22. 今日の宿
テイマーギルドの用事も済ませた私たち。
次に探すことになったのは今日の宿だ。
まだお昼を過ぎて少し経ったばかりなのに探し始めるのはどうかと思うけど、いい宿はすぐに埋まってしまうから早い方がいいらしい。
ミラーさんの勧めもありこの時間から探すことになった。
「宿ですか。私がエルフ族国家にいた頃は鍵だけしっかりかかる部屋に泊まっていました。お金もあまりなかったし、自分でアパートを借りることもできなかったので」
「私たちはそうも言ってられません。護衛や今後の打ち合わせについてなどを考えると8人全員で泊まれる部屋が最良です。幸い、金銭的な余裕はありますし」
「8人ですか? そんな大部屋ありますかね?」
「ありますよ。私たちのような商人向けの宿には護衛や使用人も一緒に泊まれる部屋があります。そこを狙っていきましょう」
ミラーさんがそう言うならひとまずそれを信じてみよう。
私たちが向かったのは商人向けの宿の中でも高級宿が並ぶ一角である。
ミラーさんによればそういう部屋があるのは高級宿の方が多いそうだ。
また、お金に余裕があるなら高級宿の方がよいとも言われた。
理由は簡単で治安がいいからだ。
高級宿に泊まったり出入りできたりする商人は決まってお金に余裕がある商人である。
そういった商人は自分たちの名誉を傷つけるような真似をしたがらない。
当然、護衛や使用人にもそこを厳しく指導しているはずなので、私たちのような女性ばかりの商隊でも大丈夫だろうということだ。
ミラーさんとしては安全をお金で買えるならそうするべきと考えているようだね。
私も同じ考えだからミラーさんの言う通りにしようと思う。
「……ふむ、ここがよさそうですね」
「この宿ですか? 理由は?」
「この時間から正面が丁寧に掃除されています。見栄えだけを気にするのでしたら人が多く来る時間の少し前に整えてしまえばいいものをいまから整えておく、その心構えが大事です」
「なるほど。それではここの宿に泊まれるか聞いてみましょう」
「そうですね。プリメーラ、空き室状況を聞いてきてください」
「はい。かしこまりました」
ミラーさんの指示を受け、プリメーラが宿の中へと入って行く。
少しして出てきたとき、プリメーラはちょっと困った顔をしていた。
部屋が空いてなかったのかな?
「ただいま戻りました」
「お帰りなさい、プリメーラ。部屋は空いてましたか?」
「それが、4人部屋ふたつなら大丈夫だそうです。8人部屋となると予約客で埋まっているみたいで」
「ふむ。少々格式が高い宿を選んでしまいましたか」
「どうしましょう、ミラーさん」
「4人部屋ふたつを利用しましょう。ほかの宿で同じ部屋が空いているかわかりません。あと、馬は預かってもらいますが、馬車は預かってもらわなくともよいと伝えておいてください」
「馬車を預けない……ああ、私のバッグにしまうんですね?」
「これだけ豪華で大型の馬車です。間違えて乗っていかれることはないでしょうが、奪おうとしたり買い取ろうとしたりする者は現れるでしょう。念のためですよ」
うーん、そんな人まで現れるのか。
この先の旅が大変そう。
じゃあ、ヴィンケルはどうなのかと聞いてみたんだけど、最初預けたあとは幻術で隠れてもらっていればいいんじゃないかと提案された。
ヴィンケルに確認してもそれでいいと言うのでそうしよう。
プリメーラにはミラーさんと一緒にもう一度宿に行ってもらい部屋を押さえてもらった。
これでこの街にいる間の宿は大丈夫なようだ。
3日後にはこの街を出発する予定なので宿の心配はもうしなくてもいい。
となると、あとは売り歩く商品探しなんだけど、こちらはやっぱりいいものが見つからない。
有名な物はもっと立派な商会が押さえている。
私のような新規で立ち上げた商会に割って入る隙はなかった。
宿を押さえたあとも商品探しを行い、いい時間になったので宿へと戻ることにした。
宿屋街は客引きと今日の宿を探す馬車でごった返している。
宿屋街に入りかなり経ってからようやく私たちが取った宿へとたどり着いた。
「お客さん、その立派な馬車は本当に預からなくていいのかい?」
「はい。別の場所にしまえますので」
「そうか。それなら構わないが。ほれ、お客さんの馬の識別標だ。なくすんじゃないぞ」
ヴィンケルの首に木札の付いたネックレスをかけ、馬屋の係員から対応する識別標をもらった。
これでどの馬が誰の物かを判別しているらしい。
ヴィンケルには少し窮屈な思いをさせるかもしれないけれど、馬屋で休んでいてもらおう。
私たちの泊まる宿『栄光の羽根飾り』は、ダルクウィンの中でもかなり古くからある高級宿らしい。
ただ古く高いというだけではなく、サービスの面でも高い評価を得ているのだとか。
受付から客室までの案内もスムーズだったしね。
細かいところで気配りがなされているようだ。
あとテイムモンスターも小型であれば客室に入れてもいいというのはポイントが高い。
さすがに食堂までは連れ込めないけど食事は別に用意してくれるようだ。
私たちは二手に分かれて休むことになる。
私の部屋にはミラーさんと護衛ふたりが一緒だ。
護衛のふたりは早速部屋の中になにか仕掛けがないかチェックを始め、次に侵入されそうな通路なども調べ始めた。
こっちも気配りに余念がないなぁ。
私たちは交代でシャワーを浴び、着替えたら一階の食堂で食事を取ることになっている。
シャワーという物もダルクウィンに来てから初めて知ったけどいいものだ。
魔力を少し注ぐだけで温かいお湯が流れてくるんだもの、本当にありがたい。
天翼族はその翼をきれいにする習慣があるから水浴びなどが長くなってしまうのだ。
シャワーなら一気に翼をきれいにできるから助かる。
さて、さっぱりしたら美味しい夕食を食べなくちゃね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます