魚って陸でも襲ってくる。

 ゴブリンを助けた俺は、現在釣りに戻って、のんびりと湖畔を眺めていた……のだが。


「はぁ、なんで助けたのかなぁ……」


 そう言って深くため息をついた。


 ゴブリンなんて、そもそも人間じゃないし……魔物だっていうのに……なんで助けたんだろうな。


「ゲーム内でも、普通に敵だったし……なんで」


 もしかしたら、人型に近かったせいかもしれないな。

 

「……はぁ、まったく。自分の事ながら理解できないよ」


 そうため息をついた、俺はちらっと後ろを振り向いた。


「……それで、なんか用でもあるの?」

「ゴブっ!」


 さっきから、誰かから見られてるなって思ったけど……やっぱりさっきのゴブリンか。


「……もしかして、これに興味があるの?」


 そう言って、俺が指さしたのは釣り竿だった。


「ゴブっ‼ ゴブゴブ?」

「……何してるかって、そう言ってるの?」

「ゴブっ‼」


 そう、ゴブリンが頷いた時、竿に魚がかかった。

 俺が竿を上げると、そこに光る銀の魚。


「魚取ってる」

「ゴブ⁉」


 そう言って陸に上がった魚を見て、ゴブリンは目を真ん丸に輝かせた。


「……やってみたいの?」

「ゴブっ!」


 そう頷いたゴブリンに、俺は釣り竿を渡す。


「こう持って、そして……この針に餌をかけて……」

「ゴブブ……」


 そう言ってゴブリンに釣りを教えていく。


「そして、餌を引っ掛けたら投げる。後は、魚が食いつくのを待って………まだ、まだ魚が餌をつついてる状態だから……もう少し、今」

「ゴブっ‼」


 そう言ってゴブリンが思い切り引き上げると、そこには俺がさっきまで釣ってた魚よりも一回り大きな魚がかかっていた。


「……おお、でかい」

「ゴブッ‼」


 そう、思わず感嘆の声を上げたのもつかの間。

 魚はその身をくねらせ、俺たちの方に飛び掛かってきた。


「うわっ、びっくりした」

「ゴブっ」


 俺は、固まっているゴブリンを抱えると、横に避ける。


「……こういうこともあるんだな」


 そんなことを言って、俺は魚を見る。

 魚は、俺達に敵意をむき出しにし、まさに今すぐにでも襲い掛からんとするほどだった。

 ギザギザの歯と、鋭いヒレ。

 水中で襲われたらひとたまりもないだろう、恐ろしい姿だ。


 バクンッ‼


「うわっ……」


 そう思っていたら、突然魚が跳ねて襲い掛かってくる。

 まるで殺さんとばかりに襲い掛かってくるのを避けて、俺はゴブリンを地面に座らせる。


「ゴブ?」

「ちょっと、仕留める」

 

 そう言うと、俺は腰のナイフに手を当てる。


「魚なのに、陸でも早いなんてね」


 ビチ……ビチッ………バクッ

 魚が跳ね、俺に向かって飛び掛かる。 


「……まあ、所詮魚なんだけど。てなわけで、お命いただきます」

 

 グサリ。


 もう一度飛び掛かってきた魚を避け、地面に落ちたところで俺は腰から取り出したナイフを引き出し、締め上げた。


 しばらくぴくんピ君と痙攣していた魚だったが、すぐに動かなくなった。


「……よし、これで危険はなくなった」

「ゴブゥ……」


 そう言って俺は、ゴブリンと共に一息ついたのだった。

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