034_下見
イアンの屋敷で魔法陣のある部屋を見つけた。つまりは、明日の夜ここでイアンと決戦を行う事になる。
「何かあるかな」
部屋の中に何か役に立つ物があるか見るが、殺風景な部屋で地面に魔法陣がある以外で使えそうな物といえば燭台ぐらいだ。
今は昼で明かりはついていないが、夜になれば蝋燭に明かりを灯すのだろう。
「ねえ、そこ、壁が新しくなってない?」
サーシャが窓際の壁を指さす。いつの間にかケイトは部屋の中に入ってきていた。この部屋の雰囲気に慣れたのだろうか。
「確かに」
明らかに途中から色が変わっている部分がある。
「これは何か仕掛けがあるのか?」
触ってみるが動いたりはしなかった。
「下手に触ったら危ないんじゃないの?」
言われてみれば、イアンが俺達に対して罠を張っている可能性もある。
「いや、壊れた部分を補修しただけか?」
儀式で失敗でもしたのだろうか。
「イアンが壊したって事?」
誰が壊したのかまでは俺には分からない。
「かもしれないな」
結界さえなければ、スーザンを救出した後はこの壁を壊して外に逃げるという手もありなのかもしれない。
「その壁以外に何か戦闘に役立ちそうな物はある?」
さて、逃げる方法を考えるのも大事だが、何よりもイアンとの戦いを有利に進める方法を考えなければならない。
「この魔法陣を壊すって言うのはどうだ?」
イアンはここで召喚の儀式をするつもりなら、この魔法陣を壊せば儀式自体ができなくなるはずだ。
「それ意味あるの?」
俺はいい考えだと思ったのだが、サーシャはそうは思わなかったようだ。
「儀式ができなくなるだろ」
悪魔召還ができなくなればスーザンが生贄にされる事は無くなるはずだ。
「儀式の最中にスーザンを取り返すって作戦だったのに?」
そういえばそうだった。仮に明日の儀式を防いだところで、スーザンをあの牢屋から出す方法がなければスーザンを救出する事は出来ない。
「じゃあダメか」
確かに儀式そのものができなくなったら、作戦が破綻する。
「ちゃんと考えてよ」
サーシャに呆れられてしまった。そうは言ってもさっきこの部屋に来たばかりであり、この部屋の中には対して使えそうなものは無い。急にいいアイデアなんて都合よく出てくるはずも無い。
俺はしばし考え、また別の考えをひねり出す。
「なら少し傷を入れて、儀式がやり辛くするとか」
壊すのがダメなら多少傷を付けるというのはどうだろうか。時間稼ぎぐらいにはなるはずだ。
「それって直ぐに魔法陣を直されるんじゃないの?」
俺達はずっとこの場所に留まるつもりは無い。イアンが戻ってくれば撤収する予定だ。だとすると傷に気が付いたイアンは魔法陣の修復ぐらいはするだろう。
「少しの損傷なら、直されるだけか」
魔法陣に細工をすると言う手から考えを離れた方が良いかもしれない。
「それにあたし達がこの部屋に侵入した事に気が付いたら、場所を変更する可能性もあるよ」
イアンがこの場所に拘る理由があるとすれば、スーザンが居る事と魔法陣がある事だ。スーザンは人を移動させる方法があれば解決するし、魔法陣を作るのがどれだけ手間がかかるかは知らないが、他に魔法陣が用意できる場所があったとしたら、この場所に固執する理由は無くなる。
せっかく場所を突き止めたのに、イアンが儀式を行う場所を変えてしまったら作戦の前提が崩れてしまう。
「魔法陣に細工をするのは止めた方が良いか」
俺達はサーシャの力でイアンの場所を把握できるが、万一遠く離れた場所に移動されると面倒だ。サーシャの力の効果範囲についてもまだ分かっていないし、万一範囲外に出られたら取り返しがつかなくなる。
「やるなら、何か罠を仕掛けておくとかの方が良いんじゃないの?」
俺に変ってサーシャがアイデアを出してくれた。そういう手もあるか。
「罠か」
ここでイアンと戦う事を前提とするなら、この場所に罠を仕掛けるというのは有効かもしれない。
「盗賊の魔術で何か使えそうなのは無いの?」
そういう魔術があるというのは聞いたことがある。
「それはまだ覚えてない」
だが駆け出しの俺はまだ習得していない。
「じゃあ、物理的な罠を仕掛けるしかないね」
例えば落とし穴を掘るとかか。とは言ってもこの部屋の床は結構しっかりとしているため、わざわざ壊して穴を掘るには向いていない。傷を付けることぐらいは出来るかもしれないが。
「それでスーザンが掛かったら目も当てられないぞ」
スーザンも生贄としてこの部屋に連れて来られるはずだ。そう考えると無差別に罠を張る事は出来ない。
「じゃあ、イアンには有効でスーザンには効かないような罠を張るって事?」
それが理想だろう。
「イアンにだけ有効な罠か」
そんな都合の良い物があるだろうか。
「何かないの?」
少しはサーシャにも考えてもらいたいところだが、とりあえずは先に俺が案を出そう。
「一つだけ考えが有る」
幸いにも考えが無い訳ではない。
●
「待って」
だが俺が話を進めるよりも前にサーシャが声を出した。
「どうした?」
俺には何も感じられないが何かあったのだろうか。
「イアンがこっちに戻ってくる」
サーシャには刻印の魔術でイアンの動きが分かる。どうやらイアンに動きがあったようだ。
「探知されたのか?」
俺達が家に入ったことを知り、戻って来たのだろうか。
「そこまでは分からないよ」
サーシャが分かるのはイアンの居場所だけだ。イアンが留守中に探知の結界を使っていたかどうかは分からない。
「ここに戻ってくるには、まだ時間はあるか?」
俺達を捕まえるために、猛スピードで戻ってきているという事ならかなり事態は深刻だ。
「動きはそんなに早くないから、今からこの屋敷を出れば遭遇する事は無いと思う」
という事は、単純に用事が済んで帰って来ただけなのだろう。
「イアンと遭遇する前に帰ろう」
今イアンと接触しても勝機は無い。
儀式の場所が分かったのだ。それだけでも良しとして今は家に引き上げよう。
「罠の設置はいいの?」
そういえば、その話をしていたところだった。
「どうせ今すぐには出来ない。準備が居る」
今は逃げるのが優先だ。罠の設置は儀式が行われる前までに済ませればいい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます