012_詮索

「いや、俺を叩くのはおかしいだろ?」


叩かれるような事を言ったつもりは無かったのだが。


「まだ何か?」


ケイトはかなり強い口調でそう言った。




「お前だって試せって煽っただろ」


元を正せば、魔術を使ってみろと煽ったケイトにも非はあるのではないか。


「キスを迫ったのはギャレットさんです」


それは否定できないが、魔術で操られて勝手に体が動いただけだ。




「だからそれは…」


その先の言葉は、ケイトの目から殺気を感じ、口に出すのを辞めた。


「何ですか?」


余計なことを言うと三発目がくるかもしれない




「サーシャが余計な事を言う前に、早く消してくれ」


 今は話を戻そう。


 俺はケイトに俺の右腕に刻まれている刻印を見せた。




「アンチスペル」


再度ケイトは解除の魔術を使った。


先ほど同様、跡形も無く刻印は消えた。


それを見たサーシャが口を開く。


「ところで、これって私がケイトに付ける事もできるの?」


俺以外でも試してみたいという事だろうか。




「できますよ。私は消せますが」


まあ、解除手段を持っているケイトであれば付けられたとしても直ぐに消してしまうのだろう。


「じゃあ他の人にも使える?」


俺だけに効く魔術という事でなければ、当然俺以外に使っても同じ事が起きるのだろう。




「使えますが、お勧めはしませんよ」


だがケイトはそれには反対のようだ。俺もケイトと同意見だ。


「どうして?」


サーシャには分からないのだろうか。この前イアンと面倒な事になったばかりだ。




「その魔術は特殊です」


その特殊な魔術の存在を何故ケイトが知っているのかという疑問もあるが、今聞いても教えてはくれないだろう。


「特殊だと使ったらマズいの?」


ケイトとしてはせっかく覚えた魔術を使って色々とやりたい事があるのだろう。


それに対してケイトは諭すように聞かせる。




「そんな魔術を使えると、他の魔術師が知ったら黙っていないでしょう」


それは以前俺がケイトに言い聞かせていた事だ。


あまりにも特殊な魔術を使ったら面倒になる。どこで覚えたのかを聞かれるのは間違いない。


実際この前イアンとも面倒になったし、つい先ほどもケイトに詮索されたばかりだ。


「ケイトも兄さんみたいなことを言うんだね」


サーシャとしては俺以外に秘密を打ち明けた相手は少ない。できれば隠すことなく使いたいのだろうが、これはあまりに危険すぎる。




「その魔術を使えばいくらでも人を操れます。悪用しようと思えば様々な使い方があります」


人を操る魔術というのは色々な使い方が出来るだろう。


「俺もケイトの意見には同感だな」


公にするには危険すぎる。




「ところで、お二人に聞きますが、同じ魔術を見た事がありますか?」


まさかサーシャが見様見真似であの魔術を習得したと疑っているのだろうか。


「俺は初めて見たぞ」


少なくとも、俺は刻印の魔術をサーシャ以外が使うのを見た事は無い。




「あたしも見てないよ」


それはサーシャも同様のようだ。


「そうですか」


ケイトの語気からは、がっかりしているように感じられる。何かあの魔術について新しい情報が得られると思っていたのかもしれない。




「サーシャ以外にあの魔術を使う奴がいたらどうするんだ? ケイトに解除してもらうまではどうしようもないのか?」


サーシャ以外にもあの魔術を使える者がいる可能性はあるのだろうか。


「結局は魔術ですので、魔術の知識があれば対抗できます」


刻印の魔術と言えども万能ではないようだ。




「俺は出来なかったぞ」


一応逆らおうとは思ったが、体は命令に従っていた。


「盗賊では無理でしょう。魔術に長けていればできますよ」


という事は、やはりケイトに解除してもらうのが一番なのだろう。




「ケイトもできるのか?」


ここまで詳しいとなると、やはりサーシャ以外であの魔術を使う者を知っているのだろうか。


「それはどうでしょうね」


明言しないのは、やったことが無いのか、それすらも秘密なのか。どちらにしろ、まだ全てを話すつもりは無いと言う事だろう。




「ところで、教会のシスターでもこれは解除できなかった」


俺の知る限り、これを解除できるのはケイトだけだ。


「そうでしょうね」


ケイトはそれが当然であるかのような表情をしている。


まあ、元シスターならそれぐらいは知っているか。だったらさっさと聞きたい事を聞こう。




「何故君が解呪の魔術を使えるんだ? この魔術を研究しようと思った理由は?」


ケイトがあの魔術を使えるのには、何かしらの背景があるのだろう。


「それは、まだ秘密です」


この答えは予想していたが、やはりまだ話すつもりは無いらしい。




「俺達を信用できないのか?」


パーティーに入るのならば、話しても良さそうだが。よほど重大な秘密という事だろうか。


「あなた達もまだ秘密があるでしょう」


確かに、俺達も誘拐の件については話していない。




「それもそうだな」


お互い様である以上、あまり詮索はしない方が良いか。


「とにかく、今日からはよろしくお願いしますね」


そういう訳で、俺達は三人パーティーを組む事になった。

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