15. 最初は魚の塩漬けから

 こうして私の商会『青空運送商会』は立ち上がった。

 業務は運送業と決めている。

 運搬物は魔法の馬車があるのでかなり大量の荷物を積むことも出来る。

 さて、最初はなにから手を付けようか。


「商会設立おめでとう。預かり金制度について説明はいるかな?」


「はい。お願いします」


「わかった。ダリオ、説明を」


「はい。預かり金制度というのは……」


 預かり金制度とは商会の『信用』を保つための制度らしい。

 前もって預かり金を預けておくことで商品になんらかの問題があった場合でもそこから補填される。

 従業員の給料などもなにかあった場合には預かり金から支払われることになるため、商会の規模に応じて預かり金も多く納めておく必要があるようだ。

 ちなみに私の青空運送商会の場合、商会の人数から計算して最低20万ブレスが必要だと言われた。

 ブレスというのは様々な国家間で共通して用いられる通貨のことで、一般的に安心して寝泊まりできる宿の一泊二食が100ブレス程度である。

 街によって物価の違いから上下はあるが、天翼族国家では大体これくらいの価値だと教えられた。


 このブレスだが私は現在1500ブレス程度しか持っていない。

 軽い荷物しか運ばない運搬人の仕事はあまり高額な給料も支払われなかったため、手持ちの現金は少ないのだ。

 なので、ここはドラゴン様からいただいた宝物を換金させていただくことにした。

 その宝物は……。


「……これ、ドラゴンの鱗ですよね?」


「はい。幻獣ドラゴン様の鱗です。生え替わっていらなくなった鱗を多数もらってきました。これで足りなければ爪や牙も用意できます」


「いえ、鱗1枚で結構です。これを換金すれば、おそらく1000万ブレスにはなるかと」


 1000万ブレス!?

 私のバッグの中にはドラゴン様の鱗が何百枚もあるんだけど……。

 このことを話したら、とりあえず10枚だけ市場に流してほしいと言われた。

 そのくらいでよければいくらでも出す。


「ひとまず1枚だけは即金で1000万ブレスとして買い取らせていただきます。残りの9枚は王都に送りオークションにかけましょう。そこで得られた金額を一時的に預かり金として商業ギルドでお預かりします。必要なときにいつでもお引き出しください」


 商業ギルドにはギルド員となった者の身分証を元にしてどこでも好きなときにお金を預けたり受け取ったりできるシステムがあるそうだ。

 大昔の偉人が開発したシステムらしいけど、本当に便利なものがあるね。

 ともかく、元手として1000万ブレスを手に入れた。

 そのうち100万ブレスを預かり金としてギルドに納めておく。

 残りは私の青空運送商会で自由に使えるわけだけど、最初はなにから始めよう。


 私たちはサージさんとダリオさんに別れを告げギルドを出た。

 馬車に戻ってミラーさんと具体的になにを取り扱うか相談する。

 結論としてはまだ信用が低い以上、あまり重要な物の取引はできないということがわかった。


「信用が低いと取り扱えない物の筆頭は塩です。塩は国の戦略物資ともなっているため、認められた商会が認められた量しか売買できません。また、どこでどれだけどれくらいの金額で売ったかを細かく帳簿に付ける必要があります。私たちは商会を立ち上げたばかりですので当然塩の取引には参加できませんね」


「そうなんですね、ミラーさん。私の元いた街でも塩はとても高価な物でしたが」


「塩というのは例外を除きほとんどのヒト族が必要とする食物ですからね。とても重要な交易品です」


 私、単純に高いな程度にしか思っていなかった。

 塩ってそんなに重要だったんだ。


 同じように取り扱わない方がいいだろうと言われたのは香辛料である。

 こちらは物の良し悪しが激しく、上物の取引は既存の商会で占有されているだろうとのことだ。

 市場で買えるような香辛料の中にも良品があることはあるが、交易品として取り扱えるほどの量は手に入らないらしい。

 つまり、これも没だ。


 こうして考えるとどれがいいのかさっぱりだ。

 ただ与えられた物を運ぶだけの配達人と比べてずっと頭を使う。

 ちょっと甘く見ていたかも。

 本当になにを取り扱おうか?


「そうですね。なにを取り扱うかを先に決めるより、どこに行きたいかを先に決めるといいかもしれません」


「行き先を先に、ですか?」


「はい。先ほどの塩を例に挙げますと、海沿いの地方では塩はあまり高く売れません。海沿いの地方は海の魚を食べることで塩分も取れますからね。逆に山側へと向かっていくと塩を高く売れるようになります。山間部では岩塩などからしか塩は取れず、運送費用などを加味した販売が可能になりますからね」


「うーん。行き先か……」


 ここ、ダルクウィンの街は海に面した街だ。

 だけど、私はエルフ族国家しか知らない。

 まずは天翼族国家内の見分を広められるようなルートで行商をしよう。

 それをミラーさんに伝えると少し考えた上でひとつの提案をしてくれた。


「それではダルクウィンを出発して平野部を抜け山岳地帯の領地に向かうルートを取りましょう。帰りは来た道を戻らず王都方面を経由してダルクウィンの街へ戻ってきます。いかがでしょうか?」


 うん、いいね、すごくいい!

 それに決めた!


「このルートで行くのでしたら保存食品、それも海の魚を運ぶのがいいと考えます。魚は足が早い食べ物ですが、塩漬けにすることにより種類によっては数カ月保存出来ます。同じ考えを持って行動する行商人は多いでしょうが、輸送時の保存方法や一度に運べる量を考えても優位性があります。いかがでしょうか?」


「いいですね。最初は魚の塩漬けを売り歩くことにしましょう!」


 行き先と売り物は決まった。

 あとは仕入れだけどそこは商人の腕の見せ所らしい。

 商業ギルドに手数料を支払って仲介してもらうことも出来るそうだが、最初は自分の足で探してみようと思う。

 いい取引先が見つかるかな?

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