レベル6

 ゴブリンと釣りをして家に帰って、レベル開示の宝珠に触ったらレベルが上がっていた。

 

 ……あの魚が思った以上に強かったのかもしれない。

 そう思って、その日は寝た。


 そしてそれから数日後。


「ゴブゴブ!」

「ん、ちょっと……大丈夫?」

「ゴブゴ―‼」


 俺の何時もの狩りに新しい仲間が加わった。

 新しい仲間、そう、あのゴブリンである。


 そんな新しい仲間ゴブリンは、目の前で蔦の魔物に絡み取られて宙ぶらりんに釣り下がっていた。


「……まったく」

「ゴブゴーゴー」

「はいはい、いまたすけますよっ……っと」


 そう言って俺は、ツタを切って助けるとゴブリンをキャッチする。


「……まったく、もうちょっと周りを警戒して歩きなよ」

「ゴブゴッ!」


 そう言って、忍び寄ってくる蔦を避け、投げナイフを投げ魔物を討伐した。


「……さてと―――ん? どうしたの?」

「……ゴブゴブゴ♡」


 魔物を倒し、ゴブリンを地面におろそうとすると、ゴブリンは俺の服のすそを握ってきた。

 まるで降ろさないでとねだるように。


「……はぁ、分かった。このままにするよ……まったく」

「……! ゴブゴ―♡」


 そう言って俺が不安定な足場に足を掛けた時、ゴブリンは俺に思いっきり抱き着いてきた。


「ちょっと、抱き着かな……こんな場所で抱き着くなー!」

「ゴブゴ―♡」

「ぎゃあああ、ちょ……おっとっとと」


 あ、あぶねぇ……あと一歩右に動いてたら地面にぶつかってた。


「……まったく……君って奴はさ」

「ゴブゴ~♡」

「はぁ……次はもうちょっと考えてから抱き着いてきてよね」

「ゴブゴ~!」

「………ほんとに分かってんのかな?」


 そんなことを言って俺たちは、森の奥へ奥へと入っていく。

 目指すはまだ未開の地。


 湖の横を通り、湖に入ってくる川の横を辿っていく。



「……そう言えばなんだけどさ……まだ君の名前聞いてなかったよね」

「ゴブゴ?」

「そう、名前……教えてくれる?」


 そう言うと、ゴブリンは首を横に振った。


「教えてくれないの?」

「ゴブゴ、ゴブゴブゴ」

「……? ……あ、名前ないってこと?」

「ゴブゴ!」


 そう言って頷いた。

 なるほど、名前ないのか。


「……じゃあ、今まで通りゴブリンさんでいいか」

「ゴブゴッ!」

「え、駄目?」


 そう言って頷いた。


「そう言われても……名前ないわけじゃん?」

「ゴブゴゴゴ」

「……え? 僕が名前つけろって?」


 そう言うと、ゴブリンは元気よく頷く。


「名前……名前か……ゴブオとか?」


 そう言うと、ゴブリンはあからさまに嫌な顔をした。


「じゃあ、ゴブタ」

「ゴーブー?」

「……ゴブット」

「ゴブゴブブ‼」


 そう言うと、てめえふざけてんのか! と叩かれた。

 

「うぅ……酷い、必死に考えてるのにッ!」

「ゴブゴブゴッ!」


 そう言ってツーンとそっぽをゴブリンは向く。


「……そんなに不満あるなら、自分で名前つければいいじゃん」

「ゴブゴッ⁉ ……ゴブゴブゴ……」

「え? それじゃ意味がない……どういうことだよ」


 俺は訳が分からず、混乱していると……ゴブリンはポンッと手を打ち鳴らした。


「……ゴブゴッ!」

「ん? 僕の名前? 僕は……ラプラスだけど……」

「ゴブゴブっ‼」

「ラプラスだよ……ラプラス……それがどうしたの?」

「ゴブゴブゴ!」

「え? 俺の名前と似た名前を付けてって? ……そう言う事?」

「ゴブっ!」


 そういってゴブリンは大きく頷いた。

 本当にそれでいいのか……まあ、俺は別にいいけどさ。


「似た名前……似た名前かぁ……うーん」


 そう言って少し首を傾げた俺は……ラプラスに近い名前を考え続ける。


「ラプラス……ラプラスか……うーん……プラス……ゴブリン……小鬼……鬼……キ……キプラス……キプロス。キプロスとかどう?」

「ゴブブブ?」

「うん、キプロス」


 そう言うと、ゴブリンは何処かご機嫌に喜んでいた。


「ゴブゴブ! ゴブゴ―!」

「気に入ってもらって良かった……キプロス、これからよろしくね」

「ゴブゴ―!」


 そう言って、俺は抱き着かれた瞬間……突然地面が揺れた。


「へ?」

「ゴブゴ……? ゴブゴオオ⁉」

「ちょ、落ち着いて落ち着いて」


 そう言ってキプロスを落ち着ける俺。

 しばらくして揺れは収まった。


「……な、なんだったんだ?」

「ゴブゴ~?」


 そう戸惑っていると、今度は地面がミシミシと音を立て始めた。


「は? 何?」

「ゴブゴ~?」


 地割れが広がり一瞬にして、俺達の目の前に大穴が現れる。


「……わ、わわ……」

「ゴブゴ⁉」


 地面が見えない大穴。それが、俺達のいる場所から数歩先に突然出来上がってしまった。


「な、ナニコレ?」

「ゴブゴ~」


 俺はゴブリンを抱きかかえたまま、ゆっくりと大穴に近づいていく……


「……地面が、見えない」

「ゴブゴ……ゴブゴ……」


 そう、言った時……ゴブリンの顔らへんにペタッと、巨大な虫が張り付いた。


「ゴ、ゴブっ⁉」

「あ……」

「ゴブゴゴオオオオオオオオオオ⁉」


 そう言って、ゴブリンは驚き、俺に抱き着いてきた。

 大穴のそばで立っている俺に…………


「ちょ、飛びついてくるなーー!?」

「ゴブゴ―!」


 こうして……抱き着かれバランスが取れなくなった俺は、叫び声を上げながら二人仲良く大穴の底に落ちていったのだった。

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