18. 街中で商品探し

 漁師ギルドで魚の塩漬けの買い取りに成功した私たちは港を離れ市街地の方へと向かう。

 その途中でもミラーさんからいろいろレクチャーを受けることを忘れない。

 私はまだまだかけだし商人なんだ、知識は貪欲に溜め込まなくちゃ。


「……以上がこの街の特産品です。ですが、魚の塩漬け以外の特産品に手を出すのはやめておいた方がよろしいでしょう」


「そうなんですか?」


「はい。例えば海外から輸入される品々。これらは基本的に売り先が決まっている物しか運ばれてきません。新しい販路開拓のための新商品を持ってくることもありますが、そういった物は新設したばかりの私たちなど目向きもされないでしょう」


 なるほど、珍しいものを仕入れても売れる保証がないわけだし、大手の商会と取引できるような運送業者が私たちのような新人に手を出す理由はないか。

 これも地道に実績を積み重ねる必要があるね。


「塩も特産品ですが、先ほども話した通り専売制です。ここに割り込むには相応の実績がなければなりません」


「わかりました。ほかには?」


「やはり宝石などでしょうか。これも物の良し悪しがわかるようになるまでは手を出すのは避けるべきでしょう。原石をこの馬車の中に飾る程度は問題ありませんが、ダルクウィンに運ばれてくる原石はほぼすべてを宝飾師たちが宝石へと仕上げています。ほどよい原石というのを探したければ自由市に行くのがよいでしょうね」


 なるほど、宝石も物の良し悪しで値段が変わるのか。

 宝石商人は宝石を持ち歩くだけでも専用の箱を用いているようだし、最初は敷居が高いかな。

 そうなってくると、やっぱり目玉は魚の塩漬け一本になる。

 もう少し売り物がほしいなぁ。


「そういえば、シエル様。この魔法の馬車に積み込んだ荷はどうなるのですか?」


「え? どうなるとは?」


「失礼。マジックバッグには中に入れた物の時間経過を止める機能がある物もあります。シエル様のお母様の遺品はその機能の付いていないマジックバッグですが、この馬車の貨物室はどうなっているのでしょう?」


「……そういえば知りませんね。中が魔道具の冷蔵庫並みに冷えているのは知っていますが」


「ふむ。知っていそうな方は?」


「持ち主であったドラゴン様と……ヴィンケルが知っているかも」


「では、ヴィンケル様に伺ってみましょう」


 私たちは馭者席につながる扉を開け、馬のフリをして馬車を引いているヴィンケルに尋ねてみた。

 返ってきた答えは「持ち主が意図的に時間経過を望まない限り時間停止」だそう。

 つまり、非常に広い空間というだけじゃなくて食べ物が腐らない空間でもあるってことだよね。

 私の馬車、便利すぎる。


「時間経過がありませんか。それでしたらいいものがあります」


「いいもの?」


「新鮮な野菜や果物です。これらは都市近郊でのみ生産され消費されます。街の外に持ち出される場合、保存を考えてこれも塩漬けや酢漬けにされます。新鮮な野菜や果物が手に入るということは、それだけ価値があるということなんです」


「そうだったんですね。でも、都市の近郊では生産されているのでしたらわざわざ運んでいっても価値がないのでは?」


「場合によります。例えば、どの街でも生産しているようなありふれた物ですと価値が上がりません。逆にその街でのみ栽培されている野菜や果物は価値があるんです」


「なるほど。ためになります」


「それも考えていまの時期のダルクウィンの特産品となると……イチゴですね」


「イチゴ?」


 イチゴってなんだろう?

 首をかしげているとミラーさんが追加で説明してくれた。


「赤い親指の先ほどの大きさでつぶつぶが付いた果実です。シエル様もダルクウィン公爵邸では時々お召し上がりになっていたかと」


「ああ、あれですか。甘酸っぱくて美味しいですよね」


「はい。あれはダルクウィン公爵領の特産品でもあります。しかし、摘んでしまうと日持ちしないためダルクウィン公爵領の外では滅多に食べられません。新鮮なイチゴを運ぶことができれば商売として有利ですし、名も知れ渡るでしょう」


「いいですね、イチゴ! でも、どうすれば手に入るんでしょう?」


「青果物ギルドに行けば大丈夫です。あのギルドが農家から直接野菜や果物を買い取って市場へと販売しています」


 ギルドが一度買い取って市場に販売?

 それって二度手間じゃないの?

 そう思ってミラーさんに聞いてみたんだけど、青果物ギルドの性質はただ野菜や果物を一度買い取って市場のお店で売っているだけではないらしい。


 普通、お店まで野菜や果物を持っていくとなると結構なコストがかかる。

 例えば荷馬車を用意しなくちゃいけないし、荷馬車がなくてもなんらかの方法で野菜や果物を運ばなくちゃいけない。

 青果物ギルドはそれらを一括して引き受け、農家の畑から青果物ギルドの倉庫まで運んでいるそうだ。

 そして、市場のお店が野菜や果物を買い取ったときも量が多ければ同様に荷運びをしてくれるらしい。

 そのほかにも農家一軒一軒では買いにくい肥料などを大量に買い付け、小分けにして売ったりもしているとのこと。

 農家は手取りが減るけど運ぶ手間が減るし肥料も小分けに売ってもらえる。

 市場のお店は契約農家が育てているもの以外の野菜や果物も買える。

 青果物ギルドってその間に入って手数料を得て運営しているらしい。

 よくできた仕組みだ。


「このように青果物ギルドは生産者と消費者の間に入り調整をしているギルドです。青果物専門の商業ギルドのような物ですね」


「なるほど。本当にためになります。私はそういったことを学んできませんでしたから」


「わからないことは、すべてミラーにお聞きください。可能な限りお答えいたしましょう。では、これから向かう先は青果物ギルドで構いませんね?」


「はい! お願いします!」


 ミラーさんは馭者をやっているカルラさんに指示を出し、青果物ギルドへ馬車を向かわせた。

 青果物ギルドではどんな商品が手に入るのかな?

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