38. 魔力増幅アクセサリーの露店販売 2

 販売開始初日のお客様はあの男性冒険者の方だけで終わってしまった。

 やはり、露店を始めたばかりで知名度が低く、冒険者たちにも知れ渡っていないのが原因だろう。

 それをどうにかしようとミラーさんに提案してみたいけど「あと数日は静観しましょう」と言われてしまい、できることがない。

 うーんなんだかやきもきする。


 そんな状態で始めた露店2日目。

 今日も天気はいいのだがお客様は現れない。

 朝食を取ってすぐに始めたのに、道行く冒険者らしき人たちも物珍しげに見ていくだけだ。

 これで大丈夫なのかな?


 そんな暇な時間が終わったのはその日のお昼過ぎ。

 東門の方から数人の冒険者たちが走ってやってきた。

 お目当ては私の露店みたい。

 一体どうしたんだろう。


「ここか! 昨日、シェッツの野郎が魔力増幅の指輪を買っていって露店は!?」


「シェッツ?」


「あいつ名乗ってなかったんだな。特段何の特徴もない、犬人族の冒険者だよ」


「犬人族の冒険者……そういえば、あの方は帽子をかぶっていましたが、耳を出すところがついていたような」


「そうそう、そいつだ! それで、ここであってるよな!?」


「はい。その方に魔力増幅の指輪をお売りしたのは間違いありませんが、なにか不具合でも起こりましたでしょうか?」


「いいや、逆だ逆! あいつ、ダンジョンで大物をひとりで倒しやがった! 結構な価値のあるルビーを手に入れていたからほくほく顔だったぞ!」


 うわぁ、それはよかった。

 ちゃんと役立っていたんだね。


「俺たちもあいつのお宝のルビーを見せてもらったが、あれは10万ブレスは値が付きそうだ。それで、装備も見た目変わってないのにどうしてそんなに強くなったのか聞いたら、この露店で魔力増幅の指輪を買って身体強化を何倍にも高めたって言うじゃねぇか! そんなことできるのかよ!?」


「身体強化を何倍も……おそらく、そのシェッツさんの技量もあると思いますが、指輪で魔力を増幅すればその程度は引き出せるかもしれません」


「本当か!? いや、シェッツがやっていたから本当だな。店主の嬢ちゃん、一番いい指輪を見せてもらいたいんだが、大丈夫か?」


「お目にかけるだけでしたら。試着は一番安い指輪でお願いいたします」


「そうか、じゃあ試着を頼む」


「わかりました。……はい、これが試着用の指輪です。壊したら弁償していただきますのでご注意を」


「わかってるって。……おお、これはすごいな! 普段よりも何倍も魔力が湧いてくる。瞬間的な身体強化だったら数倍の力を引き出せるというのもあながち間違いじゃなさそうだ!」


「お気に召していただけたでしょうか?」


「おう、気に入った! 一番高いのを……」


「ちょっとバルバトイ、なにをひとりで話を進めているの?」


 割って入ってきたのは天翼族の女性だ。

 身なりからしてこの方も冒険者だろう。

 天翼族の冒険者もそれなりに多いからね。

 種族特性的に魔力が高く力と体力が低いため、基本は魔術師になるらしいが。


「すまん、ウテナス。舞い上がっちまって」


「そういうものは私が優先でしょう? というわけでお嬢さん、私も試着してみても?」


「はい。構いませんよ」


「ありがとう。バルバトイ、早く指輪を」


「わーってるって。ほれ」


「ええ。それでは……ちょ!? 一番安いものでこれ!? 4倍くらいは魔力を引き上げているのに指輪に負荷がかかっている様子がないんだけど!」


 4倍!?

 半不良品の指輪でも4倍ってすごいよ!


「ええい、ウテナス、儂にも貸せ!」


「わかっているわよ、はい」


「うむ。おお、指輪のサイズは小さいが一気に魔力があふれてくる! これはものすごい品じゃ!」


 ドワーフの冒険者にも気に入ってもらえたみたい。

 冒険者を生業にしている人って基本的に国家の間を移動することをあまり気にしていないみたいなんだ。

 国境を通るときの税も極めて安く、依頼のありそうな街を目指して練り歩く。

 これが冒険者らしい。

 その冒険者たちに受けているんだからこの指輪ってすごいよね。


 パーティ全員が指輪の効果を試した結果、全員が指輪の購入を決定してくれた。

 ただ問題はその数だ。

 魔法を専門に使う魔人族の祈祷師きとうしと天翼族の魔術師は良品を3つずつ買いたいと言いだした。

 売ってもいいんだけど、ほかの人たち3人も良品を希望しているのでかなり在庫が減ってしまう。

 どうしようか。


「シエル様、せっかくの機会です。すべて良品で売って差し上げましょう」


「大丈夫でしょうか、ミラーさん」


「まあ、冒険者相手の商売なんて早い者勝ちですよ。それよりもあなた方は気を付けなさい」


「気を付ける、とは?」


「複数の指輪を装備して同時に魔力増幅を行うと、自分の扱える限界範囲を超える魔力を引き出してしまうことがあります。壊れたときの予備として持ち歩くのは構いませんが、同時に複数の指輪を身につけるのはよしたほうがよろしいかと」


「わ、わかったわ。気を付けます」


「はい、お気をつけください。それでは、お会計を」


 複数の指輪で魔力増幅を起こした結果なんて私は試してないんだけどな。

 冒険者の方々が帰ったあとミラーさんに聞いたが、メイドのドローレスに頼んで実験したらしい。

 ドローレスが一番魔力が低く、護衛たちでも取り押さえやすいということで試したそうだが、魔力が暴走して気を失ったそうだ。

 それだったら私が試してもよかったんじゃないかとも思うけど、それはだめらしい。

 私は商会主であり危険な行為は任せられないのだ。

 今回、指輪がどの程度の魔力まで持ちこたえられるかを試したことだって私が極端に魔力が高かったためであり仕方なくであったそうな。

 そこまで大切にされなくてもいい気がするんだけど、商会長をするっていうことはそういうことなんだろう。

 私はいままでひとりだったからなんでも自分でやろうとするけど、これからは人に任せることは人に任せないとだめらしい。

 メイドのプリメーラとドローレスが一緒に来たのは家事をするためだけではなく、私が危険なことをしなくてはいけないときに代行するためでもあるそうだ。

 護衛のみんなは言わずもがな私たちの護衛。

 私以外は護身術の経験があるらしいので実質私のための護衛だ。

 身に余る光栄だけど、ダルクウィン公爵様から私へのプレゼントと考えみんなを危険にさらさないように気を付けよう。

 とりあえず、いまは魔力増幅の指輪を売り切ることだね。

 この調子でお客様が増えると嬉しいんだけどな。

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