21. 豆柴たちのテイムモンスター登録

 カルメンさんに連れられてやってきたのは、屋根まで付いた大きな広場。

 ここでテイムモンスターの実力を測りテイマーギルドに登録するという。

 豆柴様たちはどれくらい強いのだろう?

 ダルクウィン邸でも遊んでいる姿しか見ていなかったので私にもわからない。


 まずは棒に藁を巻いたものに向かって攻撃し、その能力を測ることになった。

 最初はリーダーのコロから。

 でも、豆柴様たちに攻撃力なんてあるんだろうか?


「ワフッ、ワフッ!」


「攻撃力は……期待できそうにないわねえ」


「そうですね……」


 コロは一生懸命棒に噛み付いたり引っかいたりしているのだが、棒はほぼ無傷。

 やっぱり、あれほど身体の小さい豆柴様では攻撃力は期待できそうにないかも。

 ちなみに、残りの子たちも同じ結果だった。


 次は持久力の測定。

 この広場の外周を走りどれくらい走れるのか、またどれくらいの速度が出るのかを調べる。

 今回は全員同時に測るわけだけどちょっと意外な結果になった。


「全然止まりませんね、あの子達」


「速さも十分ですし、もういいでしょう」


 この広場の外周を10周くらいしたところで測定は終了させた。

 どの子もまったく速さが落ちることなく、一団となって走り続ける以上、まだまだ余裕がありそう。

 戻って来たときも私にじゃれついてきたし、持久力は期待できる。


 次、瞬発力の測定。

 今度は決められた距離をどれだけ速く動けるかだ。

 でも、このテストもあまり意味がなかった。


「どの子も一緒ですね」


「さすがは伝説の種族ということかしらね」


 走ることは得意みたい。

 でも、攻撃は苦手と。

 思ったより得意不得意がはっきりしてる。

 これだけ可愛いのだから、攻撃力は期待していなかったけどね。


 ほかに出来そうなことはないかと聞かれたけど心当たりはない。

 せいぜい、投げた棒が地面に落ちる前にキャッチ出来るくらいだ。

 実演して見せたけどやっぱり遊んでいるようにしか見えないらしい。

 実際、遊んでいるから反論しようがない。


「うーん、豆柴たちの能力はこれくらいかしらね。瞬発力や持久力に優れているけど攻撃力はほぼなし。テイムモンスターとしてみれば初心者向けね」


 カルメンさんはそう結論づけた。

 私も豆柴様たちに求めるものは攻撃力ではないので問題ない。

 でも、ほかになにか特別な能力がないかな。


「とりあえずギルドに戻りましょう。そこでテイムモンスターとして登録するわ」


「ありがとうございます、カルメンさん」


「これも仕事だから気にしないで。では行きましょう」


 私たちはカルメンさんとともにギルドの建物内へと戻る。

 すると、ギルドのホールは騒然としていた。


「なにがあったの!」


「カルメンギルドマスター! 実は狩りに出て怪我をして戻って来たモンスターがいるのですが、興奮してしまい手が出せない状態なんです」


「そのモンスターの主は?」


「彼も傷が酷く気を失っていて……」


「手の施しようがないと。仕方がないわね。そのモンスターを殺処分……」


「ワウワウ!」


 カルメンさんがモンスターの殺処分を決めようとしたところ、豆柴様たちが吠えだした。

 どうしたんだろう?


「なに? どうかしたの?」


「ワウ、ワウワウ!」


「……わからないわ。シエルさんは?」


「いえ、私にも……」


「ワウ!」


「あっ⁉」


 意思が通じない私たちに業を煮やしたのか、豆柴様たちがホールの集団の中に入っていった。

 一体なにをするつもりだろう?


「うわっ⁉ なんだ、この狼! どこから入って来た⁉」


「首輪があるしテイムモンスターだろう。しかし、この状況でなにをする気だ?」


「あっ⁉ 危ないからそっちに行っちゃだめ!」


「……待て、興奮していたモンスターが落ち着いてきているぞ」


「傷も塞がっていっている。なんだ? あの狼の能力か?」


 え?

 豆柴様たちに他者を治療する能力があるの?

 ざわついていた集団が落ち着き、豆柴様たちが戻って来た時には豆柴様たちは注目の的となっていた。


「あなた方、怪我をしていたモンスターはどうなったの?」


「あ、ああ。その狼が近付いてぼんやり光りだすと急に落ち着き始めたんだ。その後、傷も塞がり始めて……」


「そう、わかったわ。それで、モンスターはどうしているの?」


「いまは気持ちよさそうに眠っている。あれなら大丈夫だろうな」


「ではギルド職員の指示に従ってそのモンスターを見張ってちょうだい。いいわね?」


「そのくらいなら。ところであんた誰だ?」


「私? テイマーギルドのギルドマスターよ。それではお願いね」


「は、はい!」


 あの人、カルメンさんがギルドマスターだって気が付かないで話をしていたんだ。

 ともかく、私たちはカルメンさんに連れられてギルドの医務室へやってきた。

 そこで怪我をして眠っている男性の治療を頼まれる。

 どうやら豆柴様たちの能力がモンスターだけではなく人にも効果があるか試すらしい。

 ちょっと人体実験みたいだけど、うまく治療出来ればあの人のためにもなるから引き受けよう。


「みんな、お願いできる?」


「ワフッ!」


 豆柴様たちは男の人が寝かされているベッドに飛び上がると淡い光を放ち始めた。

 それが男の人にも移って行き、少しずつ傷が塞がっていく。

 目に見える傷がすべて塞がると豆柴様たちも私の元へ戻って来た。

 同時に、倒れていた男の人も目を覚ましたみたい。

 カルメンさんは男の人に事情を説明し、モンスターを迎えに行くよう指示をした。

 男の人は私にお礼を言ってから医務室を去っていく。

 うん、豆柴様たちの能力は人にも効くんだ。


「驚いたわ、治療能力があるだなんて」


「珍しいのですか?」


「私が聞いている範囲では幻獣様しか知らないわ」


 なるほど、それは希少だ。

 ともかく、豆柴様たちの能力もわかりテイムモンスター登録も無事に完了した。

 これで豆柴様たちを連れて堂々と歩けるね。

 これからもよろしくお願いします、豆柴様。

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