37. 魔力増幅アクセサリーの露店販売 1

 ヒラゲンさんからいろいろと買い取った私たち。

 翌日はその中のひとつ、魔力増幅アクセサリーの性能検査だ。


「うーん、これはいまいちですね。2倍くらいまで強化するとガタガタ震えます」


「シエル様の強化で2倍というのは普通の者では数倍を耐えるということなのですが……まあ、いいでしょう。こちらは半不良品に」


「はい、かしこまりました」


 私の手から指輪を受け取ったメイドのプリメーラが今回の指輪を『半不良品』と書かれた袋に詰める。

 ここまでのテストの結果、私の魔力で3倍まで耐えられた物を『一般品』とし、4倍までいけたものを『良品』、2倍しかいけないものを『半不良品』として分類している。

 なお、完全な不良品は2倍まで強化した時点で砕け散った。

 いまのところ砕け散った指輪はふたつのみで、一般品が6割、良品が1割、半不良品が3割となっている。

 そして、テスト結果で分類し、値段の差をつけて売るらしい。

 そういうところも勉強しなくっちゃ。


 その日のうちにテストは終わり、翌日には分別された指輪を持って商業ギルドを訪れた。

 露店を開くための許可をもらうためだ。

 露店をするにも商業ギルドで許可をもらわなければいけない。

 制度は街によって異なるようだが、この街では場所によって最初の金額が異なり、更に売上の5%を商業ギルドに納めることになるようだ。

 売上の計算には特殊な魔道具を使うので誤魔化しが効かないらしい。

 あくまで伝聞なので保証はないが、誤魔化した場合に商業ギルドから科せられる罰金とペナルティの方が厳しいので誤魔化す人はほぼいないそう。

 私たちも誤魔化さないようにしないと。

 それで、場所はどうするのかな?


「ミラーさん、露店の場所はどこがいいですかね?」


「そうですね。商業ギルドの近くよりも冒険者ギルドの近くがよいでしょう。今回のターゲットは冒険者です。ダンジョン帰りで懐に余裕のある冒険者にこの指輪を買っていってもらいましょう」


「わかりました。期間はどれくらいにしますか?」


「とりあえず一週間で十分かと。足りなければ事前申請で延長出来るようですし、初めから長く取っておく必要はありません」


「なるほど。勉強になります」


「その調子でいろいろなことを学んでいってください。それでは露店の場所を決めに行きましょうか」


 商業ギルドの露店担当窓口は割と閑散としていた。

 担当者から話を聞くと、混み合うのは早朝と夕方らしい。

 早朝は前日空いた場所の中でいい場所を確保しようとする商人が、夕方は翌日から商売を始める商人が空く予定の場所を求めてやってくるそうだ。

 つまり、朝食を食べのんびりやってきた私たちは完全に出遅れているらしい。

 ミラーさんはなにも教えてくれなかったのに!


「それで、空いている場所でしたらご案内出来ますがいかがいたしましょう」


「ではその場所を見せていただけますか?」


「はい。お客様のお望みですと……冒険者ギルドから3ブロック東門側に離れた場所になります。道具屋の建ち並ぶ地域のそばですので今回のような道具を売る場合でしたら便利かと」


「なるほど……その場所を一週間借りる場合、どれくらいの費用が必要になりますか?」


「こちらは30万ブレスになります。出品する物によっては好立地となるため少々お高い場所ですね」


 そうなんだ。

 あれ?

 ミラーさんはこのことを知っていたから黙っていたのかな?

 それとも私に経験を積ませるため?

