていなかったな。心の中で密かに「シャー芯の君」と呼んでいるが、彼女が生まれ持った名前はどんなものだろうか。少しだけ、気になる俺だった。
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