12. ダルクウィンの街へ

 全員分の荷物を積み込み、馬車に乗ってもらったらいよいよ出発だ。

 ダルクウィン公爵様お屋敷の門を抜けると貴族街が広がっており、そこにはたくさんのお屋敷と警備兵が立っている。

 私たちの方には視線だけ向けて微動だにしないあたり、一流の人たちなんだろう。

 やっぱりこの馬車は目立つだろうか?

 一応、ヴィンケルには普通の馬に見えるよう体に幻術をかけてもらっているのだけど。


 この魔法の馬車は、幌馬車のような荷台付きの箱馬車となっており、荷台部分も魔法のアイテム扱いで見た目より遙かに多いものを積み込むことが出来る。

 箱馬車の内部は言わずもがな屋敷のようになっていて、いまはミラーさんと一緒にお茶を飲みながら外の景色を眺めているところだ。

 外は護衛の4人だけに任せているけどいいんだろうか?


「いいのですよ。シエル様は必要なときだけ表に出て、あとはどんと構えていれば」


「はあ。それでいいんでしょうか、ミラーさん」


「それでいいんです。そのために私たちが派遣されたのですから」


 ともかく、そういうことらしい。


 やがて貴族門の内側と外側を隔てる検問所までたどり着いた。

 ここでは身分証や荷物のチェックを受けることになるんだけど、私の馬車は望まない人には普通の馬車と同じにしか見えないように出来るため問題にはならなかった。

 驚かれたのはやはり私の身分証で、ラルク商会の関係者というのは相当な権力を持つらしい。

 間違った事に使わないようにしないと。

 ちなみに他の人の身分証はミラーさんと貴族子女であるカルラさんは銀色の身分証、ほかの人たちは銅色の身分証だった。

 身分証の色で立場が変わることは知っているけど、下の方ってどれくらいまであるんだろう?


 ともかく、身元の確認と荷物の検査も終えたところで遂に私たちはダルクウィンの街に入った。

 正確には貴族街もダルクウィンの街なんだろうけど、雰囲気的にちょっとね。

 私は馬車の車窓から街並みを眺めてみる。

 どの建物もどっしりとしたレンガ積みになっており、重厚感がある。

 屋根は木造なのかな?

 あ、木造の建物もある。

 でも、どれもすごく堅牢というかどっしりしたイメージだ。

 なんでだろう?


「ミラーさん。この街の建物ってどうしてこんなに重厚そうな作りになっているんですか?」


「それでしたら気候にあわせた建物となっているためです。この地方は夏涼しく冬は非常に寒くなります。また、港街のため潮風にさらされ続けることにもなります。そのため、錆びやすく熱を逃がしやすい金属は基本的に使わず、熱を逃がしにくく潮風にも強い木造建築やレンガ建築になっております」


「へぇ。でも、釘とかは使うんじゃないですか?」


「釘を使わない工法で立てられている建物がほとんどですよ? いずれ後学のために見せていただくことにいたしましょう」


「はい! それで、いまこの馬車はどこに向かっているんですか?」


「現在、この馬車は商業ギルドに向かわせております。シエル様が商売を始めるにあたり商業ギルドの許可が必要です。その許可をいただきに参りましょう」


 そうだった。

 天翼族国家では商業ギルドに預かり金を預けるだけで行商人になれるんだった。

 商売をするんだから商人ギルドに加盟することは必須だよね。

 そうなると早く行って許可をもらわないと。

 元手となる資産はドラゴン様からいただいて来ているし問題なし。

 ただ、すぐに換金出来るかが問題だよね。

 どうしたものかな。


 ともかく、まずは商業ギルドに着いてから考えようか。

 いまあれこれ悩んでも始まらないしね。

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