36. コンロと魔力増幅アクセサリー

 灯りの魔道具を買い付けることに成功した私たち。

 そのあと、ヒラゲンさんの案内でほかにどんな物を作っているのか工房を見て回ることにした。

 ヒラゲンさんの工房はたくさんの物がぎっしりと置かれている。

 置かれている物は様々な形をしていて見ているだけでも飽きない。

 でも、売り物になるような物はあるかな?


「さて、なにかご要望はありますかな?」


 ヒラゲンさんが私たちに聞いてきたけど、なにがあるのかわかっていない状況では私たちも要望を出しにくい。

 ひとまずヒラゲンさんの自信がある物を持ってきてもらうことにした。

 すると、ヒラゲンさんが持って来たのは一抱えほどの大きな台。

 その上にはふたつ丸い穴が開けられていてそれを囲むように台座がつけられている。

 あ、これって。


「コンロですね」


「おや、シエル嬢はもう知っていましたか」


「はい。魔法の道具マジックアイテムの物でしたら見たことがあります。魔道具として作られた物は初めて見ますね」


「左様ですか。いや、驚かせようと思ったのですが。知っているのでしたら機能の説明は省きましょう。このコンロはふたつの鍋を同時に温めることが出来ます。燃料は魔石。それも先ほどの灯りの魔道具と同じように未加工の小魔石を大量に詰め込むことで使うことが出来ます。ほかの魔道具技師でもコンロは作れますが、この大きさでクズ魔石と呼ばれるような魔石を使いコンロとしての機能を持たせることが出来たのは私だけだと自負しております」


 そんなにすごいことなんだ。

 私たちの馬車のコンロは一度火をつければ魔石もなにも消費しないで使えるから気にしなかったけど、魔道具になればなにかを消費しないと使えないよね。

 そう考えるとこのコンロって便利なのかも。

 あとは、耐久性とお値段かな。


「ヒラゲンさん、このコンロってどれくらいの間使えますか?」


「私の家で使っている限りですが1年間は故障していませんな。頑丈な作りにしてあるので定期的な掃除をすれば早々壊れることもないでしょう」


「なるほど。ちなみにお値段はいくらでしょう?」


「ひとつ20万ブレスといったところでしょうか。普通の魔道式コンロが10万ブレスであることを考えれば十分元は取れるかと」


 ひとつ20万ブレス……。

 ちょっと高いな。

 ミラーさんをチラッと見ても首を横に振っているし、この金額では売り物にならないということだろう。

 さて、どうしたものか。


「ヒラゲンさん、ひとつ20万ブレスは高すぎます。どれだけの間壊れずに使えるかもわからないものに20万も出せません。もう少し安くはなりませんか?」


「しかし我が家では1年以上……」


「ヒラゲン様の家とほかの家庭では利用する頻度が異なると思います。また、食堂などが使えば常に使い続けることも考えられます。そこも考慮するとヒラゲン様の家で1年使えたという実績はないに等しいでしょう。せめて魔道具ギルドの性能保証がない限り販売は難しいかと」


「それは……」


 ミラーさんの一言でヒラゲンさんも黙ってしまった。

 私もここに来る前に聞いたんだけど、魔道具ギルドには『性能保証』という物もあるらしい。

 これは一般人が日常使うものの中で故障した場合、命の危険を伴う可能性がある物につけられる保障証だ。

 今回話の種になっているコンロも『性能保証』の対象になっているみたい。

 ヒラゲンさんがここで口ごもるということは『性能保証』は取っていないみたいだね。

 これじゃあ危なくて買付が出来ないか。


「ヒラゲン様、性能保証はないのですね?」


「……はい。性能保証を取るための試験も馬鹿にならない費用がかかりますもので」


「ちなみに、このコンロですとおいくらに?」


「8万ブレスほどでしょうか。性能試験は一カ月程かかります」


「なるほど。では、ヒラゲン様。私どもが性能保証を取るための試験費用を負担いたしましょう。その代わり、このコンロを1台17万ブレスで5台用意してくださいませ」


「それでよろしいのですかな?」


「性能保証があれば各街の魔道具ギルドで故障時の対応をしていただけるようになります。そうすればある程度の値上げは可能でしょう」


「わかりました。お言葉に甘えさせていただきます」


「ではそういうことで。シエル様も問題ありませんね?」


「はい。問題ありません」


 ミラーさんってほんと凄腕だなぁ。

 ぽんぽん話をまとめていくよ。

 ヒラゲンさんもこの申し出に乗ってくれて証文を書いてくれた。

 あとはこの証文を魔道具ギルドに提出すれば、私たちがお金を支払いヒラゲンさんの魔道具を試験してもらえる。

 値引きもしてもらえたし魔道具ギルドの保証があれば私たちも安心して売れる。

 一挙両得だね。


 ほかにもなにか売れそうなものがないか探して回ると、魔力増幅用のアクセサリーがあった。

 これ自体は普通の指輪なんだけど、はめると魔力を増幅することが出来るらしい。

 ただ、これには性能保証がつけられないらしく、買う側も慎重になるようだ。

 でも、そんなアクセサリーを量産しているヒラゲンさんはなにを考えているのだろう?


「いや、実はですな。ここは迷宮都市オデルシスであり、冒険者が多くやってきます。その冒険者相手に一旗揚げようと作り始めたのですが、売る伝手のない私にはどうにもならず」


「魔道具ギルドには持ち込まなかったんですか?」


「いえ、魔道具ギルドはこういった戦闘用の道具を取り扱わないもので……」


 ヒラゲンさんはどうにも向こう見ずというか作った物をどうするか考えずに作る傾向があるらしい。

 さっきのコンロだって性能保証がなければ売れないのに性能保証を取っていなかったり、灯りの魔道具だって性能はいいのに高くて売れなかったりと散々だ。

 もう少し商人としての感覚を養う必要があると思う。

 いや、私もまだ日が浅く経験不足だけどね。


「なるほど。ヒラゲンさん、私たちがこれを買い取っても大丈夫ですか?」


「え? ええ、もちろん。私の手元に置いておいても不良在庫の山を抱えているだけですからな。どれくらいでお買い上げに?」


「1個1万ブレスで。代わりに性能試験はしません」


「1万ブレスですか……少々厳しいですな」


「性能試験をしても構いませんが、その時は売り物になりそうな良品だけを買わせていただきます。いかがでしょう?」


 私のいいたいことはこうだ。

 いまなら不良品があったとしてもまとめて買う。

 不良品があるかどうか確認する場合、買値を高くする代わり性能がいいものだけを買っていく。

 どちらに利益があるかはヒラゲンさんの考え方次第だけどどうだろう?


「わかりました。1個1万ブレスでお譲りしましょう。ですが、全部で100個近くあります。それらをすべて引き取っていただいても大丈夫なのですかな?」


「問題ありません。構いませんよね、ミラーさん」


「まあ、構わないでしょう。資金的には十分な蓄えがあります」


 私たちの蓄えにヒラゲンさんは驚いていたようだけど、私はドラゴン様の鱗を売ったから余裕があるんだよね。

 そういえば、残りの鱗はいつ売るんだろう?

 まあ、気にしなくてもいいか。


 ヒラゲンさんに代金を支払ったら今日はヒラゲンさんと共に魔道具ギルドに行ったあと引き上げだ。

 売り物が増えたから整理しないといけないし、この指輪はオデルシスで売った方が高くなりそうだからね。

 いろいろとやることはある。

 性能保証がでるまで一カ月はかかるという話だし、それまでこの街周辺を拠点に活動しよう。

 ほかに仕入れられるものはないかな?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る