13. ダルクウィンの商業ギルド

 しばらく街並みを見物しながら進んでいくと、4階建てのレンガ造りの立派な建物の前で止まった。

 掲げている看板は硬貨の乗った天秤。

 ここが商業ギルドかな?


「シエル様、商業ギルドに着きました」


「ありがとうございます、アーリーさん」


「いえ。それから、私のことはアーリーと呼び捨てに」


「でも、年上ですから……」


「シエル様は私の主人であり私の雇い主です。これから商会を立ち上げるにあたり、雇用者をあまり丁寧に呼んでいては低く見られることもあります」


「そうなんですか?」


「はい。なので、せめて護衛とメイドたちは呼び捨てにしてください。敬語も不要です」


「ええと、わかりました、アーリー。……これでいいのでしょうか?」


「はい。それで大丈夫です。私とエマ、ドローレスは馬車に残り警護をいたします。シエル様は残りの者たちと商業ギルドの中へ」


 アーリーたちは馬車を守ってくれるらしい。

 ヴィンケルも馬車に残るそうなので、私たちは馬車から降りて商業ギルドへ向かった。


 商業ギルドに扉を開けるとカランコロンという軽快なベルの音が鳴り響き、中にいた人の視線がこちらに集まった。

 ちょっと怖いかも。


「いらっしゃいませ、ダルクウィン商業ギルドへようこそ。当ギルドは初めてですか?」


「は、はい。というか、商業ギルド自体初めてです」


「そうでしたか。本日はどのようなご用件でしょう?」


「行商人登録を行いたくてきました。どこに行けばいいでしょうか」


「行商人登録ですね。あちらの奥から二番目のカウンターにお並びください」


 私は入り口受付のお姉さんに指示された列に並んだ。

 お上りさんみたいでみっともないが周りを見てみると、天翼族以外にもいろいろな種族の人がいる。

 でも、この列に並んでいるのは天翼族の人だけだし人数も少ない。

 一体ここは何の列なんだろう?


「次の方、どうぞ」


「あ、はい」


 悩んでいるうちに私の番が来てしまった。

 私はカウンター越しに受付係のおじさんと向かい合う。


「ようこそ、お嬢さん。今日の用件はなにかな?」


「初めまして。私、行商人として登録したいんです」


「なるほど。それでこのカウンターに通されたわけか。ここがなんのカウンターか知っているかい?」


 なんのカウンターだろう?

 私が小首をかしげていると、受付のおじさんは軽く溜息をつきこう告げた。


「商人登録のための身元確認受付だよ。新人商人を登録する前に身分確認が必要だからね」


 そのあとおじさんは商人に身分確認が必要な理由を教えてくれた。

 この国では預かり金を納めれば一応誰でも商人になることが出来る。

 ただし、身元のしっかりした人物でない場合、最初は小規模な取引しかさせてもらえないそうだ。

 理由は『信用』がないから。

 商人にとって『信用』とは重要な要素であり、新人商人、とりわけ村から出てきたようなかけだし商人にはこれがない。

 つまり『信用』がなければ重要な取引は任せてもらえないそうだ。


 どうしよう、私の身分で大丈夫かな?


「……とまあ、難しいことを言ってしまったが、誰でも最初は『信用』がないものなのだよ。一部、身元がしっかりしている者が重要な取引にも関われるくらいでね。それではお嬢さん、身分証を出してもらえるかな?」


「はい、これです」


 私はダルクウィン公爵様からいただいたラルク商会の孫娘という設定の身分証を差し出す。

 すると、おじさんは私の顔と身分証の絵姿を何度も確認し、身分証をなにかの装置みたいな物に当てたりしていた。

 そして身分証を私に返してくれると大急ぎで奥へと駆けだしていく。

 戻ってきた時にはミラーさんに似た三つボタンの『スーツ』というらしい服に身を包んだ男性と一緒にやってきた。


「ふむ。ミラー様、その身分証、本物ですよね?」


「もちろん本物です。照会されても問題ありません」


「わかりました。別室をご用意いたします。どうぞこちらへ」


 スーツを着た男性はカウンターから出て私たちを階段の方へと誘導してくれる。

 ミラーさんも付いていって大丈夫だと言っているし、本当に大丈夫なんだよね?

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