40. お茶の買付

 ちょっとケチはついたけど、魔力増幅の指輪はほとんど売り切れた。

 あと数個ほど余っているが、これはまた別の街で売ることにする。


 露店を終えた私たちが次にどうするかというと、ヒラゲンさんが出してくれたお茶を買付に行くことにした。

 あのお茶のいれ方を研究していたメイドふたりによって、お茶としての味もよくなるいれ方が開発されたんだ。

 私も試飲してみたけど渋みの中に甘みもあって爽やかな香りのする、いいお茶である。

 ヒラゲンさんはこの街の東にある村の特産品だと言っていたしそこに向かうとしよう。


 東門を出てヒラゲンさんを助けた森を通り過ぎ、私たちの馬車で走ること一週間、ようやくその村らしき馬車が見えてきた。

 私たちの馬車で一週間っていうことは普通の馬車だと半月以上かかるっていうことだよね。

 こんな遠くからヒラゲンさんは買っていたんだ。

 よく買えたなぁ。

 とりあえず、村でお茶を買えないか交渉しないと。


「止まれ、何者だ」


 村の入り口で門衛をしている人に止められた。

 村の規模も大きいみたいだけど、庫の門衛さんが身に付けている装備も立派である。

 使い込まれた様子もあるので実際に使用するようななにかもあったのだろう。

 うまく交渉ができればいいんだけど。


「私は青空運送商会の会頭、シエルと申します。こちらの村で茶葉を取り扱っていると聞き買付に参りました」


「茶葉を、だと? 誰から聞いた?」


 あれ、おかしいな?

 誰にでも売っているものではないのだろうか?


「ヒラゲン様からです。数週間前にヒラゲン様が森で倒れていたところを助け、工房に案内されたところ『緑茶』を振る舞われました。この村の特産品ではないのですか?」


「なんだ、ヒラゲン殿の知り合いか。森で倒れていたのはなぜだ? また無茶でもしたか?」


「森の奥にあるものを取りに行こうとしてイノシシに追い回されたと聞きましたが……」


「ああ、やっぱりそんなところか。ヒラゲン殿も森の中をのんびり進む必要などないはずなのにな。目的地がわかっているのだから飛んでいけばいいものを。自分が天翼族だという意識がないのだろうか」


 ……そう言われてみればそうかも。

 空を飛び目的地の近くまで行けば途中、野生動物に襲われるようなことはないのに。

 帰りは荷物があるから飛べなかったとしても行きは大丈夫なはずなんだけどな。


 ヒラゲンさんのことはおいておき、いまは私たちのことだ。

 改めて門衛さんに話を聞くと『緑茶』はこの村の特産品であっているらしい。

 生産量もそれなりに多く、この村の主要産業なんだとか。

 ただ、販売する伝手があまりなく、この村より更に東から来ている行商人に買い叩かれているのが実情らしい。

 買い叩かれているのがわかっていても売らないことには税金を納められない。

 そのため、売るしかないというのがこの村の現状みたいだ。

 なら、私たちがその行商人より高く買っていってもいいよね!


 門衛さんにそう聞くと、「買い取ってくれるならな」と消極的だった。

 なんでも、いまその東の行商人がこの村にやってきているらしい。

 じゃあ、急いで話をとりまとめないと!

 取引は村長の家で行われているらしいので門衛さんに村の中へと入れてもらい村の中を急いで進む。

 私たちが村長さんの家に着くと、そこでも止められたので私が商人だと名乗って通してもらうことに。

 大急ぎで村長さんの家の応接間に通されると、村長さんともうひとりの行商人の間で契約が結ばれる直前だった。

 よかった間に合ったようだ。


「なんだね、騒々しい」


「はい、村長。こちらの少女も商人のようでして。ヒラゲン殿に譲っていたお茶を飲んで気に入ったため茶葉を買付に来たと」


 それを聞いて村長さんは満面の笑みを浮かべた。

 対照的に渋い顔をしたのはいまも席に座っている、おそらくもうひとりの行商人である。

 商売の邪魔をされたんだから渋い顔にもなるよね。

 うん、なんだか申し訳ない。


「私どもの緑茶を気に入っていただきありがとうございます。お嬢さん、お名前は?」


「青空運送商会の会頭、シエルと申します。よろしくお願いいたします、村長様」


「ええ、よろしく。それで、緑茶を買いたいとのことでしたが何カロほどご所望ですかな?」


『カロ』とはお茶を売り買いするときの単位のことだ。

 元々は箱の大きさを表す単位だったそうだが、いまではお茶を売るときの単位となっている。

『カロ秤』というはかりを使い、それと釣り合う重さとなる茶葉の量が『1カロ』だ。

 私もここに来る間にミラーさんから習った。


「うーん、そうですねぇ。100カロくらいありますか?」


「100カロですと!?」


 私が答えた量に村長さんは固まってしまった。

 少し量が多かっただろうか。


「本当にそんな量を?」


「はい。私たちも美味しくいただいていますし、試飲会を行いながら広めていけば十分に売り広げられると確信しました。ちょっと風味が独特ですけど、貴族や豪商相手ではなく普通の商人や一般人向けに販売すればいけるかと」


「おお! それで希望金額は!?」


「うーん、一般人相手の取引になるのであまり高値で買い取れません。1カロあたり50ブレス程度でいかがでしょう?」


 それを聞いた途端、村長さんが満面の笑みを浮かべ、奥にいた商人がしかめっ面をした。

 私、そんなに高い金額を提示しただろうか?


「わかりました! 100カロ合計5000ブレスでお譲りしましょう! ささ、こちらへ」


「待て! まだ俺との話が終わっていない!」


 もうひとりの商人が叫ぶけど村長さんは動じていない。

 逆に面倒くさそうな顔をしている。


「ああ、今回はあんたとの取引はなしだ。この方に100カロも売れば残りは20カロもない。その程度の茶葉、私の村で消費できる。次の機会をあたってくれ」


「いいのか!? もう来ないかも知れないんだぞ!?」


 あ、あの商人はもう来るつもりがないんだ。

 ひょっとしてこれは好都合かも。


「村長様、もしよければ私の商会と専属契約を結びませんか?」


「なんと、よろしいのですか?」


「はい。この村の茶葉は必ず売り広めてみせます」


「わかりました。それでは契約の詳しい内容を決めましょう。ああ、あんたはもう帰っていいぞ」


 村長さんは先にいた商人をついに追い出してしまった。

 それだけ私たちの条件より悪い条件を提示していたということなんだろうけど、ちょっと気になる。

 もし聞けたらあ商人が提示していた条件も聞いてみよう。

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