035_作戦会議
サーシャのお陰で俺達はイアンと遭遇する事なく、家に戻る事が出来た。
「魔法陣は見つかりましたか?」
家出待っていたケイトが俺を出迎えると同時に、結果を確認しに来た。
「ああ、説明するからちょっと待ってくれ」
適当な紙を机の上に広げ、見てきた儀式の間取りを書く。
現場に来なかっケイトも交えてイアンとどう戦うか決める必要があるが、地図を見ながら説明した方が理解しやすいだろう。
「部屋の中央には魔法陣があった」
まずは儀式を行うであろう場所と、その特徴について共有する。
「召喚の儀式なら生贄は魔法陣の中に置くのが普通です。儀式はこの部屋で行われると考えた方がいいですね」
何となくそんな気はしていたが、俺よりも悪魔召還に対して知識のあるケイトのお墨付きを貰えるのならば、それで間違いないのだろう。
「残念ながら部屋の中に戦いに使えそうな物は無かった。灯り用の燭台があったぐらいだ」
魔法陣がある以外は殺風景な部屋だった。
「だったらスーザンさんを攫って逃げるって言うのはどうですか?」
生贄として用意されているスーザンがどこに置かれるか分かるのなら、イアンを一時的に抑えるだけで、スーザンを救出する事は可能だろう。
「それはダメだ。イアンから刻印の魔術の話を口外されるのを防ぐなら、イアンを倒すしかない。」
俺達の目的はスーザンを救出する事もあるが、サーシャの秘密を守る事もある。だからこそ騎士に頼らずに俺達三人の手でやろうとしている。
「そういえば、そうでしたね」
だからスーザンだけ救出してイアンを放置するというのは無しだ。
「それって、イアンの刻印を消せば、イアンの証言の信憑性が下がるから、イアンの刻印を消せればいいって話じゃ無かった?」
俺とケイトが話していたところに、サーシャが思い出したようにその話を口にした。
「その話も覚えているが、イアンが大人しく刻印を消されるとは思えないな」
俺の予想ではイアンを倒す事と、イアンを倒さずにイアンの体から刻印を消す事は同じぐらい難しいだろう。
「どうして?」
サーシャにはそれが分からないようだ。仕方ない。説明しよう。
「イアンはサーシャにも興味を持っている。そして、刻印で居場所が分かる以上はサーシャからイアンの方に接近してくるという事が分かっている」
だからサーシャを捕らえようとしているイアンは、例え自分で刻印を消す事ができたとしても、消す事は無いだろう。
つまりは、イアンは刻印を消されると分かったら抵抗する可能性が高く、刻印を消そうとするならば、普通に戦ってイアンを無力化してから刻印を消す魔術をかける事になる。
「じゃあ、刻印を消そうとすると結局戦う事になるって事?」
サーシャにも俺の予想が理解できたようだ。
「そうだ。だから刻印だけ消そうとするのはあまり得策じゃない」
それでは最初から普通に戦う事と大差ない。
「ところで、術者が立ちそうな場所はありましたか?」
イアンと戦う方向に話がまとまったところで、今度はケイトが口を開いた。
「いや、無かった」
イアンが儀式中にどこに立つのか分かれば、そこをねらって罠を作ると言う手は俺も考えたが、生憎とあの部屋には魔法陣以外に目立った物は無かった。
「魔法陣の近くに術者は居るはずですが、定位置は定めていないのかもしれません」
つまり生贄を配置する場所は分かっても術者がどこに立つのかを事前に予測する事は出来ない。
「となると儀式が始まった瞬間に攻撃するしかないか」
事前にどこに立つのか分からないなら、やはり儀式が始まったタイミングを狙うしかない。
「儀式が始まったタイミングが正確に分かるのですか?」
こちらにはサーシャがいる。
「
刻印なら、イアンとスーザンがあの部屋に入ったという事は分かるな」
だから儀式が始まるタイミングは分かるはず。おれはそう思っていたが、ケイトにその考えは否定された。
「あの部屋に入ったからといって直ぐに儀式を始めるとは限りませんよ」
そういう考え方もあるのか。
「儀式が始まるまで何をしているんだ?」
俺には前もって来る理由が良く分からない。
「イアンさんは儀式の成功率を上げるために、わざわざ満月の夜を選んだのですよね」
スーザンから聞いた話によると、そうだった。
「そのはずだ」
それがどう関係するというのか。
「だったら満月が一番高く上がるタイミングで儀式を行う筈です」
それは俺も分かっている。
「何故前もってあの部屋にいる事になるんだ?」
儀式を行うタイミングよりも前にあの部屋に行く事に意味があるのか。
「儀式のタイミングが重要なら、そのタイミングに会わせるために事前に儀式の準備を済ませるために少しはやくあの部屋で準備をする可能性はあります」
万一トラブルがあっても大丈夫なように事前に全ての準備を終わらせるという事か。
「そこまでするか?」
俺にはそこまでする必要があるとは思えないが。
「もしこのタイミングを逃せば次の満月まで待つことになります。そのリスクを考えたら、月が昇る前に準備をして、万全の体勢で待つのではないですか?」
確かに満月の夜を必須とするなら、今回のタイミングを逃すと次の満月まで待つ必要がある。
「だからって絶対そうするとは限らないだろ」
とはいえ予想の範疇を出ない。
「まあ、本人の性格次第ですが」
イアンはどうするだろうか。
「仮にイアンがあの部屋に前もって入る可能性があるとすると、刻印を頼りにイアンに仕掛けるんじゃなくて、満月が一番高く上るタイミングで仕掛けた方が良いって事か?」
儀式の中なら、イアンにも隙ができるという前提で、イアンが部屋に入ったら攻撃を仕掛けるつもりだった。
「イアンさんが儀式を始めたタイミングで仕掛けるという前提ならそうですね」:
イアンの位置よりも満月の高さによって儀式が開始するタイミングが正確に分かるというのであれば、そちらに頼った方が良い。
「だったら月が一番高く上ったタイミングで突入しよう」
その方がイアンの隙を付ける可能性が高い。
「本当にそれでいいんですか?」
話が決まったと思ったらケイトが聞き返して来た。
「その方がイアンの隙を付けるんだろ?」
ケイトの方から正確に儀式が開始するタイミングをついた方が良いという話をしてきたのに、何故反対するのか。
「仮に儀式始まってしまうとスーザンさんが命を落とす可能性が高くなります」
そういう事か。確かに儀式が成功すればスーザンは生贄として使われてしまい命を落とすだろう。
「儀式を中断させれば助かるだろ」
だからこそ儀式が始まるタイミングで襲撃し、イアンを止める必要がある。
「それは私達がイアンさんを止める事が出来ればの話です」
隙をつくだけでは俺達でイアンは倒せないとでもいうのか。
「普通に戦うよりも儀式中に攻撃した方が良いだろう」
それでも正面から闘うよりも儀式の隙を狙った方が勝率は上がるはずだ。
「儀式中を狙えば隙は大きいかもしれませんが確実に倒せる訳ではありません」
絶対にイアンを倒せるのかと言われたら、保障はできない。
「何が言いたい?」
では俺にどうしろというのか。
「スーザンさんを助ける事を重視するなら儀式が始まる直前に、スーザンさんを助け出した方が良いです」
イアンを倒す事も大事だが、スーザンを助ける事も大事だ。
「イアンを襲撃するタイミングを変えろっていうのか?」
ケイトが言いたい事はそういう事だろう。
「イアンさんを倒す事と、スーザンさんを救出する事のどちらを優先しますか?」
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