シャー芯の君

いおにあ

第1話 俺と彼女の出会い


 大学へと向かう電車の中で、政治学のレポートをスマホで打ち込んでいたら、唐突に声をかけられた。


「ねえ、ちょっとあなた。シャー芯が一本あったら、貸してくれないかしら?」


 スマホの画面から顔をあげると、そこにいたのは、通学途中と思しき女子高生だった。


「しゃーしん・・・・・・ああ、シャープペンシルの芯、ね。ちょっと待て・・・・・・」


 スマホを胸ポケットに入れて、俺はリュックサックに手を突っ込み、ガサゴソと探る。


 あった。チャック式の筆箱の中から、シャー芯の入ったプラスチックケースを取り出す。


 スライド式の蓋を開き、そこからシャー芯ケースを取り出す。


「ほらよ。2Bでいいか?」

「ありがとう・・・・・・今度ちゃんと返すわね。あ・・・・・・わたし、基本的に4Bしか使わないのだけれど、それでもいいかしら?」

「え?いや、別に返さなくていいけれど・・・・・・」


 たかがシャー芯一本だ。わざわざ返すことはないだろう。


「いいえ。こういうことは、きちんと筋を通しておきたいのよ」


 強い意思を帯びた声で、そう主張する女子高生。


「そうか?なら、またいつか会ったときにでも返してくれ」


 そのいつかが来るかは分からないが。


「じゃ、わたしはここで」

 そう告げるとその女子高生は、電車を降りていった。


「なんだ、ありゃ・・・・・・」


 初対面で、年上の俺にいきなりタメ口。確かに俺はちょっと童顔かもしれないが、この通学時間帯に私服でいるのだから、普通に大学生――つまり年上だと分かってくれても良さそうなものだろう。


 しかも、横着な口調なのに、妙に丁寧というか。シャー芯一本の貸し借り、普通は気にしないのではないだろうか。


 彼女が風のように去って行った後のドアを眺めながらふと、あの女子高生の呼び名が思い浮かぶ。シャー芯のきみ

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