19. 青果物ギルドでは
私たちはダルクウィン旧市街にある青果物ギルドへとやってきた。
ギルドの扉を開けて中に入ってみたけど、職員以外あまり人がいない。
どういうことだろう?
「いらっしゃいませ、青果物ギルドへ。本日はどのようなご用件でしょう?」
「あ、はい。果物を仕入れたくて来ました」
私が正直に来訪目的を告げると、職員さんはひとつ溜息をついてから話を続ける。
「あの、ここがどこだかわかっていますか?」
「はい。青果物ギルドですよね?」
「青果物ギルドです。青果物ギルドの取引は日が昇る頃に始まり、夜が明けきる頃にはほぼ終わります。こんなお昼近い時間に来られても商品なんて残っていません!」
あ、そっか。
私の話し方だと青果物ギルドで商品を買いにきたように聞こえるんだ。
ちゃんと話をしないと。
「いえ、私は商会の者です。青果物ギルドへは各地で売り歩くための商品を探しに来ました」
私がちゃんと名乗ったら、青果物ギルドの職員さんは更に呆れたような顔をしてきた。
私、なにか変なことを言ったかな?
「あの、青果物ギルドは生野菜や果物を扱うギルドです! 塩漬けや酢漬け、ドライフルーツがほしければ商業ギルドに……」
「なんだ、騒々しい」
「あ、ギルドマスター!」
職員さんに叱られていると奥から恰幅のいい女性がやってきた。
この人がこのギルドのギルドマスターか。
「それで、一体なにがあったんだ」
「あのですね、あの方々が商品を買っていきたいと」
「うちの商品は明け方から売り始めるものだぞ?」
「ああ、いえ、そうではなく、商会として各地で売り歩く物を探しているそうなのです。それでうちのギルドにやってきたみたいなんですが……」
「ふむ、なるほど。見れば若いお嬢さんのようだ。どれ、私が対応しよう」
「申し訳ありません、ギルドマスター」
「なに、気にするな。老人の楽しみのひとつでもある」
あちらの話はあまりよく聞こえなかったけど、ギルドマスターと呼ばれていた人がこっちに来るからあの人が続きを聞いてくれるのかも。
うまく話せればいいんだけど。
「ようこそ、お嬢さん。私が青果物ギルドのギルドマスター、コニャックだ」
「初めまして。青空運送商会会頭、シエルと申します」
「ようこそ、シエルさん。それで、君は青果物ギルドの商品を各地で売り歩きたいそうだが」
「はい! この地方でしか採れない果物があると聞きまして!」
「……ああ、イチゴか。イチゴは硬い物にぶつかるとすぐだめになるし、温度管理も必要だ。すまないが、そう簡単に取り扱える代物ではなくてね」
「大丈夫です! 私の馬車は……」
「シエル様、あまり大声で話すものではございません」
「あ、はい……」
ミラーさんにたしなめられてしまった。
そうだよね、魔法の馬車を使っていることなんてあまり他の人に知られるわけにはいかないものね。
「ふむ、馬車に秘密がおありのようだ。どれ、私が馬車を見にいこう」
「いいんですか?」
「まあ、ちょっとした運動のようなものだ。案内してくれるか?」
「はい!」
私はコニャックさんを連れて馬車へと戻る。
案内したのは馬車の中ではなく荷台の方だ。
コニャックさんは荷台に上がると驚いた顔をしていた。
「これは……空間拡張!? それだけではない、時間停止も付いているのか!?」
「はい。私もそう聞いています」
「このようなすごい馬車、どこで!?」
「ええと、縁あって幻獣様からいただきました」
「幻獣様から……なるほど、そういうわけか」
「はい。それで、青果物の仕入れなんですが」
私が本題を切り出すとコニャックさんは顎に指を添えて考え始めた。
まだ何か不安なことがあるのかな?
「遠くに問題なく運ぶ技術があるのはわかった。だが、念のため商品が傷まないことを確認させてもらいたい」
「はい。どうすればいいでしょう」
「お嬢さんも知っているイチゴだ。これは本当にきちんとした時間停止であるならばイチゴも傷まないはず。そこで、本当にイチゴが傷まないかどうか確認させてもらいたい」
「わかりました。でも、どうやって?」
「売れ残りのイチゴが少量ある。それをこの馬車の荷台に積んで置いてもらおうか。それを……そうだな、明日の昼くらいに届けてほしい。そこで鮮度が落ちていなければ合格だ。まだできたばかりで市場にほとんど流れていない期待の新品種を取り扱わせよう」
「本当ですか! ありがとうございます!」
「もちろんだ。すべては結果次第だがな」
コニャックさんたち青果物ギルドの倉庫から売れ残りのイチゴを馬車に積ませてもらいこれで準備は完了だ。
この時点での鮮度確認は終え、それについての証文もミラーさんとコニャックさんの間でかわしている。
コニャックさんには「まだまだ詰めが甘いな」と言われたけど、勉強が足りないね。
ミラーさんにはそういったところも学ばなくちゃ。
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