第四章 迷宮都市オデルシス

25. 迷宮都市オデルシスに到着

 ダルクウィンを出発した私たちはわずか2週間で迷宮都市オデルシスに到着した。

 1週間が6日なので12日で到着した計算だ。

 普通の馬車だと1カ月ほどかかる計算なので非常に早い。

 途中でもたくさんの馬車を追い越してきたからね。

 それでいてヴィンケルは疲れた様子を見せないし、どれほどの体力があるんだろう?


「次、こっちだ」


 私たちはオデルシスに入るための入街検査を受けている。

 大まかなものは大昔の偉人が作った装置でわかるそうだけど、どんな人が入り込むかまでは調べられない。

 なので、人が人を調べるのである。


「お嬢ちゃんたち、全部で8人か。つながりは?」


「はい。私たち全員でひとつの商会を運営しております。私が会頭のシエルと申します」


「なるほど。会頭と副会頭、使用人に護衛か。持ち込み品は?」


「私たちの装備を除けば魚の塩漬けとイチゴですね」


「魚の塩漬けとイチゴ? ダルクウィンから持って来たのか?」


「はい。それがなにか?」


「いや、さすがに傷んでいるだろ」


「大丈夫ですよ。お目にかけますか?」


「ああ。頼む」


 私たちは護衛のみんなにお願いして魚の塩漬けとイチゴを一箱ずつ降ろしてもらった。

 蓋を開けると微かにただよってきた冷気に驚いた顔をする。


「冷蔵機能付きの魔道馬車だったのか?」


「まあ、そんなところです。商品を早く馬車に戻したいので手早く検品をお願いいたします」


「ああ、すまない。……って、これはなんだ!? 塩漬けもイチゴも作られたばかりのような新鮮さだぞ!」


「当商会の秘密でございます。しまってもよろしいですか?」


「よし、構わないぞ。それで、商品明細はあるのか?」


「ギルドからの保証書でしたら。それ以外は購入しておりません」


「わかった。それをあちらの窓口に見せてくれ。そこで持ち込み税を計算して支払うことになるからよ」


「ご親切にありがとうございます。それでは」


「ああ、ちょっと待ってくれ」


 窓口の方に向かおうとしたら衛兵さんに呼び止められてしまった。

 ほかになにかあるんだろうか?


「はい、なんでしょう?」


「もしよければ、このあと衛兵隊の宿舎に行って魚の塩漬けだけでもいくらか売ってほしい。俺たちも海の魚なんて滅多に食べられないごちそうなんだ」


 どうしようか?

 悪い話ではない気がするけど。


「ミラーさん、どうしましょうか?」


「一応行っておきましょう。価格面で折り合いがつかなければそれまでです」


「手厳しいですね」


「商人ですから」


 ミラーさんの言葉に私は苦笑いしてしまう。

 そうだ、私もいまは商人だったんだ。

 いつまでも配達人の気分ではいられない。


「とのことです。価格の折り合いがついたら売ることにしますね」


「価格か、衛兵長は渋りそうだな……。まあ、期待しないで待ってるよ」


 気のいい衛兵さんとも別れて私たちは街壁内への商品持ち込みに関する税金を支払うための窓口へ。

 ここでも私たちの持ち込んだ商品がすべて腐っているのではないかと疑われたけど、実物を見せることで納得してもらえた。

 税金はそこそこな金額になったけど、仕方がないことらしい。


 ミラーさんによるとこの街で干物になっていない魚や新鮮な果物は総じて高級品みたい。

 そのため持ち込み税も高くなったんだとか。

 私が売るときもこの税金分を加味した金額で売らなくちゃいけないし、輸送費も考えて売らなくちゃいけないから結構しんどそう。

 売値に関してはミラーさんもあまりアドバイスをくれるつもりはないみたい。

 仕入れ値と税金、商会の人件費、運送費などを計算に入れ、その上に利益を乗せるように言われた。

 あえてヒントを出すなら「通常では手に入らない珍品は高価でも取引が成り立つ」ということらしいけど、私にはさっぱりだ。

 初めてだし手探りでやるしかないね。


 さて、日もまだ高いしさっき衛兵さんに言われた宿舎を目指してみよう。

 うまく取引が成立するといいな。

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