あなたの為に

宮里 京

第1話

「また今日も…」連日の止まない雨に梅雨を感じずにはいられない。高校に入り2度目のクラス替えから2ヶ月経った今でもクラスに馴染めない僕は今日もクラスの窓際で一人お弁当を食べていた。周りを見渡せば既に完成されたグループで円を作りお弁当を食べつつスマホゲームで遊ぶ男子、幼稚園児サイズの弁当箱を食べ終え動画撮影に向かう女子。「まるで住んでいる世界が違うみたいだ。」そうボソッと呟きまた1人机と睨み合う。

「今日で今週の学校は終わり」来る意味も分からないこの学校生活 それでも通うのは毎日の放課後の為だ。6時間目終了のチャイムがなりホームルームが終わると同時に僕は一瞬身構える。「優 帰るぞ!!!!」大きな音を立て扉を開け、大きな声で僕の名前を呼ぶのは隣のクラスで小学校からの唯一の友達、というか親友の神奈 《かんな》光だ 彼は背も高くイケメンで何より運動もスポーツも抜群だった その癖美術部所属で出した作品は全て銀賞以上(銀賞は1度 それ以外は全て金賞と大臣賞)更に趣味のピアノではコンクールで全国大会出場などなんでも出来てしまう。そう 僕の真逆の人間なのだ。そんな彼は女の子人気はもちろん多くの男子生徒からの信頼も厚く来年度の生徒会長候補になるくらいだ。そんな彼は毎日学校帰りは決まって僕を呼びに来る「毎日毎日そんな大声で呼ぶなよ」薄暗い雰囲気の僕が王子様のような光と仲良くすることが気に食わない人もいるのだろう毎回光に呼ばれる度に白い目が向けられる僕はクラスメイトから向けられるその視線が嫌いだった。

光と靴箱に向かい靴箱から靴を取りだし履こうとしたその時「なぁ、あの人って確か」光が声を潜めて「先月くらいまで来てた優のクラスの星野瑠奈だよな」そう僕のクラスには一人不登校がいる「あぁそうだよ。ゴールデンウィーク明けてから急に来なくなったんだ。週末に配布物貰いに放課後来るらしいけど」特にクラスメイトに興味のない僕には彼女が休む理由もどうでもよかった。「あの子笑ってたとこ可愛いと思ったのに一切笑顔が無くなったもんな」光はそう言うが僕は笑った顔どころか普段の顔でさえ記憶にない。

光と自転車で帰る放課後はとても好きだった。朝は光が自主勉強がしたいという理由で先に学校へ行くが帰りはいつも30分かけて2人で自転車で帰った。時には小学校時代の話し 時にはコンビニで買ったアイスを片手に光の恋愛自慢話さえも聞いていた。「2年になってから5人に告られちゃったよ、俺は別に彼女いらねーし 優に分けてやりてーよ」「その裏での口の悪さを今まで告ってきた人に全部流してやりたい」そんな他愛もない光との会話が優にとっての楽しみであり学校へ行く唯一の理由だった。

夏休み前終業式の為だけに学校へ行く。体育館に並ばされ表彰だの夏休みの注意事項だのどうでもいい話を聞かされる。そして最後には永遠にも感じる校長の挨拶だ。「えぇ〜皆さん明日からは夏休みですがくれぐれも事故には気をつけて。実際近くの高校でも………」誰がこんな長い挨拶聞くんだよ そう思いつつもただ終わることを待つしかできない生徒は司会の「礼」という言葉に合わせて首だけを動かす。「あぁーーーやっと終わったーー!!」体育館中に響く周りの生徒の声とともに「優 帰るぞ!!!!」といつもの大声が響く しかも全校生徒の中だからいつにも増して余計に恥ずかしい。「だから、そんな声張らなくても聞こえるよ」そう言いつつもついに迎える夏休み いつもより早い時間に光と帰れることに心躍る自分がいた。

「今日くらいのんびりどっかによって帰ろうぜ」そう言う光に「じゃあアイスでも買って食べるか」と結局いつもと変わらない感じで過ごす。「お前って良い奴なのに俺以外と関わらねーよな 勿体ねーよ」「僕のことが良い奴に見えてるの光だけだろ」「いや、小学2年から関わる俺が言うから間違いねー」「そりゃどーも」そんないつもと変わらないやり取りだが 「良い奴」と言われるとやはり嬉しいものだ。お互いにアイスを食べ終えた頃「夏休み遊ばねー?」と珍しく真面目な光から遊びの誘いがあった「夏休みくらい家にいさせてくれ」一人の時間が好きな僕は折角の誘いだが断らさせてもらった。どうせ夏休みが終われば毎日の様に会う光と夏の炎天下の中遊ぶほど僕の中で遊びは重要じゃなかった。「とにかくクーラーの下で本でも読んどきたい」そう呟くと「そんなんだから体力もなくて運動も出来ねーんだよ」と遊びを断ったからか少しムッとした表情で光は言った。


夏休みも中盤になり半分も進んでない課題を机に広げたままベッドに横たわりいつも通り小説を読んでいた。「わざわざエアコンのない外に出るなんて考えれない」そうボソッと呟きながらも読み進めていると ピンポン と家のチャイムが鳴った最初は放っておいたが家族皆外出中なのを思い出し自室からクーラーのない玄関へと向かった。「なんだよ、、あっっついなぁ」

そう言いながらも扉を開けると担任とヒカルのクラスの担任が立っていた。「神奈 光くん知らない?2日間家に帰ってないらしいんだけど…」

光のやつ珍しいな、と思いつつも「わかんないです。会う予定もなかったし」と告げた すると「そっか、、和泉さんならいつも仲良いし知ってると思ったんだけど…」「ごめんなさいね 夏休み中にお邪魔して ちゃんと課題するのよ?」そう言って2人の担任は帰って行った 「はぁ、一応光に連絡しとくか」そう呟きながら家族と光しか登録されてないLINEを開く 最後に話したのは…クラス替え発表の時だな学校外で滅多に光と話すことの無い僕は「大丈夫か?」とだけ送信し また本に向かった。それからどれだけ時間が経っただろう 気がつくと本を読んだまま寝落ちていたらしい 時間を確認しようとスマホを開くと1件の返信が来ていた 「あぁ」こっちは心配してやってんのになんだその冷たい返信は そう思いながらも特に返信を返すことも無く会話は途切れた。

夏休み前日僕は課題に追われていた。昔から最後に残しては苦労するタイプだが今年も案の定そうだった。「はぁ、面倒臭いな 二学期から学校行くの辞めてもいいんだけどな」そう呟きながらも課題を進めた。しかしこの発言は冗談ではなかった。正直勉強にもついていけてない 休み時間も一人 学校の何が楽しいんだ?本気でそう思っていた。「どうせ自分と仲良くしたい人なんていない」光との放課後は楽しいがその2.30分の為に一日を学校に費やすのは馬鹿馬鹿しく思えた。


それでも次の日 気づけば学校にいた。どうやら休む勇気もないらしい。「はぁ、徹夜で課題したし寝不足。」そうブツブツ呟きながらも隣の空いた机を見ながら「星野はまだ来ないんだな もう学校やめたのかな」と考えていた。そして始業のチャイムが鳴る5分前始業式の始まる体育館へ向かった。

体育館へ着くとまた終業式と同じ地獄の時間が始まった 夏休み期間中に結果を残した人への表彰 これから行われる全国大会へ向けての意気込み などなど、全て優には関係の無く退屈なものだった。「やっぱり今日来なければよかった」「はぁ」と大きくため息を吐きまた永遠にも感じる校長の話が始まる。「誰が聞くんだよ」そう思っていると挨拶の冒頭から校長の違和感に気づいた。少し鼻を啜っている。何故だ? そう思い聞いていると「実は、、、とても残念なことに、、2年C組の神奈光くんが、、、、、、 不慮の事故で亡くなりました……………」

正直そこから記憶がない。みんなで黙祷をしたようなしてないような。そこから自分がどう教室に戻ったかも覚えていない。ただ、周りを見渡すとみんな泣いていた。泣いていないのは 僕だけ だった。その後僕は保健室に通った。両親も担任も学校全体が僕のメンタルを心配していた。泣かない僕に対して 「辛ければ泣いていいんだよ?」 と、声をかけるが、僕自身でさえ辛いのか。怖いのか。なぜ自分が泣けないのか。自分の心理状況が分かっていなかった。後で分かった話だが、光は来年に控えた進学校への受験話し。周りからの過度な期待など日々の不安が僕の気づかないところで積もっていたらしい。母親は学校側でサポートしてもらった方がいいと学校に行くように言った。しかしクラスではなく保健室登校でいいと。学校側も認めた しかし僕自身は家にいても学校にいても 親でも先生でもカウンセリングの人でも 誰を目の前にしても思いは変わらなかった。 「僕はなぜあの時彼の遊びの誘いを断ったの?」「なぜLINEをあそこで区切ったの?」そこには後悔と頼りの彼を僕自身が消してしまったという強い自責の念しかなかった。


保健室登校が2ヶ月経ったころ僕はまだ立ち直れないでいた。そんなある時 保健室に見覚えのある顔が入ってきた。隣の席で不登校になっていた 星野るな だ。彼女は保健室登校を始めたらしい。まぁ 僕には関係の無いことだが。

彼女が保健室に通い始めて1週間経った頃初めて話しかけられた。「君は確か一緒のクラスだったよね、名前はなんだっけ。」急に話しかけられた上にここ数ヶ月ほとんど喋ることのなかった僕は口が上手く回らなかった「い、いじゅみ ゆうです。」まさか自分の苗字で噛むとは思わなかったと驚いたがそれ以上に何事も無かったかのように淡々と話す星野に驚いた。「優くんはどうして保健室にいるの。」 そう聞かれて僕自身なんと答えればいいか分からなかった。「なんでだろう。家にいても学校にいても どこにいてもやること無くて 家にいても家族の迷惑だからここにいるのかな」僕自身改めて考え直すが保健室にいる理由が分からない 「星野はなんで保健室いるの?」聞く気もなかったが何となく自分だけ言うのは嫌だったので聞いてみた。「生きる意味が無いから。保健室が1番気楽」そう言われて僕は回答に困った。心のどこかで思っていた自分の意思をそのまま言葉にされたからだ。「生きる意味がないってどうして?これ、聞いていいかな…」僕はどうしても気になった。僕と同じ感覚を持った人がいるとは考えもしなかったからだ。


「ゴールデンウィークの時にね お兄ちゃんが交通事故で亡くなったの 1つ年上の別の高校に通ってた」 僕は言葉が出なかった。心のどこかで自分は親友を失い可哀想だ、こんな僕は何も頑張る必要ないんだと言い聞かせていたから。「お兄ちゃんはね私が小さな頃から可愛がってくれて小学校から中学校まで一緒に登下校してくれて…」そう言いながら 星野瑠奈は 泣いていた。

数分時間が経つと星野は鼻を啜りながらほんの少しだけ笑った。「お兄ちゃんが亡くなってから 初めて人の前で泣けた」「私。妹なのに兄が死んでも泣きもしない冷たいヤツなのかって周りから言われて…」そう言いながら下を向いた。

僕は何も声をかけることが出来なかった。


次の日保健室に行くと先に星野がいた。そして「私でよかったら話してごらん。本当は何か心に大きな穴が空いてるんでしょ?」と昨日一日話しただけでかなり見透かされていた。僕はやはり話せなかった。口に出すことを怖がる自分がいた。すると星野が「私。三学期から教室に戻ろうかと思ってるの。優くんも戻らない?」僕は怖かった。どんなに頑張っても今は笑顔を作れない。光のない眼をしていることは自分でもわかっていたし。いくら興味のないクラスメイトとはいえそんな自分を見せたくはなかった。「昨日優くんが初めて話を聞いてくれて、辛い気持ち、半年近く閉じ込めてた思いを話すことが出来て凄く嬉しかった。だから優くんの力になりたい。」そう言いながら星野の目にはうっすらと涙で出来た膜がが張られていた。星野の涙に釣られたのだろう。気づけば自らの想いを言葉にしていた。親友の光が夏に不慮の事故で亡くなったこと。その直前に遊びの誘いがあり断っていたこと。LINEのメッセージを適当にしていたこと。そして 親友を助けれなかった自分への悔いを全て話した。今まで誰かに話したくて、でも言葉にできなくてそんな想いを全て吐き出した。そして気がつけば僕も星野も泣いていた。もちろん全ての思いが吐き出せて何も無かったかのようになる訳では無い。それでも間違いなく前を向けた。その後はもう一度 瑠奈 の話を聞いた。「お兄ちゃんは私に口癖のように『周りを笑顔にする 瑠奈 の笑顔はずるい。こんな可愛い妹他の男には渡さねーぞ!』って シスコンだよね(笑)」そう言いながら泣き笑いする星野瑠奈の笑顔は輝いていた。そういえば僕も…

ふとアイスを片手に光と話していた内容を思い返した「お前って良い奴なのに…」そうだ、自分自身で隠していたんだ。なんと言ってもお互いを知り尽くす親友の 神奈光 が言うんだから違いない。自分の強みに蓋をするのはいつだって自分自身だ。せっかく僕を誰よりも知る人がくれた「大切な言葉。」親でも兄弟でも親友でも、日頃の会話の中に1番の味方は隠れている。それに気づけた僕達は大丈夫。どんなに周りからバカにされても。自分に価値がないと思っても。心の中に1番の味方がいてくれてるんだから。僕はこれを証明する為に生き続けるよ。今僕ができる親友への恩返しとして

僕を見つけ。信じてくれた。


あなたの為に。


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