 よくわかんないや。

 ともかく、この場所を借りることに決めた。

 商業ギルドから営業許可証をもらい馬車へと戻る。

 そこでミラーさんに聞いてみると、やっぱり立地的にあの場所は売れ残りやすいから、あえて朝早く行くことを選ばなかったようだ。


「どの商売でも混み合う時間帯というのは必ず存在いたします。ですが、そこめがけていくだけではうまく商売は成り立ちません。自分の商品の長所短所を見極め、最適な選択をすることが大切です」


「わかりました。それで、露店はどうやって開きましょう?」


「シエル様の持ち物の中に屋台がありましたよね。それを使いましょう」


 ああ、忘れていた。

 ドラゴン様からいただいた物の中に屋台もあったんだ。

 組み立てやすいだけのただの屋台なんだけど、なぜかドラゴン様の宝物の中にあった。

 由来を聞いてもわからないとのこと。

 商人が訪れた時に手に入れたのではないか、とおっしゃっていた。

 よくわからないがそういうものらしい。


 指定された位置に馬車を移動し、屋台を組み立てて商業ギルドの営業許可証を掲げる。

 これで露店の準備は完了だ。

 あとは売り物を並べるだけ。

 売り物と言っても魔力増幅の指輪しかないんだけどね。


「……お、新しい露店か。なにを売っているんだ?」


 露店を出してしばらく経った頃、ようやく初めてのお客様がやってきた。

 身なりからして冒険者だろう。

 年季の入った革の鎧に身を包んでいる。

 かぶっている帽子に三角形の出っ張りがあるから獣人の方かな?


「いらっしゃいませ。当店では魔力増幅の指輪を扱っております」


「魔力増幅の指輪? 魔法の道具マジックアイテムか?」


「いえ、魔道具技師の作品になります」


「ふーん。どれくらい増幅してくれるんだ?」


「そうですね。こちらの一番安い品ですと2倍ほどは耐えてくれます。真ん中の品は23倍ほど、一番高い品は4倍です」


「ほう。ちなみに、誰の基準だ?」


「私が基準です。旅の仲間ではもっとも私が魔力が強かったので」


「ふむ。一番安い指輪を貸してもらえるか?」


「はい、どうぞ。盗もうとしたら……」


「そんなことはしないよ。街内衛兵隊は鼻薬を効かせればすぐに開放してくれるが、それだって安くない。それに冒険者だって信用商売だ、こんなところで悪評なんて立てられたくないさ」


 冒険者のお客様は指輪を受け取るとそれを右手の薬指にはめる。

 そのあと、魔力を増幅していったが指輪からきしむ音はまったく聞こえない。

 どれくらい強化しているんだろう?


「……驚いたな。普段の3倍くらいの力を出してもまったく壊れそうな気配がない。お嬢さん、相当魔力が強いみたいだな」


「そうみたいですね。検品をするとき私以外は試さなかったのでちょっと驚きです」


「なるほどな。だが、これはいいものだな。よし、買うことにしよう。値段はいくらだ?」


「一番安いものから1万5千ブレス、2万5千ブレス、4万ブレスとなります」


 この値段もミラーさんと相談して決めた。

 半不良品については客寄せと思いあまり利益を出さなくてもいいことにする。

 その代わりほかの品で儲けようという考えだ。

 さて、どれを買ってくれるかな?


「むむ……悩むな。俺はそこまで魔力は強くないし、魔法だって身体強化がいくらか使えるくらいだ。だが、この指輪があればいままで以上の大物に挑むことができるかもしれない。問題は壊れたときだが……」


「さすがにその時までは保証いたしかねます」


「わかっているよ。冒険者は自分の命をかける仕事だからな。……決めた、一番高いのをもらう。同じものを魔法の道具マジックアイテムで買おうとすれば10倍は取られるだろう。賭けにはなるが悪くはないだろう」


「ありがとうございます。すぐにつけていきますか?」


「身につけていく方がなくさないさ。代金の4万ブレスだ。数えてくれ」


「では。……確かに4万ブレス受け取りました。こちらの指輪をどうぞ」


「いい買い物をしたよ。これで効果が高かったら仲間にも勧めよう。露店はいつまでやっているんだ?」


「売り切れない限り今日を含めて一週間ですかね」


「わかった。ありがとうな」


 指輪を受け取った冒険者のお客様は雑踏の中へと消えていった。

 一番高い指輪が早速売れてくれるだなんて幸先がいい。

 この調子でほかの指輪も売れるといいんだけど。

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