72:ご退場(多分)

 ───────《ステータス》───────

【種族】エディア[聖騎士]

【神格】剣神[第12級]


レベル:47

神性:0[+20,424]

体力:111/207[+32]

魔力:152/166[+32]

膂力(x2):162[+23]

敏捷(x2):204[+22]

魔攻:93[+12]

魔防:86[+11]


【スキル】[スキルポイント:92]

 ──────────────────────

 

 化け物イカを打倒した成果なのだろう。

 ユスティアナさんのレベルはドカンと上がっていたのでした。

 スキルポイントもまた十二分。

 神格解放は余裕の射程圏内だ。


『……いけます。大丈夫です』


 早速、獲得はすまさせてもらって……よし。

 これで次戦の見通しは立ったのだった。

 俺とリリーさんは当分無理だが、これでユスティアナさんには切り札として活躍していただける。

 さらには、リンドウさんもそうか。

 あの子もけっこうスキルポイントを余らせているのだ。

 神格解放を獲得することはおそらくは可能。

 まぁ、神性稼ぎの末に今はちょっとへばってるけどね。

 でも、復帰した暁には十二分の活躍を見せてくれるでしょうとも。

 

 ということで、よしよし。

 にわかに手札は充実してきた。

 勝利を期待出来る余地は十分に……あったら良いなぁ。

 

 結局、向こうさん次第だからね。

 相変わらず、偽聖女さんは俺を感心の目で見つめてきているけどさ。

 問題は彼女だ。

 彼女の実力はいかなるものなのか?

 ユスティアナさんもそりゃ警戒らしい。

 鋭い眼差しをして、油断無く長剣を構えている。


「……さて。次は貴様だな。我が親友を侮辱し、御使い様を愚弄ぐろうしたその罪。いよいよ償ってもらうぞ」


 怒りにはやっての発言じゃ全然無いだろうね。

 きっと自らを鼓舞するための強い言葉だった。

 んで、それを受けての偽聖女さんだ。

 俺から視線を外すと、ユスティアナさんに苦笑を向ける。


「ですから、当人だと何度も言っているでしょうに」


「たわごとはもう十分だ。次は何に化ける? 貴様も触手の化け物にでも転じるのか?」


 ちょっと駆け引きめいたものを俺は感じるのでした。

 切り札があるなら、さっさと吐き出させようってところかな?

 俺もまぁ、ビックリ箱だったり2段底は嫌だしねぇ。

 奥の手があるのなら、是非ともさっさと見せて欲しいところだけど……果たしてどうなるのか。

 彼女は変わらず苦笑を浮かべ続けている。


 「だから、化けるも何もありませんから。私は私です。そして、警戒は無用ですよ? どうにも現状において、私が貴方たちをどうにかするのは難しそうです。なので……」


 俺は警戒で身を固くすることになる。

 いつの間にか彼女は両手で一冊の本を抱えていた。

 例の一冊だよね。

 肉肉しくて、目がぎょろぎょろとしている異形の一冊。

 魚人間が触手イソギンチャクに変貌へんぼうした時に、何かしらの役割を果たしただろう一冊でもある。


 だから、うん。

 言葉と裏腹にと言うべきか、やる気満々だとしか俺には理解出来ないのでした。

 彼女たちもそう理解したらしい。

 ユスティアナさんたちは静かに殺気を高めていく。

 俺もまたリリーさんと共に、来たるべき瞬間に身構える。

 そんな俺たちの様子を目の当たりにして、彼女は笑顔を浮かべた。

 どこか愛らしく首をかたむけた。


「では、えぇ。またお会いしましょう」


 その惜別せきべつらしき言葉と前後して、得体の知れない一冊が開かれる。  

 彼女の口から、得体の知れないノイズ音がもれる。

 そして、


『う、うわっ!?』


 俺は驚きの悲鳴を上げることになった。

 そうである。

 偽聖女さんは見る間に、醜悪なる触手生命体へ……っ! では無かったんですけどね。

 ボンッ!! でした。

 実際に変化したのは化け物イカの死骸だった。

 突如として何倍にも膨れ上がり、盛大な音を立てて爆発したのだ。

 

 そりゃもう、俺は大慌てでした。

 だって、そういう攻撃だと思ったし。

 全滅するかって普通に思えたし。

 でも、幸いそうでは無かったようで。

 音は立派だったけど、威力自体はさほどでも無かったのだ。

 ふらつかざるを得ないぐらいの衝撃はあったけど、本当その程度でしか無かった。


 ただ、威力が無い代わりにと言うべきか。

 紫色の霧のようなものが濃厚に立ち込めることにはなった。


 俺は今度も慌てることになった。

 ど、毒霧!? ってそんな感じでした。

 でも、どうにも無害みたいだね。

 俺の体調に変化は無い。

 リリーさんや人間さんたちも同様らしい。

 紫の霧によってまったく姿は見えないが、多くの声を耳にすることは出来た。

 そこにあるのは驚きの響きばかりだ。

 苦悶くもんしている気配はまったく無い。


『……ふぅ』


 俺は思わず胸を撫で下ろす的な感じだった。

 どうやらアレだね。

 偽聖女さんはまた今度みたいなことを言っていたが、そういうことなのだ。

 これはきっと、目くらましなのだろう。

 今頃彼女は、どこぞなりに逃げおおせているのだろう。

 つまり、戦闘は終了。

 俺たちはなんとか危急ききゅうを乗り越えることが出来たようでした。


(よ、良かったぁ)


 本当、安堵しかなかった。

 俺はべっちゃべちゃにその場でひしゃげることになる。

 わ、割と今日が終焉しゅうえんの日かって思えたけどねぇ?

 なんとか乗り切ることが出来たよなぁ。せーふ。


 ただ……ねぇ?

 俺は彼女の顔を脳裏に浮かべることになる。

 翡翠色の瞳が美しい彼女。

 一見するところ穏やか極まりなく見え、まさに聖女といった雰囲気を持つ……まぁ、偽聖女さんだよね。

 きっと、すぐだよな。

 彼女とはすぐ会うことになるような気がするかな。

 またお会いしましょうなんて、実際言っていたことだし。

 あまり再会したいとは思わないけど、そういうわけにはいかないよね。多分ね。

  

 そして、次は今日以上の苦戦は必死だった。

 アレが彼女の全力って、そんな雰囲気はまったくねぇ?

 準備が足らなかったって感じだったよな。

 今日の件で、彼女は俺たちを強敵認定したみたいなのだ。

 次は、化け物イカ以上の何かがあるんだろうなぁ。

 さらに悪趣味な海産物をお披露目されちゃったりするのかな? 


(はぁ)


 俺は胸中でため息でした。

 このまま平穏無事に行くとは思っていなかったけどねぇ。

 思った以上にドギツイ波乱がやって来やがりましたね。

 可能であればね?

 彼女には2度とお会いしたくは無いかな。

 どこか遠い場所で、クトゥルフさんとやらと仲良くしておいていただきたいところですが……ふーむ。


(……なんだったんだろうな?)


 そうである。

 会いたいとは欠片も思えないんだけどね。

 でも、彼女については正直気にはなった。

 再戦必死の強敵としてはもちろん気になるけど、今の俺の念頭にあるのはアレだ。

 けっこう変だったよね?

 彼女って、たびたび変な態度を見せていたよね?

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