14. 青空運送商会の立ち上げ
二階へと案内された私たちは一番奥にある応接間に通された。
ここって一番いい応接間だよね?
大丈夫なのかな?
「しばらくお待ちください。いま、当ギルドのギルドマスターとサブマスターを呼んで参ります」
「は、はい」
スーツを着た男性は丁寧にお辞儀をすると部屋を出ていった。
私たちは入れ替わりに入ってきた給仕さんからお茶とお茶菓子をいただき、ギルドマスターとサブマスターが来るのを待つ。
だけど、たかが一個人の商人登録でギルドマスターやサブマスターが出てくるようなことってあるのだろうか?
絶対、ラルク商会のことがばれているよね。
この先が不安だ。
少し待っていると部屋の扉がノックされてふたりの男性が入ってきた。
ふたりとも深い紺色のスーツに身を包んだ天翼族だ。
「ようこそ、シエルさん。私が当ギルドのギルドマスター、サージだ」
「同じくサブマスターのダリオです。よろしくお願いいたします」
「シエルです! よろしくお願いいたします!」
「ははは、そう緊張せずに。まあ、座って」
「は、はい」
サージさんの勧めに従いソファーへと腰掛け、対面にサージさんとダリオさんが座った。
どうしよう、すごく緊張する!
「さて、シエルさんはラルク商会のお孫さんということだが、間違いはないね」
「はい! 間違いありません!」
どうしよう。
確かに私はダルクウィン公爵様の孫だけどこうして堂々と名乗っていいのだろうか?
「そんなに硬くならなくてもいいよ。ここにいる者は『ラルク商会』の意味を知っている者ばかりだから」
「あの、それじゃあ」
「実を言うと『ラルク商会の会頭』からお願いされていたんだ。『孫娘を頼む』ってね」
「そ、そうだったんですか」
「そういうわけだから緊張しなくてもいい。身分証も偽造でないことは受付係が確認しているし、なによりミラーが隣にいることが君の身元をしっかり保証している。私たちが直接来ているのは『ラルク商会』のことをあまり公にしないためだよ」
あ、そうだったんだ。
詳しく話を聞いてみると、商業ギルドの職員であれば『ラルク商会』の名前は誰もが知っているらしい。
ただし、知っているのは名前と関係者が来た場合に上長に連絡することだけらしいのだ。
本当の意味で『ラルク商会』の正体を知っているのは、ギルドマスターとそれに近しい者たちのみのようだ。
そのため、私のこともギルドマスターとサブマスターが直接対応してくださるみたい。
……思っていたより大事だ。
ラルク商会についての話が終わったあと、私は自分の商会を立ち上げるための書類を渡された。
書かれている文字は種族共通語だ。
書くのも種族共通語でいいのかな?
大事な書類だし確認しておこう。
「ええと、書類は種族共通語でいいんですか?」
「構わないよ。種族共通語以外になにができるのかね?」
「ええと、エルフ語と天翼語が使えます。天翼語は母から、エルフ語は育った国で使われていたので読み書きができるようになりました」
「わかった。ただ、基本的に商業ギルドでのやりとりは種族共通語で行ってほしい。一部単一種族語しか話せない者には専門の窓口があるが、商人としてこの先やっていこうとするなら基本は種族共通語だ。単一種族言語では取引に齟齬が出かねない」
「わかりました。気を付けます」
「よろしい。書類の書き方はわかるかね?」
「ええと、大体は」
「……聞いていた歳でそれを理解できるのはすごいことなんだが。よほど、あの方の教育がよかったのか」
「そうですね。こういう書類の読み方や書き方は父と母に習いましたから」
本当に幼い頃からいろいろなことを学ばせてもらったなぁ。
あの頃は難しいことばかりだったけど、いまはそれが役に立っている。
本当にお父さんとお母さんには感謝しかない。
さて、書類の記入を続けなくちゃ。
商人登録の書類は書き終わったから、次は商会登録の書類だね。
ええと、商会主と会頭は私で……。
「サージさん、副会頭って必ず書くべきなんですか?」
「なるべくならあった方が望ましい。会頭がいないときや別の商会とのもめごとなど、副会頭の肩書きがあるのとないのとでは発言力が違うからね」
なるほど、発言力か。
それならいてもらった方がいいよね。
「ミラーさん、副会頭をお願いできますか?」
「謹んでお受けいたします。サポートはお任せください」
よし、副会頭は決まった。
あとは商会のメンバーだけど、ミラーさんからの勧めで私に付いてきているメイドと護衛のみんなの名前を書くことになった。
これもただの使用人と商会のメンバーとでは発言権などが変わるそうだ。
他のみんなにもいろいろ手伝ってもらう予定だからあった方がいいだろう。
あとは商会名だけど……。
「よし! 商会名はこれにします!」
商会名『青空運送商会』。
これが私の商会の名前だ。
ここから私の商人人生は始まる。
さあ、頑張っていこう!
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